パンドラ

須桜蛍夜

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盈月

120

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「ねぇ、瑠璃」

巴が深刻そうな顔で声をかけて来たのは、体育祭から一週間ほどが経った日の昼休みだった。

「なに?」

わたしは、横目で彼女を見てから、本に目を戻す。今日は天気が良い最高の屋上日和で、読書日和だ。邪魔しないで欲しい。

「打ち上げとしてどこか行かない? 三人で。体育祭の」

「行かない」

深刻そうに見えた顔は一転、楽しげに提案をしてくる。

「なんでさ」

「別に、理由は無いけど。行く必要も無いかな」 

「いいじゃん、行こうよ」

巴が、わたしの身体をゆすろうとする。

その手を振り払ったのは、無意識だった。

「え」

巴が固まる。多分、それほどには強い拒否だった。ふざけに本気で返された彼女は、驚きを隠せないままこちらを見ている。

だけど、驚いたのはわたしの方もだった。

「……ごめん」

拒絶なんてするつもりはなかった。巴がじゃれあってくるのはいつものことだし、わたしはそれを諦めるように受け入れていたはずだ。なのにーー。

薄々は感じていた。わたしは体育祭の日から、あの人を想起させるものを受け入れられなくなっている。

背筋に走った寒さを無理やり無視する。

「別に巴が嫌だった訳じゃない。ごめん、ちゃんと打ち上げ行くから」

本を置き、巴の方を見た。

「ほんと? 打ち上げ来る?」

「うん、行く」

「なら許す」

彼女が浮かべた笑みには、少しの迷いが見えた。そんな顔をさせてしまうほど、わたしは嫌悪感を巴にぶつけてしまったのだろう。

「……ありがと」

答えて目を逸らした。

恐がるな。

自分に言い聞かせる。

夢とは思えなかった夢。負けてはいけない。負ける訳にはいかない。わたしはあの人から解放されるのだから。

空に向かって決意を新たにする。

西山瑠璃をこんな所で壊す訳にはいかなかった。







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