パンドラ

須桜蛍夜

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盈月

11

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「いじめられたのか?」
その様子にまた少し苛つくが、無視するように問いかけた。今は犯人への怒りの方が強かった。
「言う気は無い……か。でも、安心しろ。少年課には顔なじみも多く居るし、おれがなんとかする。もう大丈夫だよ」
物言わぬ瞳を見つめ返し、安心させるように、努めて明るく言い放つ。おれがこの問題を解決する。瑠璃に安全な学校生活を送らせてやる。言葉の裏に深く大きな決意を込める。
「わたしは、これに対して何も感じてない。だからいじめにはならない。警察の管轄じゃない。だから、弘さんは手を出さないで」
しかし、返った声がおれを静かに切り裂いた。
「何も感じてない?」
「うん、だから手助けはいらない」
こんなに怪我して、傷だらけになって、何も感じてない。そんなことがあるのか? ……いや、あるはずない。
「瑠璃、強がらなくていい。遠慮なくおれを頼ってくれ。おれが、なんとしてでも解決してやるから」
彼女の瞳を見つめる。感情を持たぬ目、生気の無い目。それでも一心に覗き込む。おれの真剣さが伝える為に。
「別にいい。何もしないで」
しかし、響き渡った引っかかりを持たない言葉。自分だけで完結し、周りに干渉しようとしない物言い。それがおれを振り払う。静かに、それでも容赦なく。
「瑠璃……」
なんでだよ、確かに頼りないかもしれないけど、おれだって瑠璃がそんなになるまで殴られたなんて許せないんだよ。おれにも手伝わせてくれよ。
「これはわたしの問題だから手を出さないで。それに、終わらせるなら自分でやる」
追い打ちをかけるように言葉で彼女は壁を作る。瑠璃の目には何も無い。おれなんて必要としていない。
「なんで1人でやろうとすんだよ。もっとおれを信用してくれよ、頼ってくれよ。おれだって、許せないんだから」
声を荒げ、テーブルに拳を叩きつける。涙が頬を伝った。悔しかった。信頼関係ができてないのは分かっている。瑠璃がおれを頼ってくれないのも、当たり前だと思っている。なのに、頼ってくれないこと、1人で抱え込もうとしていること。それが悔しくてたまらなかった。
「なんで弘さんが許せないの? わたしのことなんだから関係ないでしょ」
そこに、逆なでするような言葉がかかる。
「関係なくなんかない! おれは瑠璃の保護者だ。おれは瑠璃を守りたい。傷つけたくない」
叫んでいた。関係ない? いい加減にしろ、どこまでひとりよがりでいるつもりだ! 心の中で怒りが溢れる。抑えきれない。
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