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九十一話
しおりを挟むキトたちの前からも
パン屋からも突然いなくなったシギ
誰にも何も言わずに
どこかに行っただけなのか?
謎はそれだけじゃない
何もやましい事がなければ
最初に聞いた時に知らないなんて言わないし
震える事なんてないと思う
あの2人は何か知っているはず‥
「ナツ?」
「あっ、うん?」
ジーナに呼ばれ、ふと我に帰る
「とりあえず、ご飯の時は
難しい事考えないでさ!
美味しく頂こうよ!」
今私たちがいるのは
街の中の朝早くからやっているカフェだ
子どもたちが出てきた事で
思っていたより早くに引き上げた為、
朝ご飯を軽く食べて帰ることにした
時計回りにタリア、ジーナ、ナツが
丸いテーブルに座っている
「うん、そうだね」
目の前にある温かい紅茶を飲みながら
中にくるみの入った焼きたての
パンを口に運んだ
南東にパン屋は1つしかないが、
カフェなどでパンを取り扱っているところは
何軒かあるみたいだ
「ナツはくるみの入ったパンかぁ
私のはチョコレートが練り込んであるんだ、
とっても美味しい!
タリアはどんなパンだい?」
「‥クロワッサンだ」
ミルクも砂糖も入っていない
温かいコーヒーをふぅふぅと冷ましながら
答えていた
「相変わらず熱いのがダメなんだなぁ」
あっはっはと笑いながら言うジーナを
タリアは軽く睨んでいた
「ダメではない、
得意ではないだけだ」
ジーナとタリアのやり取りに
自然と笑みが溢れた
それに気づいたタリアが
私を見て微笑んでくれる
「そういえばさ!
ナツの後ろにいた時に首とシャツの隙間から
なんか紐が見えたんだけど、
前から紐なんてかけてたっけ?」
「あっ、あの、これは、
うん、つけてるの、昨日から」
気付かれるとは思ってなかった私は
しどろもどろになってしまった
「何を首にかけてるんだ?」
「もらった、お守り‥」
昨日のことを思い出して恥ずかしくなり、
紅茶を飲むフリをして下を向いた
目線だけ上げると、
ニヤァと笑っているジーナと
ほぅ、と言いながら目を細めるタリアの
2人の姿が見えた
「いやぁ、青春だなぁー!」
「‥なるほどな」
タリアは私がシオンを想っている事を
知らないはずなのだが、
何か納得しているようだった
「タリアは、青春しないのかい?」
自分に話が来るとは思わなかったタリアは
少し驚いたようにジーナを見る
「その青春とやらが
恋という意味なら、私は青春に興味はない」
「そうなのかい?
でもいつか興味が湧く日も
来るかもしれないからね、
その日を楽しみにしておこうかな」
ジーナはパンをちぎり、口に運ぶ
「ジーナは、青春してるの?」
「ゴフゥ!!」
聞いたことない声が隣から聞こえてきた
パンが変なところに入ったのか
紅茶を一気に流し込んでいる
「わ、私のことはいいんだよ!」
「自分だけ秘密とは、ズルいぞ」
ジーナは
うっ、とダメージを受けたような声を出し
目を閉じている
「‥私は、新しい青春の方向も
考えていいかなと思っているところなんだ」
「新しい青春の方向?」
分からなくて首を捻る
「‥いいんじゃないか?」
タリアは分かっているのか
肯定の返事をしていた
「人間は前に進むことが出来るからな」
その言葉は、ジーナだけでなく
私にも言われているような気がして
ジーナと2人で頷き合っていた
その横で、タリアはやっとコーヒーを
口にする事が出来て嬉しそうだった
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