パンドラ

須桜蛍夜

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盈月

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彼女が言うには、自主研修で私と別れた瑠璃は沙羅達を裏路地に連れ込み、暴力を振るったのだという。

「瑠璃の方から殴りかかってきたってこと?」

「……沙羅達も少し…………嫌がらせとかもしてたから、そのーー」

報復ってこと? いや、瑠璃はそんなことをしないだろう。

そう考えて、その思いに完全には賛成できない自分に気づいた。

私は彼女の何を知っているのか。

確かに私は瑠璃が何かを守るために暴力を振るっているのしか見たことがない。でも、それが全てなの? じゃあなんで、闇街なんかに行ってるの?

ーーダメだ。止まれ。

理性が叫ぶ。それでも想像は加速する。

もし瑠璃が暴力に快感を覚える人種だったら?

一瞬、タカとアニキのことを思い出した。彼らを倒した瑠璃はいつもと違うように見えた。暴力を……楽しんでいるようだった。

私が止めなければ、彼女は戦意を無くした相手を再びナイフで刺していた。

喉が乾く。

軽くなりかけていた心に重りが載せられる。もう考えたくはない。だが止まらない。

でも、暴力を振るいたいなら、最初から賢太郎を助ければ良かった。そうすれば私が来る前に思う存分できたはず。

「一緒に居た地元の友達とかも、半身不随とかになっちゃってさ、沙羅、怖くてさ」

語り続ける声が嫌な思いを煽っていく。

沙羅の言葉が信用できないことなんて知っている。それでも、確かに彼女は怪我を負った。そして、瑠璃が強いことを知っている。

完全なる嘘ではない。それがなによりいやらしい。

「だからさ、巴ちゃんもあの子なんかと友達やめた方がいいよ」

やめて、その言葉を言うのは。私は瑠璃と友達でいたいんだから。

「そうしないと巴ちゃん、殺されちゃうかもよ」

沙羅の言葉が不思議とすんなり入ってくる。

「勝手に瑠璃のこと語らないで」

だからこそ、声を荒げた。沙羅は身体を震わせて言葉を止め、上目遣いに私を見てくる。
それを拒絶するように私はその場を離れた。

こんな時に沙羅の話なんて聞かなければよかった。そんなことを思っても、後の祭りだ。私の覚悟は揺らいでしまった。





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