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第百六十四話
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月明かりに照らされる夜の貧民街に、五つの人影があった。
紫色の肌をもつ魔族。
彼らは足元に転がっている死体を、見下ろし、声を顰めて会話をしている。
『役立たずめ…やはり死んだか…』
『どのみち、利用した後は殺すつもりだったからまあいいだろう』
『しかし…あのルクスという人間…危険だ…」
『ああ…まさか人間でありながら我らが魔族の技を習得するとは…』
『第七皇子ルクス・エルド。あの男について、調査が必要だ』
『それよりも、“装置”はどうなった?』
『確認をしたが、どうやら壊されていたようだった。まだ生きていた人間は助け出された。エルフの女も救出されたようだ』
『そうか…惜しかったな』
『おそらく帝国政府の情報機関がすでに我らの動きに気づいていたのだろう…』
『人間どもの情報収集能力は侮れない』
『しかし…魔力の方は随分集まった…』
『ああ…あの方の復活まで、もう少しの辛抱だ…』
『あの方が復活すれば…ルクス・エルドであろうと、帝国軍であろうと…我らには叶わない…』
『あの方の復活と共に、我ら魔族の人族に対する全面戦争が始まる…胸が高鳴るな…』
『ククク…人間ども…駆逐してやる。この大地から』
『世界は我らが魔族の手に…』
その後、五人の魔族は互いに顔を見合わせて頷き、バラバラの方向へと消えていった。
夜の貧民街は、それきりひっそりと静まり返っていた。
「そうか。ルクスはあのエルフを助け出したか」
皇居の中心。
玉座に腰を下ろす皇帝ガレスが、情報機関の工作員から報告を受けていた。
皇帝の助言を受けたルクスが、魔族のアジトを突き止めたこと。
攫われたエルフの姫君が助け出されたこと。
そして国外追放となったデーブ・エルドの死も皇帝に報告された。
「魔族の血を取り入れたデーブとルクス様が好戦。結果はルクス様の勝利となりデーブはその場で始末されました」
「ふふふ…復讐のために舞い戻ってきたことは知っていたが、2度も負けるとは。つくづく道化だな。私の息子とは思えん。まぁ道化役として楽しませてはくれたがな」
「ルクス様はどうやら、魔法使いとして次のステージへと至ったようです。戦いを監視していましたが、魔族の血を取り入れ、あの奇怪な魔法技術を会得したデーブを、ルクス様は圧倒していました」
「ほう、ルクスはまだ強くなるのか」
「はい…ルクス様の魔法使いとしての素質は計り知れません。一体どこまで強くなるのか…」
「ふふふ…楽しませてくれるじゃないかルクス。まさか魔族の魔法技術体系を会得してしまうとはな」
「ルクス様はデーブを殺害した後、魔族のアジトへ侵入。ルナミリア様を助け出し、魔族たちの“装置”を破壊したそうです。そして“装置”に囚われていた帝国民150人が解放されました」
「装置か…帝国民が囚われていたということだが、一体どういうものなのだ?」
「跡地を魔法研究員によって調べさせたところ、どうやら魔族どもが作っているのは、魔力を人から吸い出し、増幅する“魔力増幅装置”のようです」
「魔力増幅装置…そんなものを作って何になるというのだ?」
「わかりません。しかし、魔族がよからぬことを企んでいるのは事実です。おそらく同様の拠点が帝都のどこかに複数箇所、点在いているものと思います。そこで彼らは帝国民を拉致し、魔力を集めているのでしょう」
「気に食わないな…そろそろ本格的に動くか。魔族の掃討に」
「そのほうがよろしいかと」
皇帝ガレスは、自らの立派な髭を撫でる。
「どうせならルクスや他の皇子たちを使ってやるか。あやつらが魔族に対してどう対抗するか、見極めようじゃないか。いい試練になる。面白いものが見れるぞ。ふふふ」
