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第五十話

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「ごめんねぇ、黒崎さん。君を助けるのが随分遅れちゃってぇ」

「…っ」

「でも、もう大丈夫だからね?君は僕が守るから僕の最強の力があれば、この世界を生き抜くなんて簡単だからね?もう何も心配いらないよ?」

「…っ」

「僕がこの力で命令すれば、あのカテリーナとかいう女も簡単に従わせられるからね。案外簡単に日本に帰れるかもね」

「…っ」

「日本に帰ったら結婚しようね、黒崎さん。あ、それとも、この世界で僕と暮らすのがいい?どっちがいいかな?君が選んでいいよ」

「…っ」

幸雄が麗子の手を弾きながらダンジョンの暗い通路を歩いている。

幸雄は、ようやく目当ての女が手に入ったことで非常に上機嫌となり、色々猫撫で声で麗子に話しかけたりしている。

麗子は返事をしなかった。

それは、幸雄が何を仕出かすかわからないことに対する恐怖が半分。

そして、幸雄に対する嫌悪が半分と言ったところだった。

麗子は幸雄が上機嫌でしゃべっている間、どうやってこの場を逃れたらいいのかについて考えていた。

だが、今の所幸雄から逃れる方法などは思いつかなかった。

幸雄にはドミネーターのスキルがある。

ドミネーターは、無条件に、そして無制限に他人を従わせることのできるスキルだ。

この強力すぎるスキルから麗子が逃れる手段はなかった。

…それに、この状況で幸雄の元から逃げ出すのはあまり得策とも言えなかった。

現在はダンジョンの中で、そこらじゅうにモンスターが徘徊している危険地帯を麗子たちは歩いていた。

麗子のもつスキルは、戦闘系とは言い難く、モンスターに襲われた際に対処できない。

ダンジョンを生きて抜けるには、どうしても幸雄について行かざるをえなかった。

「ねぇ、黒崎さん。子供は何人欲しいかな?今のうちに考えておこうよ」

「…」

「僕は男の子と女の子一人ずつがいいな。やっぱり両方いた方がいいよね」

「…」

「ふふふ…僕と黒崎さんの子供だからきっと可愛いよね」

「…?」

不意に麗子が顔をあげた。

幸雄の嫌悪を抱かざるをえない会話に抗議の声を上げようとした…わけではなかった。

前方になんらかの気配を感じたからだった。

『グギィイイイイ!!!』

『グギッ!グギッ!!!』

それは、以前に見たことのある緑色のモンスターだった。

緑色の皮膚。

ガリガリの胴体。

ギョロついている眼球。

吐き気を催すような見た目のそのモンスターは、麗子たちがこの町に辿り着く前の森で遭遇したモンスターだった。

だが、あの時と全く同じというわけでもない。

今麗子たちの眼前にいるそのモンスターは、醜悪な見た目はそのままに、体の大きさが二回りほど大きくなっていた。

おそらく森で遭遇した奴らよりも強いのであろうことが窺えた。

『グギーッ!!!』

『グギグギッ!!』

「あ…?」

幸雄がモンスターの存在に気づき、不快そうに表情を歪めた。

「あのさぁ…今僕は黒崎さんと結婚生活について大事な相談をしているんだよ。邪魔しないでもらえるかなぁ?」

「…」

麗子は一切返事などしてなかったのだが、幸雄にとってはあれが相談であったらしい。

「邪魔だから君たち死んでね」

幸雄がスキルの強制力を乗せて言葉を紡ぐ。

『『グギ…!?』』

現れたモンスターたちは、一瞬大きく目を見開いた後、その場で互いの喉を噛みちぎって絶命した。

「よし、行こうか」

「…っ!?」

幸雄が傍の麗子に笑いかけてくる。

麗子は、幸雄のスキルが人間のみならず、モンスターさえも操れてしまうことに愕然としたのだった。
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