スピリティッドアウェイ

緑ノ革

文字の大きさ
3 / 9

スーパーマーケット

しおりを挟む
 翌日、仕事を休んだマイケルは、ジェシカが消えたスーパーマーケットに来ていた。
 ジェシカが消えてすぐの頃は、何度もここに来ていた。
 警察も連日捜査に来ていたが、今はもう、警察の影すら無い。
 
 当時、監視カメラの映像を警察が確認したが、警察からは映像には手掛かりになる部分は無かったとだけ伝えられ、マイケルは映像を見せてもらえなかった。
 その事がずっと引っ掛かっていたが、結局映像を見ることができないまま、五年が経っている。
 
 マイケルは車を降り、スーパーマーケットの中へと入った。
 昔に比べると、客の数は減ったように感じ、マイケルは苦笑する。
 
(この客の数じゃ、潰れるのも仕方ないか)
 
 そんな事を思いながら、マイケルはカートを取り、押して歩きだす。
 ここにジェシカの痕跡を求めているものの、いざ来たら何処を探せばいいのかがわからない。
 何度も来て、何度も探して、従業員の休憩室まで見せてもらった。
 
(もう、探す場所も無いよな)
 
 最後に来たのは三年前だ。
 その頃とは少し配置が変わった店内を、マイケルは歩く。
 何か買うべきだろう。
 そう考えて、マイケルは飲み物の並ぶエリアに来た。
 
(ジュースでも買うか)
 
 決めたマイケルの手は、自然とオレンジジュースに伸びる。
 ジェシカが大好きだったジュースだ。
 
 ジュースを手に取った時。
 
「ぱぱ」
 
 声がした。
 その声は、忘れもしない、ジェシカの声だとマイケルは気付く。
 マイケルは目を見開き、ジェシカの姿を求めて辺りを見回す。
 
 しかし、ジェシカの姿も、子どもの姿も無い。
 
(幻聴? でも、確かにあの声は……)
 
 マイケルが戸惑っていると、銀色の柱が目に入った。
 ポスターが貼られたその柱は、鏡ほど鮮明ではないが、マイケルの姿を映している。
 そのマイケルのすぐ隣に、子どもらしき影が映りこんでいた。
 
 驚いたマイケルは、すぐに自分の隣を見たが、そこには誰もいない。
 しかし、柱を見ると、そこには確実に子どもがいた。
 
 子どもの姿を鮮明に見ようと目を凝らすと、子どもの服装に気付く。
 その服は、ジェシカが消えたあの日、ジェシカが着ていた服とよく似ている。
 
「あ……あぁ、まさか」
 
 マイケルはふらふらと、柱に近づき、柱に触れると、ゆっくり映りこんでいる子どもの影を撫でた。
 
「ジェシカ?」
 
 マイケルが名前を呼ぶと、ジェシカらしき子どもがマイケルに近付いて来る。
 そして、小さな両手を伸ばした。
 それを見たマイケルは、膝を着いて子どもの手に自分の手を重ねる。
 
「ジェシカなんだな? ああ、ジェシカ」
 
 マイケルの目に涙が浮かぶ。
 五年前のあの日、突然姿を消した娘の姿がそこにある。
 あの時から全く変わっていない、幼いジェシカの姿に、マイケルは涙を流した。
 直接触れたくて、本来ならば居るであろう場所に手を伸ばす。
 
 しかしそこには何もいない。
 マイケルは悔しさから険しい顔になった。
 
「ぱぱ」
 
 また、ジェシカの声がする。
 
「なんだい? ジェシカ?」
 
 マイケルが問い掛けると、ジェシカはマイケルの手に自分の手を重ねた。
 すると不思議なことに、マイケルの手に小さな手の温もりが伝わる。
 マイケルが驚きに目を白黒させていると、柱から黒く長い、影のような立体感の無い手が伸びてきて、マイケルを掴んだ。
 
「……っ?!」
 
 声も出せないまま、マイケルの体が無数の手に包み込まれ、マイケルの体は柱の中へと飲み込まれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/6:『とんねるあんこう』の章を追加。2025/12/13の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/5:『ひとのえ』の章を追加。2025/12/12の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/4:『こうしゅうといれ』の章を追加。2025/12/11の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/3:『かがみのむこう』の章を追加。2025/12/10の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/2:『へびくび』の章を追加。2025/12/9の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/1:『はえ』の章を追加。2025/12/8の朝4時頃より公開開始予定。 2025/11/30:『かべにかおあり』の章を追加。2025/12/7の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

『大人の恋の歩き方』

設楽理沙
現代文学
初回連載2018年3月1日~2018年6月29日 ――――――― 予定外に家に帰ると同棲している相手が見知らぬ女性(おんな)と 合体しているところを見てしまい~の、web上で"Help Meィィ~"と 号泣する主人公。そんな彼女を混乱の中から助け出してくれたのは ☆---誰ぁれ?----★ そして 主人公を翻弄したCoolな同棲相手の 予想外に波乱万丈なその後は? *☆*――*☆*――*☆*――*☆*    ☆.。.:*Have Fun!.。.:*☆

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...