のんこ

緑ノ革

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コウタ

コウタ2

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 それから毎日、学校が終わったら公園に行った。
 公園に行くと、いつも砂場の近くにのんこは立っていた。
 ぼくが手を振ると、のんこも手を振ってくれる。

 そして、ぼくとのんこは門限の五時ギリギリまで遊んでいた。

 いじめにはあっているけど、のんこと友達になってからは、落ち込むことも少なくなっている。

 のんこがいればいい。

 そう思っていた。



 のんこと出会ってから二週間経ったある日。

「おい、コウタ」

 砂場でのんこと遊んでいる時に、名前を呼ばれた。
 その声を聞いた瞬間、ぼくの体にぐっと力が入る。

 この声は、タイチの声だ。

 タイチは、ぼくをいじめているグループのリーダーだ。
 振り向くと、やっぱりタイチがいる。
 タイチは強い足取りでぼくに近付いて来た。

「の、のんこ」

 助けて欲しくて、ぼくはのんこの方を見る。
 だけど、そこにのんこはいなかった。
 さっきまで、一緒に遊んでたのに……。

 結局、のんこもぼくを助けてはくれないんだね。
 信じていたから、辛くて。
 目に涙が浮かんだ。

「一人で砂遊びかよ、気持ち悪い奴」

 タイチは鼻で笑った後、ぼくとのんこで作った砂の山を、思い切り蹴飛ばした。
 砂が顔にかかって、ぼくは目を閉じる。

「暗い、汚い、うざい、バイ菌、もう学校に来るな、ばーか」

 けらけら笑いながら、タイチはぼくに向かって砂を蹴った。
 ぼくは座り込んで、唇を噛む。

 辛い。
 苦しい。

 涙が流れ出して、鼻水が垂れる。

 その時だった。

「うわぁ! 何だよコイツ!」

 叫ぶようにタイチが言う。
 驚いてぼくがタイチの方を見ると、怯えるタイチを見下ろすのんこの姿があった。

「……のんこ?」

 ぼくが呟くように名前を呼ぶと、のんこはにんまり笑った後にタイチに向かって手を伸ばす。

「わっ! 来るな!」

 タイチはのんこを見ながら後退して、つまづいて砂の上にしりもちをつく。
 のんこはタイチを覗き込むように体を屈めて、赤い口を開いた。

「どどだぢ、ながぜう、ばるいやづ」

 のんこはそう言う。
 言葉は聞き取りづらかったが、のんこが言っている言葉をぼくは理解できる。

 のんこは。

『友達、泣かせる、わるいやつ』

 そう言っていた。

 次の瞬間、のんこは口を大きく開けて、タイチの頭に食らいつく。
 タイチの頭はすっぽりとのんこの口の中に収まり、タイチはもがいた。
 最初の内はばたばたと動いていたタイチだったけど、すぐに体の力が抜けて、だらんとなる。

 そして、のんこがタイチの頭をぺっと吐き出すと、タイチはその場に倒れてしまった。

 タイチが死んでしまった。

 そう思い、怖くなったぼくはパニックになって、のんこにお礼も言わずに逃げ出す。
 走って家に帰って、慌ててお母さんの所に行った。

「お母さん!」

 ぼくが呼ぶとお母さんは振り向いて、目を丸くする。

「あらコウタ、お帰り、どうしたの? そんな慌てて?」

 驚くお母さんの服を掴んで、ぼくは涙を流す。

「公園で、タイチが、タイチが死んじゃったんだ! のんこが殺しちゃったんだ!」

 そう言うと、お母さんは顔を青くしてぼくの肩を掴む。

「コウタはお留守番してて、お母さん公園に行ってくるから、いい? 絶対外に出ちゃだめよ?」

 お母さんは強い口調で言って、家を飛び出した。

 お母さんが出ていった後、ぼくはソファーに座って、ただ静かに震えていた。
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