パンドラ

須桜蛍夜

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盈月

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雑貨屋さん。女の子はそういう所も喜ぶのか。娘持ちである警部からの情報を反芻し、車を停めた。
ーーまぁ、瑠璃が行くって言うとは思えないけど。
そして苦笑する。彼女のその様は全く想像出来なかった。
「ただいま」
「おかえり」
ーー……?
首をひねる。すっかり日常となった返答。それが少し籠っている気がした。
「瑠璃、今度、雑貨屋にでもー―」
「行かない」
やっぱりなんかくぐもっている。なんか食べてたりするのかな? 考えながら電気のスイッチを押した。
「瑠璃、どうかしたか?」
声をかけてみる。すると瑠璃は、大袈裟な動作で腕で目を覆い隠しながら、不満そうに告げてきた。
「点けるなら言って」
「あ、ごめん」
……その行動の意味を聞いたわけじゃなかったんだけどな。まぁ、確かにいきなり点けたのは悪かった。ただでさえ光に弱いのに。そう思いながら、本に隠れた彼女の顔を覗き込む。籠った声がなんとなく気になっていた。
ーー!?
「どうした、その顔!」
飛びのいて、悲鳴に近い声を上げる。見えた顔は、血が全面にこびりつき、痛々しく腫れ上がっていた。予想していなかった事態に、頭は一生懸命空回る。
「ちょっと待ってろ」
空気の表面を滑るような声が出た。なんだ、あれ。殴られたのか!? 混乱を続ける思考。慌てすぎて思うように動けない。次にすべき事が思いつけない。それでもなんとか、タオルを濡らし、保冷剤を手に取る事に成功した。
「読むのやめろ」
薄目で読書を再開し始めていた瑠璃から、強引に本を取り上げる。そんな怪我で一体なに考えてんだ。
「返して」
「黙ってろ」
返った要求を低い声で切り捨てる。平然とした瞳、いつもと同じ声。苛々した。痛いはずなのに、辛いはずなのに、自分を顧みない瑠璃にどうしようもなく怒りを感じていた。
ーー西山弘、一回落ち着け。
無駄に苛つく自分に気づいて、大きく息を吐き出す。今、瑠璃に苛ついても仕方がない。
「痛むかもしれないけど我慢して」
普段通りの声を取り繕って、おれは、血を丁寧に拭き取り始めた。
「後は、これで冷やして」
一通り拭き終わり、保冷剤を瑠璃の手に押さえさせる。露わになった顔は、見るからに痛々しかった。
ーーぎりっ
噛み締めた奥歯が鳴る。傷の具合を見るだけでも、瑠璃に振るわれた暴力の凄まじさは、手に取るように見て取れた。
ーー女の子の顔をここまで殴るなんて。
見れば見る程、怒りが湧いて、知りもしない犯人を殺したくなる。
「小説、返して」
しかし、おれと裏腹に被害者は平然としている。
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