パンドラ

須桜蛍夜

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盈月

61

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「さ~てと、帰ろっか」

今日の授業は無事……に終了した。ここからは憩いの帰宅タイムだ。

「賢太郎、早くして。先行っちゃうよ」

なかなか準備の終わらない少年に声だけかけて廊下に飛び出す。見覚えのある小さな背中と黒いリュックは順調に遠ざかっていっていた。

「瑠璃、今日こそは一緒にアイス食べに行ってくれるんでしょ」

それになんとか追いついて声をかける。

「……約束だからね」

立ち止まった背中は振り返らずに答えを紡いだ。

それにこっそりとほくそ笑む。
前に、どさくさに紛れて取り付けた約束。それが遂に達成できる。帰り道に買い喰いという高校生らしい事が瑠璃とできる。顔に出なくとも心は結構浮かれていた。

「それって俺も行くべきなのか?」

「当たり前でしょ。一緒に帰るんだから。なんなら三人分奢ってくれてもいいよ」

いつの間にか現れた彼に、振り返りざまに笑顔を向ける。

「やだよ。俺、今月金ねーもん」

即行で拒否された。なら奥の手だ。

「ねぇ、瑠璃、『罪滅ぼし。わたしと巴にアイスを奢って』って言って」

「罪滅ぼし。わたしと巴にアイスを奢って」

「ほら、瑠璃からの命令だよ。奢んなきゃ」

棒読みの言葉を盾にして賢太郎に笑顔で詰め寄る。

「言わせた感満載じゃねぇか。いくら罪滅ぼしだって言われてもそれは聞き入れられねぇぞ。ってか、西山も巴に言われるままでいいのかよ」

私を押しのけ、彼は前行く瑠璃に声をかける。

「別に良い。罪滅ぼしに関してはどうでもいいし、元々巴に奢ってもらうつもりだったから、それが誰に変わろうと関係無い」

「……なるほど。巴が奢る約束だったから、なんとかして俺に押しつけようとしてたんだな?」

呆れ顔がこちらを向いた。

「…………」

ーーばれたか。

心の中で顔をしかめる。
確かに、勢いで『奢るから、アイス食べに行こう』と約束した。今からそれを実行しなければいけない。でも、駅前のアイスは一つ四百五十円だ。二人だと九百円。千円を出しても百円しか返ってこない。
そう考えてしまうと、誰かに押し付けたくもなるってもんだ。

「じゃあ、私宛の罪滅ぼしでも良いから。ね?」

「開き直るなよ。何言われても奢らねぇから」

「賢太郎のケチ」

不貞腐れて足を速める。渾身の笑顔はやはりさくっと無視された。九百円か……今月発売のCDは諦めるべきかもしれないな。

「着いたよ」

瑠璃がようやく振り返る。目の前には小洒落たアイス屋。どうやら、もう腹を決めるしかないらしかった。
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