ガレスの面白くてたまらないといった笑い声が、皇居に響き渡るのだった。
月明かりに照らされる夜の貧民街に、五つの人影があった。
紫色の肌をもつ魔族。
彼らは足元に転がっている死体を、見下ろし、声を顰めて会話をしている。
『役立たずめ…やはり死んだか…』
『どのみち、利用した後は殺すつもりだったからまあいいだろう』
『しかし…あのルクスという人間…危険だ…」
『ああ…まさか人間でありながら我らが魔族の技を習得するとは…』
『第七皇子ルクス・エルド。あの男について、調査が必要だ』
『それよりも、“装置”はどうなった?』
『確認をしたが、どうやら壊されていたようだった。まだ生きていた人間は助け出された。エルフの女も救出されたようだ』
『そうか…惜しかったな』
『おそらく帝国政府の情報機関がすでに我らの動きに気づいていたのだろう…』
『人間どもの情報収集能力は侮れない』
『しかし…魔力の方は随分集まった…』
『ああ…あの方の復活まで、もう少しの辛抱だ…』
『あの方が復活すれば…ルクス・エルドであろうと、帝国軍であろうと…我らには叶わない…』
『あの方の復活と共に、我ら魔族の人族に対する全面戦争が始まる…胸が高鳴るな…』
『ククク…人間ども…駆逐してやる。この大地から』
『世界は我らが魔族の手に…』
その後、五人の魔族は互いに顔を見合わせて頷き、バラバラの方向へと消えていった。
夜の貧民街は、それきりひっそりと静まり返っていた。
「そうか。ルクスはあのエルフを助け出したか」
皇居の中心。
玉座に腰を下ろす皇帝ガレスが、情報機関の工作員から報告を受けていた。
皇帝の助言を受けたルクスが、魔族のアジトを突き止めたこと。
攫われたエルフの姫君が助け出されたこと。
そして国外追放となったデーブ・エルドの死も皇帝に報告された。
「魔族の血を取り入れたデーブとルクス様が好戦。結果はルクス様の勝利となりデーブはその場で始末されました」
「ふふふ…復讐のために舞い戻ってきたことは知っていたが、2度も負けるとは。つくづく道化だな。私の息子とは思えん。まぁ道化役として楽しませてはくれたがな」
「ルクス様はどうやら、魔法使いとして次のステージへと至ったようです。戦いを監視していましたが、魔族の血を取り入れ、あの奇怪な魔法技術を会得したデーブを、ルクス様は圧倒していました」
「ほう、ルクスはまだ強くなるのか」
「はい…ルクス様の魔法使いとしての素質は計り知れません。一体どこまで強くなるのか…」
「ふふふ…楽しませてくれるじゃないかルクス。まさか魔族の魔法技術体系を会得してしまうとはな」
「ルクス様はデーブを殺害した後、魔族のアジトへ侵入。ルナミリア様を助け出し、魔族たちの“装置”を破壊したそうです。そして“装置”に囚われていた帝国民150人が解放されました」
「装置か…帝国民が囚われていたということだが、一体どういうものなのだ?」
「跡地を魔法研究員によって調べさせたところ、どうやら魔族どもが作っているのは、魔力を人から吸い出し、増幅する“魔力増幅装置”のようです」
「魔力増幅装置…そんなものを作って何になるというのだ?」
「わかりません。しかし、魔族がよからぬことを企んでいるのは事実です。おそらく同様の拠点が帝都のどこかに複数箇所、点在いているものと思います。そこで彼らは帝国民を拉致し、魔力を集めているのでしょう」
「気に食わないな…そろそろ本格的に動くか。魔族の掃討に」
「そのほうがよろしいかと」
皇帝ガレスは、自らの立派な髭を撫でる。
「どうせならルクスや他の皇子たちを使ってやるか。あやつらが魔族に対してどう対抗するか、見極めようじゃないか。いい試練になる。面白いものが見れるぞ。ふふふ」
ガレスの面白くてたまらないといった笑い声が、皇居に響き渡るのだった。
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