36 / 60
生と死の欲動 6
しおりを挟む
「新見くんは優しいね」
「また、それを言うのか」
真由理の軽くウェーブがかった艶やかな黒髪に顔を埋めながら、新見は苦笑いをした。
「君は見た目よりワイルドだ。僕よりも刑事らしい」
「ふふ、そうかもね。でもね、わたしは自由でいたいの。刑事をしていたら小説なんて書けないもの、それに新見くんのように強くない」
「僕が強いって、その言葉はそのまま君に返すとしよう」
優しく髪を撫でながらキスをした。真由理は目を閉じると、新見の優しさを遮るかのように、情熱的にそれに応える……
甘く官能的な時間が流れた後、真由理はそっと新見に告げた。
「パリに行くわ。芸術の都で本を書いてみたいの。新見くんも三島から居なくなっちゃうし……」
「なにを……出向異動と言っても神奈川だ。箱根を越えればすぐ会える」
「ううん、もう決めたの。向こうに大学時代の友人が居るから、彼女を頼るつもり」
「……決めたのか……」
「ごめんね、強くないのよ。わたしにとっては、たとえ箱根の山でも高いし険し過ぎる。会えなくて辛い日々を過ごすのなら、いっそ、空しさを諦められるくらい、遠い方がいい……」
「……行かないでくれ、と言ったら」
「だめよ。……新見くんはもっと上を目指さなきゃ、それが出来る人だから。今は仕事に集中しなければいけない時期よ。それにわたしにも夢がある……お互いにとって良いタイミングね」
真由理は、絹のガウンを肩に羽織るとベッドから降り、長ソファーにゆっくりと腰を落とした。ガウンのはためきがパヒュームを巻き込みながら、ひんやりと乾いた風を新見の胸もとに送り込む。
「行かないでくれ」
真由理の背中に声を掛ける。
「行かないで、くれ……」
ポツポツ…………
(雨か……眠ってしまったのか……)
車内のデジタル時計を確認すると正午を回っていた。
「すまなかった。パスワード解析の進捗はどんなだ」
会議室に戻ると直ぐに大木に確認した。
「警部お疲れ様です。ユーザーIDよりも一桁少ないようで、もうすぐ解析が終了しそうです」
「それは良かった。ところで川村さんと原田さんは」
「今日は仕出しが休みなものですから、食事に出掛けています」
「いつもの『砂場』かな、私もこっちにいる内に食べに行きたいな。あそこの手打ちは格別だ」
「でも川村さんは胃潰瘍でしょ。蕎麦は大丈夫なのかなぁ」
「まぁ、自分で加減するだろう。それに蕎麦湯は昔から、胃腸の調整にいいようだ。なんだか食べたくなってきた」
「あぁ警部、あとでご一緒しましょうか。今日は天ざるって気分かな」
「わかった。ご馳走しよう」
「うっひょー、ありがとうございます」
大木は大袈裟にはしゃいでみせる。
「気を遣わせた、悪かったな...」
「…………」
ボソッと呟く新見に、大木は少し目頭が熱くなるのを感じた。
「……警部、鑑識課に確認してきます。そろそろかと」
そう言うと大木は、足早に会議室を出て行った。
新見はゆっくりとデスクの椅子に腰をかけ、先程の夢の続きに想いを馳せる。
(なぜあんな夢を……彼女はすでに遠い存在だ。だがしかし、確実にここに居る)
新見は静かに目を瞑り、胸もとに右掌を当てた。
「また、それを言うのか」
真由理の軽くウェーブがかった艶やかな黒髪に顔を埋めながら、新見は苦笑いをした。
「君は見た目よりワイルドだ。僕よりも刑事らしい」
「ふふ、そうかもね。でもね、わたしは自由でいたいの。刑事をしていたら小説なんて書けないもの、それに新見くんのように強くない」
「僕が強いって、その言葉はそのまま君に返すとしよう」
優しく髪を撫でながらキスをした。真由理は目を閉じると、新見の優しさを遮るかのように、情熱的にそれに応える……
甘く官能的な時間が流れた後、真由理はそっと新見に告げた。
「パリに行くわ。芸術の都で本を書いてみたいの。新見くんも三島から居なくなっちゃうし……」
「なにを……出向異動と言っても神奈川だ。箱根を越えればすぐ会える」
「ううん、もう決めたの。向こうに大学時代の友人が居るから、彼女を頼るつもり」
「……決めたのか……」
「ごめんね、強くないのよ。わたしにとっては、たとえ箱根の山でも高いし険し過ぎる。会えなくて辛い日々を過ごすのなら、いっそ、空しさを諦められるくらい、遠い方がいい……」
「……行かないでくれ、と言ったら」
「だめよ。……新見くんはもっと上を目指さなきゃ、それが出来る人だから。今は仕事に集中しなければいけない時期よ。それにわたしにも夢がある……お互いにとって良いタイミングね」
真由理は、絹のガウンを肩に羽織るとベッドから降り、長ソファーにゆっくりと腰を落とした。ガウンのはためきがパヒュームを巻き込みながら、ひんやりと乾いた風を新見の胸もとに送り込む。
「行かないでくれ」
真由理の背中に声を掛ける。
「行かないで、くれ……」
ポツポツ…………
(雨か……眠ってしまったのか……)
車内のデジタル時計を確認すると正午を回っていた。
「すまなかった。パスワード解析の進捗はどんなだ」
会議室に戻ると直ぐに大木に確認した。
「警部お疲れ様です。ユーザーIDよりも一桁少ないようで、もうすぐ解析が終了しそうです」
「それは良かった。ところで川村さんと原田さんは」
「今日は仕出しが休みなものですから、食事に出掛けています」
「いつもの『砂場』かな、私もこっちにいる内に食べに行きたいな。あそこの手打ちは格別だ」
「でも川村さんは胃潰瘍でしょ。蕎麦は大丈夫なのかなぁ」
「まぁ、自分で加減するだろう。それに蕎麦湯は昔から、胃腸の調整にいいようだ。なんだか食べたくなってきた」
「あぁ警部、あとでご一緒しましょうか。今日は天ざるって気分かな」
「わかった。ご馳走しよう」
「うっひょー、ありがとうございます」
大木は大袈裟にはしゃいでみせる。
「気を遣わせた、悪かったな...」
「…………」
ボソッと呟く新見に、大木は少し目頭が熱くなるのを感じた。
「……警部、鑑識課に確認してきます。そろそろかと」
そう言うと大木は、足早に会議室を出て行った。
新見はゆっくりとデスクの椅子に腰をかけ、先程の夢の続きに想いを馳せる。
(なぜあんな夢を……彼女はすでに遠い存在だ。だがしかし、確実にここに居る)
新見は静かに目を瞑り、胸もとに右掌を当てた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる