69 / 158
盈月
61
しおりを挟む
「さ~てと、帰ろっか」
今日の授業は無事……に終了した。ここからは憩いの帰宅タイムだ。
「賢太郎、早くして。先行っちゃうよ」
なかなか準備の終わらない少年に声だけかけて廊下に飛び出す。見覚えのある小さな背中と黒いリュックは順調に遠ざかっていっていた。
「瑠璃、今日こそは一緒にアイス食べに行ってくれるんでしょ」
それになんとか追いついて声をかける。
「……約束だからね」
立ち止まった背中は振り返らずに答えを紡いだ。
それにこっそりとほくそ笑む。
前に、どさくさに紛れて取り付けた約束。それが遂に達成できる。帰り道に買い喰いという高校生らしい事が瑠璃とできる。顔に出なくとも心は結構浮かれていた。
「それって俺も行くべきなのか?」
「当たり前でしょ。一緒に帰るんだから。なんなら三人分奢ってくれてもいいよ」
いつの間にか現れた彼に、振り返りざまに笑顔を向ける。
「やだよ。俺、今月金ねーもん」
即行で拒否された。なら奥の手だ。
「ねぇ、瑠璃、『罪滅ぼし。わたしと巴にアイスを奢って』って言って」
「罪滅ぼし。わたしと巴にアイスを奢って」
「ほら、瑠璃からの命令だよ。奢んなきゃ」
棒読みの言葉を盾にして賢太郎に笑顔で詰め寄る。
「言わせた感満載じゃねぇか。いくら罪滅ぼしだって言われてもそれは聞き入れられねぇぞ。ってか、西山も巴に言われるままでいいのかよ」
私を押しのけ、彼は前行く瑠璃に声をかける。
「別に良い。罪滅ぼしに関してはどうでもいいし、元々巴に奢ってもらうつもりだったから、それが誰に変わろうと関係無い」
「……なるほど。巴が奢る約束だったから、なんとかして俺に押しつけようとしてたんだな?」
呆れ顔がこちらを向いた。
「…………」
ーーばれたか。
心の中で顔をしかめる。
確かに、勢いで『奢るから、アイス食べに行こう』と約束した。今からそれを実行しなければいけない。でも、駅前のアイスは一つ四百五十円だ。二人だと九百円。千円を出しても百円しか返ってこない。
そう考えてしまうと、誰かに押し付けたくもなるってもんだ。
「じゃあ、私宛の罪滅ぼしでも良いから。ね?」
「開き直るなよ。何言われても奢らねぇから」
「賢太郎のケチ」
不貞腐れて足を速める。渾身の笑顔はやはりさくっと無視された。九百円か……今月発売のCDは諦めるべきかもしれないな。
「着いたよ」
瑠璃がようやく振り返る。目の前には小洒落たアイス屋。どうやら、もう腹を決めるしかないらしかった。
今日の授業は無事……に終了した。ここからは憩いの帰宅タイムだ。
「賢太郎、早くして。先行っちゃうよ」
なかなか準備の終わらない少年に声だけかけて廊下に飛び出す。見覚えのある小さな背中と黒いリュックは順調に遠ざかっていっていた。
「瑠璃、今日こそは一緒にアイス食べに行ってくれるんでしょ」
それになんとか追いついて声をかける。
「……約束だからね」
立ち止まった背中は振り返らずに答えを紡いだ。
それにこっそりとほくそ笑む。
前に、どさくさに紛れて取り付けた約束。それが遂に達成できる。帰り道に買い喰いという高校生らしい事が瑠璃とできる。顔に出なくとも心は結構浮かれていた。
「それって俺も行くべきなのか?」
「当たり前でしょ。一緒に帰るんだから。なんなら三人分奢ってくれてもいいよ」
いつの間にか現れた彼に、振り返りざまに笑顔を向ける。
「やだよ。俺、今月金ねーもん」
即行で拒否された。なら奥の手だ。
「ねぇ、瑠璃、『罪滅ぼし。わたしと巴にアイスを奢って』って言って」
「罪滅ぼし。わたしと巴にアイスを奢って」
「ほら、瑠璃からの命令だよ。奢んなきゃ」
棒読みの言葉を盾にして賢太郎に笑顔で詰め寄る。
「言わせた感満載じゃねぇか。いくら罪滅ぼしだって言われてもそれは聞き入れられねぇぞ。ってか、西山も巴に言われるままでいいのかよ」
私を押しのけ、彼は前行く瑠璃に声をかける。
「別に良い。罪滅ぼしに関してはどうでもいいし、元々巴に奢ってもらうつもりだったから、それが誰に変わろうと関係無い」
「……なるほど。巴が奢る約束だったから、なんとかして俺に押しつけようとしてたんだな?」
呆れ顔がこちらを向いた。
「…………」
ーーばれたか。
心の中で顔をしかめる。
確かに、勢いで『奢るから、アイス食べに行こう』と約束した。今からそれを実行しなければいけない。でも、駅前のアイスは一つ四百五十円だ。二人だと九百円。千円を出しても百円しか返ってこない。
そう考えてしまうと、誰かに押し付けたくもなるってもんだ。
「じゃあ、私宛の罪滅ぼしでも良いから。ね?」
「開き直るなよ。何言われても奢らねぇから」
「賢太郎のケチ」
不貞腐れて足を速める。渾身の笑顔はやはりさくっと無視された。九百円か……今月発売のCDは諦めるべきかもしれないな。
「着いたよ」
瑠璃がようやく振り返る。目の前には小洒落たアイス屋。どうやら、もう腹を決めるしかないらしかった。
0
あなたにおすすめの小説
ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?
