浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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ケット又

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そこだけ周囲の建物と年代がかなり違うようなビルには、猫が一匹住んでいた。
飼い主、猫が主人と呼ぶ人がビルには住んでいて、主人がコーヒーを入れると必ず、中に入れてくれとトントンしてくる。
が、その日は何だか違ったのだ。
「おはよう」
挨拶をすると。
「おはようございます、ご主人」
喋った。
「猫又にでもなったのか?」
「私はケットシーが親におりますので、それで少しばかり猫よりは寿命がありましたが、それでもですね」
「じゃあ、お別れなのかい?」
「いえ、ケット又(けっとまた)になることにしました」
「何にせよ、長生きしてくれるのならば嬉しいよ」
「そうなのですが、この後研修で一時離れることになりまして」
「研修?」
「はい、ケット又として生きるために鍛えられ、晴れてケットシ又になれるんです」
「一時ってどれぐらい?」
「二年です」
「二年…」
「はい、それでそこはスマホも禁止なので、二年ここを離れることになります」
「二年か」
「猫には二年は悠久ですが、人であるご主人ならばそうでもないのでは?」
「君に会えなくなるのはとても寂しいんだよ」
「本当は相談してからにしようと思ってましたが、そうはいかなくて」
「何があったんだい?」
「先日死神たちががご主人様のお迎えを話していたので」
じゃあ、金曜日の夜にってことで。
楽しい気分でいるときに、死を届けるって最高だね。
「死神は情け深いものといってましたが、そんな奴がご主人の担当だったことに怒りを覚え、ケット又ならばその死相を変えれましたので」
「俺が死ぬところだったな」
「おそらくは、信じられないかもしれませんが、死神は淡々と死を運びますからね、これが私がケットシーの血を引く猫から、ケット又になろうと思った敬意です、二年、そしたらまた参ります」
「待ってる」
「それではお元気で」
しかしだ、そのケット又は連絡は出来なくても便りの代わりに、近所の酒屋さんから毎月一回研修先の銘酒とおつまみを主人に届ける契約をしていたのだ。
「最初はニャーン言ってた猫が、いきなり話初めてビックリしましたね、でもケット又ってゴロ悪くありませんか?」
「それはお前もそう思う」
お酒を口にするたびに、あいつと今頃頑張っているんだろうなって思っていたが、月日は流れ。
「これで最後のお酒です」
「そうか、いつ帰ってくるんだろうね」
そんな話を宅配してくれた酒屋さんと話をしていると。
「お待たせしました」
その話にケット又ともう一匹猫がいた。
「お久しぶりです、ご主人、そして酒屋さんもありがとうございます、ああ、そしてこちらがその向こうで知り合いまして、結婚をしようとしている娘さんなんです」

そういって照れながら、いつもより慌てながら説明をすると、相手は「ニャーン」と鳴いた。
「おめでとう」
「いきなり賑やかになるね」
良かったという顔をしていた。
その後、ビルには猫が二匹住むことになったが。
「実は彼女はケット又ではありませんから、生きる時間は違います、でもどうしても共に生きたかったのです」
 覚悟の上。
一人と二匹の時間はずっと続いてほしいと思っていた。

「懐かしい話ですよ、KCJさん、私が亡くなった後は主人のご親戚にこの建物などの権利は渡ることにはなっていますが、その先についてはお任せしますよ、さすがに古いですから、その人の足手まといになるのはいかがなものかと思いまして」
「実はその事なのですが」
「?」
するとその親戚は金銭トラブルを起こして、今すぐにでも現金が必要だということ、そしてどうせ継ぐならば今欲しいとか、とんでもないことを考えているとKCJの情報局の職員は教えてくれた。
「現金ならば…」
いくらかと思ったが。
「あっ、それそのまま出させるつもりなので話聞いたらダメですね」
「ど、ど、どうすれば」
「ああ、そうですね、現金がほしいから安くても売ろうにも揉めますからね、一度売った相手にご迷惑をかけそうなので、普通の人は買わないかもしれないので、ちょっとその辺が対処できそうな人にこちらから話を持ちかけましょうか」
結局まずKCJが権利を買うことになった。
「申し訳ない」
「いえ構いませんよ、これでこのビルについての売買、あなたが生きている間に気に入った人が来たら、お任せしますし、お亡くなりなってもKCJが所有になるので、うちの支部長のことですよ」
ああ、この階段いい!この階段、毎日登り降りしたい!
「階段がお好きなんですか?」
「怪談よりは怪談が好きな人なんですが、骨董に興味がある人で、自宅もそういう家にしたかったんですよ、ご家族から家具が置けない、寒い、ギシギシがひどすぎるといって反対されましたからね」
「そういう人はいますからね、でもこればっかりはしょうがない」
「なのでたまに支部長が階段を自由に昇り下りしているのだけは多目に見てもらえば」
「…わかりました」
手摺り最高だよ、ああ、もったいなくて触れないけどもと悶えている姿はケット又も見てしまったので、そのまま見ないことにした。
「ああ、そういえばこのビルを見たいという方がおられまして、KCJの戦闘許可証も所有なされている方なのですが」
ある程度条件は伝えてあるので、それを抑えた人ならばいいのではないかと思うと、約束の時間の少し前に、駐車場に見慣れる車がとまる。
その車を見たら、ケット又は自分の主人のことを思い出した。
今では生産されていない、クーちゃんとかいう車だ。
「はじめまして」
「どうも、このビルに興味があるとは」
「はい、昔家族でドライブしたときにも見てましたし、昔一階にbarがありましたよね、成人してから父と飲みましたし」
「懐かしいですね、あのbarのマスターはお子さんが生まれることになって、自分の家を建てることにしたのでお引っ越ししたんですよ」
「今はそちらはレストランになってますよ、息子さんが修行なされて、ホテルかな、帰ってきて」
「そうなのですか、あまりこのビルから出ませんから、そうですか、そうですか」
この人は空き部屋がビルにあると知ると、次のアパートの更新はしないで、出来れば引っ越したいともいっていた。
「結構なボロですから、それで良ければどうぞ」
ケット又のお許しを得て、彼はその後まずは引っ越しすることにした。
生活を見て、これはもう先にビルの所有者になってもらおうか?とも思ったが、嬉しいけども、彼は気が変わるといけないからとやんわりと断ると、ケット又はそこも気に入った。
最近、ケット又は日課が一つ変わった。
「じゃあ行くよ」
これから行くのはKCJの整備だ。戦闘許可証持ちゆえにそういう仕事で出掛けるときもあるけども、そうではないときはこうしてKCJの支部まで一緒に乗せてもらい、向こうで給油や洗車などを行い、その後用意してもらったコーヒーをもらい、そのままビルに帰ってくる。
「コーヒーは好きなんだけども、自分で淹れるのは下手なんだよ」
そういって、そのコーヒーを部屋で飲む。
「部屋にずっといてもいいのに」
「そこは親しき仲にもエチケットですよ」
もう少しこの一人と一匹の生活は続きそうだが。
「はっ!」
「どうしたの?」
主人と仲良くしていたら、嫁からの冷たい視線をもらったことがあるのだが、今、それを感じた。
浮気ではないから!
違うから!
こういうこともあったが、私はとても幸せである。
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