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盈月
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翌日、私はいつもよりも遅く登校した。瑠璃に会わなければいけないと思うとなんだか気が重かった。
「おはよう」
努めていつもの声を出す。
「おはよう」
騒然とした教室で、ぼそりとした挨拶が返ってくる。彼女は机に座ったままで、本から顔すら上げない。
私はそっと視線を逸らす。そして、空の机を見つけた。
ーーあぁ、そっか。沙羅達が居ないからか。
挨拶をして、何か物足りなさを感じた。いつも、挨拶をすると沙羅達は存在を示すように大声で返してくる。それが無かったから物足りなかったのだ。あれが在ったら、少しは気分が上向いたかもしれないのに……。
彼女達は、自主研修中にチンピラに絡まれて大怪我したらしく、宿泊学習を途中で早退した。詳しい状況などは知らないが、命に別状は無いらしい。
その事件のお陰で、夜のプログラムは中止になり、先生達はパニック気味にピリピリしているという殺伐としたお泊まりになってしまった。
ーーまぁ、財閥の娘がそんな事になったんだから、しょうがないけどね。
私は回想に満足し、自分の席へと向かう。
「巴」
しかし、その足は静かに止められた。
さりげなく避けようとしたのに。なんで、こういう時に限ってこの子は私を呼ぶのだろう。
「ん? なに?」
咄嗟の笑みで振り返る。少女は真っ直ぐ私を見ている。
「弘さんが、また巴達に会いたいって言ってた」
そして、それだけ言うとまた本に視線を落とした。
「うん、分かった。また行くね」
それだけかと安堵し失望する。私は何を望んでいるのだろう。
横目でこっそり彼女を見た。
ちくりと少し胸が痛む。彼女の傷痕を思い出してしまう。
申し訳ない。本当にーー。
その時、唐突に青い光に気がついた。
「瑠璃!」
思わず駆け寄る。彼女は不思議そうに顔を上げた。
「ピン留め……してくれてるの?」
その髪には確かに青い花が輝いている。
「巴とは友達だから」
当然のように言う。
「……っ」
咄嗟に抱きついた。さっきまで罪悪感に震えていた心が幸福に染まっている。
私って単純だ。
景色が薔薇色に見える。瑠璃とずっとこうしていたいと思う。
友情の証。そんな事、忘れられていると思っていた。瑠璃ならそんなもの気にも留めないと思っていた。なのにーー。
『巴とは友達だから』
そんな言葉、一生聞けないと思ってた。
"私は、この瞬間のために生きてきた"
そう言っても過言じゃないほどに舞い上がっている。
「巴、本が読めない」
微動だにしなかった少女がもぞりと動く。
だけど今日は、そんな文句、聞いてやらない。
「瑠璃……」
強く抱き締める。
小さい。温かい。
それは幸福の感触だった。
「おはよう」
努めていつもの声を出す。
「おはよう」
騒然とした教室で、ぼそりとした挨拶が返ってくる。彼女は机に座ったままで、本から顔すら上げない。
私はそっと視線を逸らす。そして、空の机を見つけた。
ーーあぁ、そっか。沙羅達が居ないからか。
挨拶をして、何か物足りなさを感じた。いつも、挨拶をすると沙羅達は存在を示すように大声で返してくる。それが無かったから物足りなかったのだ。あれが在ったら、少しは気分が上向いたかもしれないのに……。
彼女達は、自主研修中にチンピラに絡まれて大怪我したらしく、宿泊学習を途中で早退した。詳しい状況などは知らないが、命に別状は無いらしい。
その事件のお陰で、夜のプログラムは中止になり、先生達はパニック気味にピリピリしているという殺伐としたお泊まりになってしまった。
ーーまぁ、財閥の娘がそんな事になったんだから、しょうがないけどね。
私は回想に満足し、自分の席へと向かう。
「巴」
しかし、その足は静かに止められた。
さりげなく避けようとしたのに。なんで、こういう時に限ってこの子は私を呼ぶのだろう。
「ん? なに?」
咄嗟の笑みで振り返る。少女は真っ直ぐ私を見ている。
「弘さんが、また巴達に会いたいって言ってた」
そして、それだけ言うとまた本に視線を落とした。
「うん、分かった。また行くね」
それだけかと安堵し失望する。私は何を望んでいるのだろう。
横目でこっそり彼女を見た。
ちくりと少し胸が痛む。彼女の傷痕を思い出してしまう。
申し訳ない。本当にーー。
その時、唐突に青い光に気がついた。
「瑠璃!」
思わず駆け寄る。彼女は不思議そうに顔を上げた。
「ピン留め……してくれてるの?」
その髪には確かに青い花が輝いている。
「巴とは友達だから」
当然のように言う。
「……っ」
咄嗟に抱きついた。さっきまで罪悪感に震えていた心が幸福に染まっている。
私って単純だ。
景色が薔薇色に見える。瑠璃とずっとこうしていたいと思う。
友情の証。そんな事、忘れられていると思っていた。瑠璃ならそんなもの気にも留めないと思っていた。なのにーー。
『巴とは友達だから』
そんな言葉、一生聞けないと思ってた。
"私は、この瞬間のために生きてきた"
そう言っても過言じゃないほどに舞い上がっている。
「巴、本が読めない」
微動だにしなかった少女がもぞりと動く。
だけど今日は、そんな文句、聞いてやらない。
「瑠璃……」
強く抱き締める。
小さい。温かい。
それは幸福の感触だった。
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