ねーさん
恋愛
アイリスは十六歳の誕生日の前の日に、姉ヴィクトリアと幼なじみジェイドと共に馬車で王宮に向かう途中、事故に遭い命を落とした───はずだったが、目覚めると何故か事故の日の朝に巻き戻っていた。
何度もその日を繰り返して、その度事故に遭って死んでしまうアイリス。
何度目の「今日」かもわからなくなった頃、目が覚めると、そこにはヴィクトリアの婚約者で第三王子ウォルターがいた。
「明日」が来たんだわ。私、十六歳になれたんだ…
私の人生に、おかえりなさい。――都合のいい「お姉ちゃん」は、もうどこにもいません
しょくぱん
恋愛
「お姉ちゃんなんだから」
――それは私を縛る呪いの言葉だった。
家族の醜い穢れを一身に吸い込み、妹の美しさの「身代わり」として生きてきた私。
痛みで感覚を失った手も、鏡に映らない存在も、全ては家族のためだと信じていた。
でも、、そんな私、私じゃない!!
―― 私は、もう逃げない。 失われた人生を取り戻した今、私は、私に告げるだろう。
「私の人生に、おかえりなさい。」
仮面王の花嫁
松雪
恋愛
婚約者を腹違いの妹に奪われ、新しい相手も見つからず修道院に行く覚悟を決めたルチア。修道女となるため髪を切った日の夜、王城から「国王がルチアを妻に望んでいる」という書簡を持った使者がやって来た。
しかし、従兄弟であり恋仲だったニールが国王のせいで死に至った過去を持つルチアは、国王からの求婚を喜べずーー。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
記憶をなくしても君は忘れない
水城ひさぎ
恋愛
本田光莉(ほんだひかり)、アメリカ・ロサンゼルス在住フォトグラファー、28歳。光莉には、松村理乃(まつむらりの)という同い年の異母姉がいる。行方不明になった理乃を探すため、日本へやってきた光莉は、高校時代の元カレ、月島拓海(つきしまたくみ)と再会する。しかし、彼は高校時代以降の記憶を喪失していた……。
幸せの賞味期限――妹が奪った夫は、甘く腐る
柴田はつみ
恋愛
幸せには「賞味期限」がある。
守る実力のない女から、甘い果実は腐っていく
甘いだけのダメンズ夫と、計算高い妹。
善意という名の「無能」を捨てたとき、リリアの前に現れたのは
氷の如き冷徹さと圧倒的な財力を持つ、本物の「男」だった――。
「お姉様のその『おっとり』、もう賞味期限切れよ。カイル様も飽き飽きしてるわ」
伯爵家の長女・リリアは、自分が作り上げた平穏な家庭が、音を立てて崩れるのをただ見つめるしかなかった。
信じていた妹・エレナの狡猾な指先が、夫・カイルの心の隙間に滑り込んでいく。
カイルは、優しくて美貌だが、自分の足で立つことのできない「甘い」男。彼はエレナの露骨な賞賛と刺激に溺れ、長年尽くしてきたリリアを「味のないスープ」と切り捨て、家から追い出してしまう
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる