パンドラ

須桜蛍夜

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盈月

62

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「分かった。観念する。じゃあ、瑠璃は何が良い?」

瑠璃は既にメニューの看板を隅から隅まで舐めるように眺めている。

「チョコミント」

そして選んだのはなんとも彼女らしい味だった。

「賢太郎は? お金くれるなら一緒に買ってくるよ」

「んー、じゃあこのダブルチョコ味って奴」

「オッケー。席、確保するしといて」

二人を残してカウンターに向かい、列の最後尾につく。レジのお姉さんはバイトなのか、やけに会計に手間取っている。

ーーまだかかるかな。

視線をカウンターから外して店内を彷徨わせる。

ーーあ、居た。

いつも通りの仏頂面と気まずそうな少年の居る四人席を発見。

これもある意味目的の一つだった。最近、三人でなら会話は成り立つようにはなってきてたが、依然として賢太郎と瑠璃の仲は微妙なままだ。だから、二人きりという状況でその仲が縮まって欲しい。

しかし、そんな目論見とは裏腹に、時が止まったように二人とも動かない。

ーーあ、目が合った。

救いを求めるように賢太郎の瞳が私を向いた。だけど、あいにくバイトさんは二人目も三人目にも手間取っている。

『会話くらいしなさいよ。案外話弾むかもよ』

目で言う。『無理だ』と賢太郎は小さく首を振った。長い付き合いの賜物。きちんと伝わったらしい。

『ファイト』

それだけ伝えて目を逸らす。

「ミルクソフトでよろしいのですよね?」

「はっ? わたしゃ軍手なんて頼んどらんよ」

「いや、あの軍手なんて……ミ・ル・ク・ソ・フ・トですよね?」

「いんや、わたしはソフトクリームを頼んだよ」

「いや、だから……」

お姉さんは耳が遠いらしいおばあさんに苦戦している。順番は次なのにまだまだ時間がかかりそうだった。


ーーふぅ、ようやく買えた。

三つのカップアイスを手に入れたのは、並び始めてから実に30分が経過した頃だった。
正直少し疲弊している。待つというのは見た目以上に疲れるものだ。

「ん?」

その疲れてぼおっとした目が予想外のものを捉えた。

瑠璃と賢太郎が会話している。

私は瞬時に身をかがめ、人の影に隠れるようにして席へと近づく。なんとかして話の内容が聞こえる所までーー。

「巴、何してるの?」

即行でばれた。

「あ、あの……。アイス、ようやく買えたよ。うん」

笑顔で誤魔化す。と言っても、瑠璃は私に背を向けて座っているのだが。

「で、何話してたの?」

恥ずかしさを振り払うように、少し大声で問いかけながら席に着いた。

「あぁ、西山がこないだ読んでた本が俺も読んだことあるやつだったからその話して、そこから派生して色々と」

「巴の昔話とかも聞いた」

「えっ、賢太郎、何言ったの!」

「さあ~な」

慌てたように目が逸らされ、口笛なんか吹き始める。

「ねぇ、瑠璃……」

何を聞いたか尋ねようと隣を向けば、彼女はチョコミントが美味しかったのか、脇目も振らずにアイスをぱくついている。
その食べっぷりはなんだか可愛らしくて、質問する気も失せた。

ーーまぁいっか、それで二人の会話が弾んだなら。

今日はひとまず、二人の仲の進展に免じて許してやることにした。



それからは、他に寄り道することもなく帰路へと着いた。

「は~ぁ、楽しかった」

家に着くと同時にベッドへ飛び込む。今日の寄り道には大満足だった。

アイスは高いだけあって、濃厚で美味しかったし、瑠璃や賢太郎と買い喰いできたという事が楽しかった。

それに……。

『西山って、案外話し易いんだな』

帰り道で瑠璃と別れた後、賢太郎がそうぽつりとこぼした。それだけで、楽しさも倍増した気がする。

「次はもっと大々的に遊びに行こうかな」

天井を見つめ、仲の縮まった友人達への妄想を膨らませていった。

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