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秘密 1
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駅前派出所の木下巡査は、ビニール袋内に保管された礼子のスマートフォンを大木に手渡した。
「ご苦労様です、被害者のスマホはこちらです。カバーがされていますし、素手で扱っていたので、犯人の指紋が出てくれるかどうか……」
デニム生地のカバーからでは、確かに指紋の検出は難しい。ゴミ箱から発見されてから、天野 礼子のものだと確認される迄に何人かの手を渡っていた。
「巡査は、ここから発見現場に急行したんだよな」
大木が尋ねた。
「はい、目の前のビルだっただけにショックでした。重要参考人の車が、そこに駐車されていたとは……」
木下は、派出所から左手に見える駐車場を指差しながら、ため息をついた。
「しかも、伊豆箱根バス乗り場のゴミ箱とは、派出所の前を歩いていたかも知れないということなんですよね……」
50メートル程右側にあるバス停を見つめ、苦虫を噛み潰す。
「気持ちは解る。こいつが突破口になることを祈っていてくれ」
大木はスマホを鞄にしまいながら、木下に目配せした。
署を出る前に連絡しておいた為か、駅内の忘れ物預り所に行くと、発見した清掃員が待っていてくれた。中年女性で、構内の清掃業務が主な仕事だという。田中と名乗った。
「スマートフォンを見つけたのは、何時頃でしたか」
「出勤して直ぐでしたから、7時過ぎ……くらいでした」
顎《あご》に指を当てながら、少し緊張ぎみに話した。
「通常業務は構内の清掃なんですが、出勤時と業務終了時に外のゴミ集めをします」
「外トイレの脇にある、鉄製の丸いゴミ箱ですよね」
「はいそうです」
「ゴミ箱には、どのような感じで捨てられていたんですか」
「どのような、と言われましても……最初はスマホが捨ててあるとは思いませんでした」
「と、言いますと」
「見えてなかったんです。新聞紙やら週刊誌なんかが捨てられていて、それらを持ち上げたら、ぽろっと落ちてきたんです」
「ゴミは多かったんですか」
「いいえ、そんなには。近くにジュースの自販機がありますから、空き缶やペットボトルは、そちらの専用のゴミ箱に捨てられますので」
少し考えてから、
「間違えて捨ててしまったのかしら……と思ったんです。雑誌や新聞紙に挟んだまま、忘れてしまったのかと。綺麗なカバーもしてあったし」と、田中は付け加えた。
(確かにそうかも知れない、警部の違和感はそこにあったんだろう。犯人が捨てたのだとしたら、こんな犯行現場の近くには捨てないはずだ。あの時の警部の反応はそれを示唆していた。自分もそれを感じた……だから今、ここにいる)
「週刊誌……」
大木は呟いた。
「ゴミ箱に入っていた週刊誌を覚えていますか」
「えっ、余り気にしませんでしたが……うーん、たしか、マンガと……女性向けの週刊誌だったかしら」
「覚えていませんか、表紙の写真とか」
「そうねぇ、表紙は誰だったかしら、うーん……誰か女優さんだったような……」
大木は瞬間的に立ち上がると、
「ちょっとそこのコンビニ迄、一緒に行って頂けますか、お願いします」
と、田中に頭を下げた。田中は同席した駅員の顔色を伺っている。
「いいですよ田中さん。行ってくれば」
駅員は促した。
大木は直ぐに三島署に連絡を入れ、コンサートに同伴した男が購入した週刊誌の名前を確認次第、折り返すよう指示を出した。
殺人現場一階のコンビニに着くと、入り口右手の雑誌コーナーの前に田中を案内し、
「この中に、捨てられていたものと同じ週刊誌がありますかね」
と、数冊ある中から、ゴミ箱にあった雑誌を思い出して貰う。
「……あぁ、ごめんなさいね。わからないわ」
暫く見渡した後、申し訳なさそうに答えた。
署からの連絡で、購入されたものは女性誌であり、雑誌コーナーにも置かれていた。 田中にそれを見せても確信は持てないと言う。
(これ以上は無理か……)
田中に礼を言うと三島署に向かった。
(田中の言うように、雑誌にスマホを挟んだまま忘れて捨ててしまった……何時捨てたのか、誰が捨てたのか。犯人が捨てたのなら犯行の前か後か……)
車中、大木は思いを巡らせていた。
(警部の違和感は、捨てたという表現に疑問符を付けたもの……そうだ、犯人が捨てるなら現場から離れた場所、発見されない海や川、いや、そもそも捨てやしない、捨てたのではない。隠したのか……それでは同じだ。ではなんだ……置いた、置いたのか。誰が、何の為に……)
車を路肩に止め、鞄から礼子のスマホを取り出すとバッテリー残量を確認した。60%程残っている。
(電源を切ってから置いたのか……そこに何かしらの目的があるとしたら……)
大木はあらためて、新見の洞察に敬意をはらった。
「ご苦労様です、被害者のスマホはこちらです。カバーがされていますし、素手で扱っていたので、犯人の指紋が出てくれるかどうか……」
デニム生地のカバーからでは、確かに指紋の検出は難しい。ゴミ箱から発見されてから、天野 礼子のものだと確認される迄に何人かの手を渡っていた。
「巡査は、ここから発見現場に急行したんだよな」
大木が尋ねた。
「はい、目の前のビルだっただけにショックでした。重要参考人の車が、そこに駐車されていたとは……」
木下は、派出所から左手に見える駐車場を指差しながら、ため息をついた。
「しかも、伊豆箱根バス乗り場のゴミ箱とは、派出所の前を歩いていたかも知れないということなんですよね……」
50メートル程右側にあるバス停を見つめ、苦虫を噛み潰す。
「気持ちは解る。こいつが突破口になることを祈っていてくれ」
大木はスマホを鞄にしまいながら、木下に目配せした。
署を出る前に連絡しておいた為か、駅内の忘れ物預り所に行くと、発見した清掃員が待っていてくれた。中年女性で、構内の清掃業務が主な仕事だという。田中と名乗った。
「スマートフォンを見つけたのは、何時頃でしたか」
「出勤して直ぐでしたから、7時過ぎ……くらいでした」
顎《あご》に指を当てながら、少し緊張ぎみに話した。
「通常業務は構内の清掃なんですが、出勤時と業務終了時に外のゴミ集めをします」
「外トイレの脇にある、鉄製の丸いゴミ箱ですよね」
「はいそうです」
「ゴミ箱には、どのような感じで捨てられていたんですか」
「どのような、と言われましても……最初はスマホが捨ててあるとは思いませんでした」
「と、言いますと」
「見えてなかったんです。新聞紙やら週刊誌なんかが捨てられていて、それらを持ち上げたら、ぽろっと落ちてきたんです」
「ゴミは多かったんですか」
「いいえ、そんなには。近くにジュースの自販機がありますから、空き缶やペットボトルは、そちらの専用のゴミ箱に捨てられますので」
少し考えてから、
「間違えて捨ててしまったのかしら……と思ったんです。雑誌や新聞紙に挟んだまま、忘れてしまったのかと。綺麗なカバーもしてあったし」と、田中は付け加えた。
(確かにそうかも知れない、警部の違和感はそこにあったんだろう。犯人が捨てたのだとしたら、こんな犯行現場の近くには捨てないはずだ。あの時の警部の反応はそれを示唆していた。自分もそれを感じた……だから今、ここにいる)
「週刊誌……」
大木は呟いた。
「ゴミ箱に入っていた週刊誌を覚えていますか」
「えっ、余り気にしませんでしたが……うーん、たしか、マンガと……女性向けの週刊誌だったかしら」
「覚えていませんか、表紙の写真とか」
「そうねぇ、表紙は誰だったかしら、うーん……誰か女優さんだったような……」
大木は瞬間的に立ち上がると、
「ちょっとそこのコンビニ迄、一緒に行って頂けますか、お願いします」
と、田中に頭を下げた。田中は同席した駅員の顔色を伺っている。
「いいですよ田中さん。行ってくれば」
駅員は促した。
大木は直ぐに三島署に連絡を入れ、コンサートに同伴した男が購入した週刊誌の名前を確認次第、折り返すよう指示を出した。
殺人現場一階のコンビニに着くと、入り口右手の雑誌コーナーの前に田中を案内し、
「この中に、捨てられていたものと同じ週刊誌がありますかね」
と、数冊ある中から、ゴミ箱にあった雑誌を思い出して貰う。
「……あぁ、ごめんなさいね。わからないわ」
暫く見渡した後、申し訳なさそうに答えた。
署からの連絡で、購入されたものは女性誌であり、雑誌コーナーにも置かれていた。 田中にそれを見せても確信は持てないと言う。
(これ以上は無理か……)
田中に礼を言うと三島署に向かった。
(田中の言うように、雑誌にスマホを挟んだまま忘れて捨ててしまった……何時捨てたのか、誰が捨てたのか。犯人が捨てたのなら犯行の前か後か……)
車中、大木は思いを巡らせていた。
(警部の違和感は、捨てたという表現に疑問符を付けたもの……そうだ、犯人が捨てるなら現場から離れた場所、発見されない海や川、いや、そもそも捨てやしない、捨てたのではない。隠したのか……それでは同じだ。ではなんだ……置いた、置いたのか。誰が、何の為に……)
車を路肩に止め、鞄から礼子のスマホを取り出すとバッテリー残量を確認した。60%程残っている。
(電源を切ってから置いたのか……そこに何かしらの目的があるとしたら……)
大木はあらためて、新見の洞察に敬意をはらった。
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