17 / 158
盈月
9
しおりを挟む気がついたら、転校生の姿は見えなくなっていた。それでも、彼女の言葉だけは何度も何度もリピートされる。
『ずっと怯えてる』
ーー俺は……。
唇を噛み締める。言葉が続かなかった。俺は怯えていないと言い切ることができなかった。
「俺は怯えてる。俺は……弱い」
得体の知れない恐怖に押され、言葉が洩れる。はっきりと見せられた俺の本質。もう目を逸らせない。俺は、怯えていたから強者を装った。怯えていたからいじめで強さを感じようとした。堰が切れたように、俺の強さは虚構に転ず。俺は一体どうすればいい? 弱かったら潰される。弱かったら生きられない。俺はーー。
「賢太郎」
突然の声に、不安に駆られて勢いよく振り返る。
「タケシ、イチロウ……」
安心しても、恐怖に取り憑かれた心臓は、うるさいほどに鳴り響く。
「帰ろうぜ」
そっか、帰んなきゃな。ここは学校だし、下校時間なんてとっくに過ぎている。確認するように思い浮かべた。でも、それらに現実感が感じられない。
「あぁ、帰ろう」
一応、返事だけは返しておいた。
地面を歩いている、家へ帰っている。なのに、なんだか夢の中みたいで、ふわふわと身体が浮いている。自分がちゃんと進めているのかすらよく分からない。
ピコン!
いきなりの電子音に現実が戻った。
「え?」
辺りを見回す。タケシとイチロウは居なかった。気づけば、あいつらと別れる場所は既に通り過ぎている。
「あぁ……スマホか」
音の正体に気がついて、ポケットからスマホを取り出す。
「なんだこれ、タラクサカム?」
連絡してきたのは、カタカナ名の知らない名前。でも――。
『君は弱者だ』
その内容に心臓が跳ねた。
『なら、君はどうすれば強者になれる?』
続けざまに紡がれる。こいつ、その方法知ってんのか? 期待と興奮が湧き上がる。我慢できない程に次の言葉が待ち遠しくなる。
『簡単なことだ。強者を倒せばいい。勝った者が強い。それがこの世の真理だ』
強者を倒す? それができたら苦労しねぇよ。ため息をつく、力が抜ける。期待の分だけ失望が大きかった。
『お前にとっての強者は誰だ?』
ーー強者か……。
それでもなんだか、タラクサカムの言葉から目が離せない。
『西山瑠璃だろ?』
転校生? そうか、あいつも強者だ。決して折れない。俺を見下し、脅かす存在。
『方法を教えてやろう。彼女の無表情を剥がし、怯えさせる秘策をな』
あの人形を怯えさせられる? 本当に?
『方法は――』
「それ、だけ?」
『これでお前は強くなれる』
笑みが浮かぶ。終わりに添えられた響きは、心酔するほどに甘美だった。
0
あなたにおすすめの小説
ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?
ねーさん
恋愛
アイリスは十六歳の誕生日の前の日に、姉ヴィクトリアと幼なじみジェイドと共に馬車で王宮に向かう途中、事故に遭い命を落とした───はずだったが、目覚めると何故か事故の日の朝に巻き戻っていた。
何度もその日を繰り返して、その度事故に遭って死んでしまうアイリス。
何度目の「今日」かもわからなくなった頃、目が覚めると、そこにはヴィクトリアの婚約者で第三王子ウォルターがいた。
「明日」が来たんだわ。私、十六歳になれたんだ…
笑顔が苦手な元公爵令嬢ですが、路地裏のパン屋さんで人生やり直し中です。~「悪役」なんて、もう言わせない!~
虹湖🌈
ファンタジー
不器用だっていいじゃない。焼きたてのパンがあればきっと明日は笑えるから
「悪役令嬢」と蔑まれ、婚約者にも捨てられた公爵令嬢フィオナ。彼女の唯一の慰めは、前世でパン職人だった頃の淡い記憶。居場所を失くした彼女が選んだのは、華やかな貴族社会とは無縁の、小さなパン屋を開くことだった。
人付き合いは苦手、笑顔もぎこちない。おまけにパン作りは素人も同然。
「私に、できるのだろうか……」
それでも、彼女が心を込めて焼き上げるパンは、なぜか人の心を惹きつける。幼馴染のツッコミ、忠実な執事のサポート、そしてパンの師匠との出会い。少しずつ開いていくフィオナの心と、広がっていく温かい人の輪。
これは、どん底から立ち上がり、自分の「好き」を信じて一歩ずつ前に進む少女の物語。彼女の焼くパンのように、優しくて、ちょっぴり切なくて、心がじんわり温かくなるお話です。読後、きっとあなたも誰かのために何かを作りたくなるはず。
私の人生に、おかえりなさい。――都合のいい「お姉ちゃん」は、もうどこにもいません
しょくぱん
恋愛
「お姉ちゃんなんだから」
――それは私を縛る呪いの言葉だった。
家族の醜い穢れを一身に吸い込み、妹の美しさの「身代わり」として生きてきた私。
痛みで感覚を失った手も、鏡に映らない存在も、全ては家族のためだと信じていた。
でも、、そんな私、私じゃない!!
―― 私は、もう逃げない。 失われた人生を取り戻した今、私は、私に告げるだろう。
「私の人生に、おかえりなさい。」
仮面王の花嫁
松雪
恋愛
婚約者を腹違いの妹に奪われ、新しい相手も見つからず修道院に行く覚悟を決めたルチア。修道女となるため髪を切った日の夜、王城から「国王がルチアを妻に望んでいる」という書簡を持った使者がやって来た。
しかし、従兄弟であり恋仲だったニールが国王のせいで死に至った過去を持つルチアは、国王からの求婚を喜べずーー。
記憶をなくしても君は忘れない
水城ひさぎ
恋愛
本田光莉(ほんだひかり)、アメリカ・ロサンゼルス在住フォトグラファー、28歳。光莉には、松村理乃(まつむらりの)という同い年の異母姉がいる。行方不明になった理乃を探すため、日本へやってきた光莉は、高校時代の元カレ、月島拓海(つきしまたくみ)と再会する。しかし、彼は高校時代以降の記憶を喪失していた……。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
幸せの賞味期限――妹が奪った夫は、甘く腐る
柴田はつみ
恋愛
幸せには「賞味期限」がある。
守る実力のない女から、甘い果実は腐っていく
甘いだけのダメンズ夫と、計算高い妹。
善意という名の「無能」を捨てたとき、リリアの前に現れたのは
氷の如き冷徹さと圧倒的な財力を持つ、本物の「男」だった――。
「お姉様のその『おっとり』、もう賞味期限切れよ。カイル様も飽き飽きしてるわ」
伯爵家の長女・リリアは、自分が作り上げた平穏な家庭が、音を立てて崩れるのをただ見つめるしかなかった。
信じていた妹・エレナの狡猾な指先が、夫・カイルの心の隙間に滑り込んでいく。
カイルは、優しくて美貌だが、自分の足で立つことのできない「甘い」男。彼はエレナの露骨な賞賛と刺激に溺れ、長年尽くしてきたリリアを「味のないスープ」と切り捨て、家から追い出してしまう
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる