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盈月
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「ただいま~」
「おかえり」
「っ……」
何気なくした挨拶に、返事が来て驚く。
ーーそっか、瑠璃が帰ってくるの今日だった。
「おかえり」
数日ぶりの我が子に優しい笑みを送る。彼女は眠ってでもいたのか、どこかぼんやりとした様子でソファーに身を起こしていた。
「楽しかった?」
「…………」
ある意味予想通りの沈黙。少しの哀しさを感じたが、振り払って自室に向かう。
「はぁ」
スーツを掛けながら息をついた。少女を見て湧いた小さな負い目、おれをちくりと刺していた。
羽を伸ばす。
この三日間、おれはそんな状態だったのだと思う。久しぶりの一人暮らしは思いの外快適だった。自由だし、気を遣わなくて良い。
おれは思っていたよりも瑠璃に対して気を遣っていたらしい。
気難しくて、何考えているか分からなくて、恐ろしいチカラを持っている。
信じていると言っていても、おれはやっぱりどこか彼女を怖がっていた。嫌われることを怖れて、チカラを使われることを怖れて、知らず知らずの内に気を張っていた。そんなことに、一人になって気づいてしまった。
瑠璃のことは好きだ。娘として大切に思っている。でも、やはり難しい。他人が親子になるというのは……。
おれは、着替え終えて部屋を出た。少しの憂鬱。料理でもして晴らしてしまおう。頭の中にレシピを巡らす。
「……!」
しかしすぐに立ち止まる。目の前に瑠璃が居た。扉の前でおれを待っていたらしい。
「忘れてた。これ、お土産」
そして、手のひらサイズの紙袋を差し出してくる。メーカー名も何も書いていないただ真っ白な小さな包み。何か硬いものが入った手ごたえがある。
「ありがとう。……開けていい?」
こくんと頷く瑠璃。見た目からじゃ中身の判断が出来ないし、瑠璃が何を選んでくれたのかなんてもっと検討がつかない。
おれはわくわくドキドキしながらテープを外した。
「ブローチ?」
金属特有の冷たさを持つそれは、花形のブローチのようだった。
ーーブローチって、男にあげるものなのか?
いまいち瑠璃のセンスが理解できず、心の中で苦笑する。
ーーまぁ、瑠璃自身がよく分かんないしね。こういう……。
「オーダーメイドができたから作ってもらった。花の名前はカランコエ。花言葉は……『あなたを守る』」
淡々とした言葉が何でもないように語り始める。
「っ……」
目の前が白くなる。おれは思わず瑠璃を抱き締めていた。
彼女は、驚く様子も見せずにされるがままおれに身を預けてくる。
「……ありがとう」
少し視界が潤んでいた。
瑠璃には嫌われているのではないか。そう思っていたりもした。最初よりはとっつきやすくなっただけで、進展が見えない関係性。少し萎えてもいた。だから、羽を伸ばして心が弱ってしまっていた。
「大切にする」
噛みしめるように呟いた。
『あなたを守る』
それが何を意味するのかいまいち分かってはいない。瑠璃が守ってくれるのか、御守りという意味でくれたのか。何から守ってくれるのか。
分からない。分からないけど、嬉しかった。気持ちは伝わった気がするから。瑠璃はおれを大切に思ってくれている。おれと同じで、きっと、親子になりたいと思ってくれている。
「瑠璃、ありがとな」
もう一度言った。
「…………」
少女は何も言わない。ただ、無言でおれの腰に手を回してくる。
彼女は小さい。抱き締めるとよく分かる。彼女はこんなにも小さな身体で……。
目を瞑る。口の中で小さく声に出す。
『あなたを守る』
それはおれの決意だ。この子を危険には晒さない。二度と同じことは繰り返さない。
蛇目教は……おれが潰す。
おれはさっきよりも強く瑠璃を抱き締めた。
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