のんこ

緑ノ革

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コウタ

コウタ3

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 一ヶ月後。

 ぼくは家から出られなくなっていた。
 結局、タイチは生きていた。

 ただ、噂では、タイチは恐ろしい体験のせいで、精神的に追い詰められ、言葉を喋れなくなって、学校にも行けなくなったらしい。

 家に警察も来て、公園で何があったのかと聞かれた。
 ぼくは正直にのんこの事を話したけれど、警察の人たちは一切信じてはくれなかった。
 何より、公園で一人で喋りながら遊ぶぼくの姿を見ていた人が何人もいて、警察の人はぼくの頭がおかしいと判断していたらしい。

 のんこは、ぼくを助けてくれた。

 そう。

 助けてくれたんだけど。

 今はのんこが怖くてたまらない。

 何かあったら、ぼくものんこに襲われるかもしれない。
 そう思うと、怖くて外に出られない。

「ただいま、コウター、ケーキ買って来たわよ」

 お母さんの声がする。
 ケーキなんて食べる気にならなかったけど、あまり心配をかけたくないから、部屋から出てリビングに向かう。

 リビングに入ると、ぼくは恐怖で目を見開いた。

「あ、コウタ、飲み物は牛乳でいい?」

 そう問い掛けてきたお母さんの真後ろに……のんこがいる。

 のんこは嬉しそうに笑う。

「どどだぢ、どどだぢ、ゆぎぃー、ゆぎぃー」

 のんこからは逃げられない。
 死ぬまでずっと……。

「あは……あはは」

 ぼくは笑いながら、のんこを見上げた。
 するとのんこは包丁立てから包丁を引き抜いて、無邪気な笑い声を上げながら、お母さんの首に包丁を突き立てる。

「へ?」

 何が起きたのかも分からなかったみたいで、目を見開いたお母さんはその場に倒れた。
 そして、のんこはぼくの方に来る。

「ずっど、どどだぢ、どどだぢぃ」

 のんこは手を伸ばし、ぼくを抱き締めた。
 ぼくの意識は遠くなって。

 ぼくは……のんこと、ひとつになった。
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