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第五十四話

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「ん…?」

その夜。

俺はふと目を覚ました。

瞼を開けると、目の前に新田の顔があった。

すー、すー、と規則正しい寝息を立てている。

眠りについたときはかなり離れていたはずなのだが、寝相が悪いのか近くに来てしまったようだった。

「すげぇ、あどけないな…」

新田の寝顔は信じられないほどにあどけなく、安心しきっているように見えた。

右も左もわからない異世界で、俺が最初そうだったように新田もかなり神経をすり減らしているのではと心配したが、この様子だと大丈夫そうだな。

「さて…邪魔者を始末するか…」

もう少し新田の寝顔を見ていたかった気もするが、先に俺は『現在進行形でこの部屋に忍び寄っている四つの気配』の排除をすることにした。

「くぁああ…外の空気でも吸ってくるか…」

俺はあくまで気配には気づいていない演技をしながら、部屋を後にする。

四つの気配は、俺の動きに合わせて一定間隔でついてきていた。

新田よりも俺を始末することを優先したらしい。

「そんな殺気立たれたら寝てても気づくぞ…やれやれ…」

俺はそんなぼやきを漏らしながら宿を出て、夜の街を歩き、人目につかない路地裏へとやってきた。

そしていきなり足を止めて背後を振り向く。

「気づいてるぞ。そこの四人。出でこいよ」

「「「「…っ!」」」」

俺がそういうと、四つの気配に驚いたような雰囲気があった。

どうやら俺に気づかれていることに気づいていなかったらしい。

…こりゃ、あまり楽しめなさそうだな。

「なるほど…少しはやるようだな…」

「異世界人だと思って侮っていたが…」

「これなら少しは楽しめそうだ…」

「面白い…スキル持ちの異世界人か…」

四つの人影が、物陰から姿を現した。

それぞれフードをかぶっていて人相はわからない。

だが、明らかに体に纏っている雰囲気が、戦いに覚えのある者のそれだった。

おそらくだが…俺を殺しにきた殺し屋たちだろう。

そして差し向けたのは…

「あんたら、あの王女様に雇われてきたのか?」

「「「「…」」」」

四人は沈黙する。

だが、俺はほぼこの四人がカテリーナが差し向けた者たちであることを確信していた。

現状この世界において、俺たちの命を狙う可能性があるのはあいつぐらいだしな。

一度俺に追い詰められて、自分では制御不可能だと感じたのだろう。

おそらく、戦の道具として俺を操ることを諦め、殺し屋を差し向けて始末する方針に切り替えたのだろう。

「まぁ、雇い主は関係ない。降りかかってくる火の粉は払うまでだ。ほら、かかってこいよ」

俺は自然体でその場に立ちながら、こいこいと四人に向かって手招きをした。

煽られたと感じたのか、四人が明らかに殺気立つ。
「随分と自信があるようだな、異世界人」

「スキルの力とやらで増長しているのか」 

「だが、考えが甘いぞ」

「我々がなんの事前情報も得ずにここにきたと思っているのか?」

そう言って四人が一斉に懐から何かを出した。 

それは青色に光る結晶のようなものだった。

「なるほどね…」

あの石…魔道具を俺は知っている。

あれは結界石と呼ばれる魔法を封じる石だ。

あれを所持していると、その大きさによって半径数メートル、あるいは数十メートル内にいる人間が、魔法を使うことができなくなる。

おそらくあの四人は、俺が魔法を使えることを予め知っていて対策として結界石を用意してきたのか。

だとすれば、ますますカテリーナの差金の可能性が上がったな。

「聞くところによればお前は魔法を使うようだな」

「本来何十年の鍛錬が必要な魔法を、スキルによって容易に行使すると聞き及んでいる」

「確かにそんな力を得れば増長するのもわかる。だが…それなら最初から魔法を無効化すればいい」

「スキルの力を使えない異世界人は無力だ…さぁ、死を覚悟しろ、ニホンジン…!!」

結界石を携帯した四人が一斉に襲いかかってくる。

「スキル結晶ねぇ…」

確かに悪い手とは言わない。

だが、いくらスキル結晶といえども、全ての魔法使いの魔法を封じられるわけでもない。

極端な話、膨大な魔力量を秘めた魔法使いの放つ魔法を封じることはできないのだ。

結界石が封じられる魔法というのは、その結界石自体に秘められた魔力量以下の魔力で放たれる魔法のみ。

結界石内の魔力以上の魔法を放たれた場合、いかに結界石を所持していようとなす術はない。

「四個で十分だろうとたかを括ったんだろうが…もし俺の魔法を封じたかったら…四百個は持ってくるべきだったな」

そして当然のこととして、結界石四つ程度で俺の魔法は封じることができない。

俺は現在でも簡単に魔法を使ってこいつらを倒すことができるだろう。

「だが…まぁ、いいぜ。遊びに付き合ってやるよ」

けれど、四人の戦闘力をざっと測った感じ、魔法を使うまでもないようだ。

深夜の街中で魔法を使って騒ぎにもなりたくないし、俺は魔法を封じられたことにして、体術のみで対応することにした。

「死ねぇ!異世界人!」

「覚悟…!」

「その首貰い受ける…!」

「死ぬがいい…!」

間近まで迫る四人の殺し屋に向かって、俺は腰を低くして構を取ったのだった。
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