70 / 158
盈月
62
しおりを挟む
「分かった。観念する。じゃあ、瑠璃は何が良い?」
瑠璃は既にメニューの看板を隅から隅まで舐めるように眺めている。
「チョコミント」
そして選んだのはなんとも彼女らしい味だった。
「賢太郎は? お金くれるなら一緒に買ってくるよ」
「んー、じゃあこのダブルチョコ味って奴」
「オッケー。席、確保するしといて」
二人を残してカウンターに向かい、列の最後尾につく。レジのお姉さんはバイトなのか、やけに会計に手間取っている。
ーーまだかかるかな。
視線をカウンターから外して店内を彷徨わせる。
ーーあ、居た。
いつも通りの仏頂面と気まずそうな少年の居る四人席を発見。
これもある意味目的の一つだった。最近、三人でなら会話は成り立つようにはなってきてたが、依然として賢太郎と瑠璃の仲は微妙なままだ。だから、二人きりという状況でその仲が縮まって欲しい。
しかし、そんな目論見とは裏腹に、時が止まったように二人とも動かない。
ーーあ、目が合った。
救いを求めるように賢太郎の瞳が私を向いた。だけど、あいにくバイトさんは二人目も三人目にも手間取っている。
『会話くらいしなさいよ。案外話弾むかもよ』
目で言う。『無理だ』と賢太郎は小さく首を振った。長い付き合いの賜物。きちんと伝わったらしい。
『ファイト』
それだけ伝えて目を逸らす。
「ミルクソフトでよろしいのですよね?」
「はっ? わたしゃ軍手なんて頼んどらんよ」
「いや、あの軍手なんて……ミ・ル・ク・ソ・フ・トですよね?」
「いんや、わたしはソフトクリームを頼んだよ」
「いや、だから……」
お姉さんは耳が遠いらしいおばあさんに苦戦している。順番は次なのにまだまだ時間がかかりそうだった。
ーーふぅ、ようやく買えた。
三つのカップアイスを手に入れたのは、並び始めてから実に30分が経過した頃だった。
正直少し疲弊している。待つというのは見た目以上に疲れるものだ。
「ん?」
その疲れてぼおっとした目が予想外のものを捉えた。
瑠璃と賢太郎が会話している。
私は瞬時に身をかがめ、人の影に隠れるようにして席へと近づく。なんとかして話の内容が聞こえる所までーー。
「巴、何してるの?」
即行でばれた。
「あ、あの……。アイス、ようやく買えたよ。うん」
笑顔で誤魔化す。と言っても、瑠璃は私に背を向けて座っているのだが。
「で、何話してたの?」
恥ずかしさを振り払うように、少し大声で問いかけながら席に着いた。
「あぁ、西山がこないだ読んでた本が俺も読んだことあるやつだったからその話して、そこから派生して色々と」
「巴の昔話とかも聞いた」
「えっ、賢太郎、何言ったの!」
「さあ~な」
慌てたように目が逸らされ、口笛なんか吹き始める。
「ねぇ、瑠璃……」
何を聞いたか尋ねようと隣を向けば、彼女はチョコミントが美味しかったのか、脇目も振らずにアイスをぱくついている。
その食べっぷりはなんだか可愛らしくて、質問する気も失せた。
ーーまぁいっか、それで二人の会話が弾んだなら。
今日はひとまず、二人の仲の進展に免じて許してやることにした。
それからは、他に寄り道することもなく帰路へと着いた。
「は~ぁ、楽しかった」
家に着くと同時にベッドへ飛び込む。今日の寄り道には大満足だった。
アイスは高いだけあって、濃厚で美味しかったし、瑠璃や賢太郎と買い喰いできたという事が楽しかった。
それに……。
『西山って、案外話し易いんだな』
帰り道で瑠璃と別れた後、賢太郎がそうぽつりとこぼした。それだけで、楽しさも倍増した気がする。
「次はもっと大々的に遊びに行こうかな」
天井を見つめ、仲の縮まった友人達への妄想を膨らませていった。
瑠璃は既にメニューの看板を隅から隅まで舐めるように眺めている。
「チョコミント」
そして選んだのはなんとも彼女らしい味だった。
「賢太郎は? お金くれるなら一緒に買ってくるよ」
「んー、じゃあこのダブルチョコ味って奴」
「オッケー。席、確保するしといて」
二人を残してカウンターに向かい、列の最後尾につく。レジのお姉さんはバイトなのか、やけに会計に手間取っている。
ーーまだかかるかな。
視線をカウンターから外して店内を彷徨わせる。
ーーあ、居た。
いつも通りの仏頂面と気まずそうな少年の居る四人席を発見。
これもある意味目的の一つだった。最近、三人でなら会話は成り立つようにはなってきてたが、依然として賢太郎と瑠璃の仲は微妙なままだ。だから、二人きりという状況でその仲が縮まって欲しい。
しかし、そんな目論見とは裏腹に、時が止まったように二人とも動かない。
ーーあ、目が合った。
救いを求めるように賢太郎の瞳が私を向いた。だけど、あいにくバイトさんは二人目も三人目にも手間取っている。
『会話くらいしなさいよ。案外話弾むかもよ』
目で言う。『無理だ』と賢太郎は小さく首を振った。長い付き合いの賜物。きちんと伝わったらしい。
『ファイト』
それだけ伝えて目を逸らす。
「ミルクソフトでよろしいのですよね?」
「はっ? わたしゃ軍手なんて頼んどらんよ」
「いや、あの軍手なんて……ミ・ル・ク・ソ・フ・トですよね?」
「いんや、わたしはソフトクリームを頼んだよ」
「いや、だから……」
お姉さんは耳が遠いらしいおばあさんに苦戦している。順番は次なのにまだまだ時間がかかりそうだった。
ーーふぅ、ようやく買えた。
三つのカップアイスを手に入れたのは、並び始めてから実に30分が経過した頃だった。
正直少し疲弊している。待つというのは見た目以上に疲れるものだ。
「ん?」
その疲れてぼおっとした目が予想外のものを捉えた。
瑠璃と賢太郎が会話している。
私は瞬時に身をかがめ、人の影に隠れるようにして席へと近づく。なんとかして話の内容が聞こえる所までーー。
「巴、何してるの?」
即行でばれた。
「あ、あの……。アイス、ようやく買えたよ。うん」
笑顔で誤魔化す。と言っても、瑠璃は私に背を向けて座っているのだが。
「で、何話してたの?」
恥ずかしさを振り払うように、少し大声で問いかけながら席に着いた。
「あぁ、西山がこないだ読んでた本が俺も読んだことあるやつだったからその話して、そこから派生して色々と」
「巴の昔話とかも聞いた」
「えっ、賢太郎、何言ったの!」
「さあ~な」
慌てたように目が逸らされ、口笛なんか吹き始める。
「ねぇ、瑠璃……」
何を聞いたか尋ねようと隣を向けば、彼女はチョコミントが美味しかったのか、脇目も振らずにアイスをぱくついている。
その食べっぷりはなんだか可愛らしくて、質問する気も失せた。
ーーまぁいっか、それで二人の会話が弾んだなら。
今日はひとまず、二人の仲の進展に免じて許してやることにした。
それからは、他に寄り道することもなく帰路へと着いた。
「は~ぁ、楽しかった」
家に着くと同時にベッドへ飛び込む。今日の寄り道には大満足だった。
アイスは高いだけあって、濃厚で美味しかったし、瑠璃や賢太郎と買い喰いできたという事が楽しかった。
それに……。
『西山って、案外話し易いんだな』
帰り道で瑠璃と別れた後、賢太郎がそうぽつりとこぼした。それだけで、楽しさも倍増した気がする。
「次はもっと大々的に遊びに行こうかな」
天井を見つめ、仲の縮まった友人達への妄想を膨らませていった。
0
あなたにおすすめの小説
ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?
ねーさん
恋愛
アイリスは十六歳の誕生日の前の日に、姉ヴィクトリアと幼なじみジェイドと共に馬車で王宮に向かう途中、事故に遭い命を落とした───はずだったが、目覚めると何故か事故の日の朝に巻き戻っていた。
何度もその日を繰り返して、その度事故に遭って死んでしまうアイリス。
何度目の「今日」かもわからなくなった頃、目が覚めると、そこにはヴィクトリアの婚約者で第三王子ウォルターがいた。
「明日」が来たんだわ。私、十六歳になれたんだ…
私の人生に、おかえりなさい。――都合のいい「お姉ちゃん」は、もうどこにもいません
しょくぱん
恋愛
「お姉ちゃんなんだから」
――それは私を縛る呪いの言葉だった。
家族の醜い穢れを一身に吸い込み、妹の美しさの「身代わり」として生きてきた私。
痛みで感覚を失った手も、鏡に映らない存在も、全ては家族のためだと信じていた。
でも、、そんな私、私じゃない!!
―― 私は、もう逃げない。 失われた人生を取り戻した今、私は、私に告げるだろう。
「私の人生に、おかえりなさい。」
仮面王の花嫁
松雪
恋愛
婚約者を腹違いの妹に奪われ、新しい相手も見つからず修道院に行く覚悟を決めたルチア。修道女となるため髪を切った日の夜、王城から「国王がルチアを妻に望んでいる」という書簡を持った使者がやって来た。
しかし、従兄弟であり恋仲だったニールが国王のせいで死に至った過去を持つルチアは、国王からの求婚を喜べずーー。
笑顔が苦手な元公爵令嬢ですが、路地裏のパン屋さんで人生やり直し中です。~「悪役」なんて、もう言わせない!~
虹湖🌈
ファンタジー
不器用だっていいじゃない。焼きたてのパンがあればきっと明日は笑えるから
「悪役令嬢」と蔑まれ、婚約者にも捨てられた公爵令嬢フィオナ。彼女の唯一の慰めは、前世でパン職人だった頃の淡い記憶。居場所を失くした彼女が選んだのは、華やかな貴族社会とは無縁の、小さなパン屋を開くことだった。
人付き合いは苦手、笑顔もぎこちない。おまけにパン作りは素人も同然。
「私に、できるのだろうか……」
それでも、彼女が心を込めて焼き上げるパンは、なぜか人の心を惹きつける。幼馴染のツッコミ、忠実な執事のサポート、そしてパンの師匠との出会い。少しずつ開いていくフィオナの心と、広がっていく温かい人の輪。
これは、どん底から立ち上がり、自分の「好き」を信じて一歩ずつ前に進む少女の物語。彼女の焼くパンのように、優しくて、ちょっぴり切なくて、心がじんわり温かくなるお話です。読後、きっとあなたも誰かのために何かを作りたくなるはず。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
記憶をなくしても君は忘れない
水城ひさぎ
恋愛
本田光莉(ほんだひかり)、アメリカ・ロサンゼルス在住フォトグラファー、28歳。光莉には、松村理乃(まつむらりの)という同い年の異母姉がいる。行方不明になった理乃を探すため、日本へやってきた光莉は、高校時代の元カレ、月島拓海(つきしまたくみ)と再会する。しかし、彼は高校時代以降の記憶を喪失していた……。
幸せの賞味期限――妹が奪った夫は、甘く腐る
柴田はつみ
恋愛
幸せには「賞味期限」がある。
守る実力のない女から、甘い果実は腐っていく
甘いだけのダメンズ夫と、計算高い妹。
善意という名の「無能」を捨てたとき、リリアの前に現れたのは
氷の如き冷徹さと圧倒的な財力を持つ、本物の「男」だった――。
「お姉様のその『おっとり』、もう賞味期限切れよ。カイル様も飽き飽きしてるわ」
伯爵家の長女・リリアは、自分が作り上げた平穏な家庭が、音を立てて崩れるのをただ見つめるしかなかった。
信じていた妹・エレナの狡猾な指先が、夫・カイルの心の隙間に滑り込んでいく。
カイルは、優しくて美貌だが、自分の足で立つことのできない「甘い」男。彼はエレナの露骨な賞賛と刺激に溺れ、長年尽くしてきたリリアを「味のないスープ」と切り捨て、家から追い出してしまう
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる