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第3章

ご厚意感謝致します

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 牢屋の中から外を覗きます。鉄格子と金網の向こう側にカウンターがあって、そこで何人かの警察官が勤務していました。

「すいませ~ん。職場に連絡をとって下さい。このままだと無断欠勤になってしまいます」大声で何度も頼みました。遠くから応答がありました。

「分かった。電話してあげるから待ってて」

 しばらくすると昨夜、寝る前に声をかけてくれた人の良さそうな警察官が、傍にやって来てくれました。

「連絡しといたよ。女性の方が電話に出て『分かりました』と言ってくれたらから、もう大丈夫だよ」

「ありがとうございました。ご厚意感謝致します!」

 大声で謝意を述べ深々とお辞儀しました。警察官はちょっと照れた仕草をみせていました。大将(同室の40歳代前半の男性に私が付けたニックネーム)がささやきます。

「ここは軍隊ではないんだから、そういう言い方しなくていいんだよ」



 朝食を食べ終わると健康診断がありました。体重を図ると着衣のままでしたから55㎏。服を脱げば53㎏ぐらいでしょうね。

 次にドクターから健康状態を聞かれました。

「前立腺肥大と蓄膿症。それから不眠症なので薬を出して欲しい」と私。

「薬の名前は何? それが分からないと薬は出せないんだよ」

 病院に通って処方箋を書いてもらい、薬局で薬をもらっていたのですが、薬の名前なんて憶えていません。分からないと言うとそれでは薬は出せないとのこと。

 以前、大学で法律を学んでいた私は刑事訴訟法の授業で、勾留中の被疑者に適合した薬を提供せず、被疑者を苦しめて自白を強要させた事案を学習したことがあるのですが、まさか自分が同じ目に遭わされるとは思いもしませんでした。

 それでも何とか粘って睡眠導入薬だけは提供してもらえることになりました。

(持病があるのに薬が無くて俺、大丈夫かなぁ)

 自分の体が、冷たい海の底へ沈んでいくような感覚に襲われました。
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