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盈月
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『それではPTA会議を開始させていただきます』
議長の声が響き、役員達が体勢を立て直す気配がする。いつもと同じように滞りなく始まる会議。しかし、その日常を壊すようにーー
『その前に一ついいかな?』
男が立ち上がった。
『会長……どうぞ』
萎縮する空気を彼は悠々と支配する。
『時間を設けていただきありがとうございます。しかし、先生方にどうしても聞いておかなければならない事がありましたので』
優雅な男声。芝居がかった口調は楽しさを孕みながら言葉を紡いだ。
『西山さんだったかな。あの万引きで騒ぎになっている子。あの子の扱いはどうなっているのですかね? 退学とかにしたりはしないのでしょうか。私としましては、娘と同じクラスに犯罪者なんて居て欲しくはないんですが』
空気が凍る音がする。多分、同調の視線が教師達を容赦なく刺し、彼らの思考を硬直させている。そこはきっと一人の男の独壇場だ。
「ふぅ」
機械から流れる静けさに逆らうように息を吐いた。つくづくあの子は敵しか作っていかないらしい。
「まぁ、仕方ないとは思いますが」
彼女が育ったあの闇は、協調性など養う隙を与えなかった。そもそも団長がただの道具にそんな物を付与するとは考えられない。
『でも流石に……万引き程度で退学は…………』
盗聴器の反論。
ーー万引きだけで退学なんて外聞が悪い。
しかし、本心はだだ漏れしている。そこには彼の意思など存在しない。保身の為のただの言い訳。
「しかしまぁ、頼りのない光明ではありますが、瑠璃さんの助けにはなるかもしれませんね」
他人事のように呟く。私はただの校務員で、今はまだ一介の傍観者。少女が助かろうが退学になろうが行動は起こさないつもりだ。
「まぁ、今のところは……ですけど」
虚空を見つめ、自分でも怪しいと思う笑みを浮かべた。
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