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覚悟
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「お座りになってお待ち下さいね。
今お酒をお持ちしますから」
「ああ、ミキエさん。今夜はビールにしてくれないか。武明はまだ若いからその方がいいだろう」
御幸はキッチンの方へ行こうとしたミキエに声を掛け、武明に聞く。
「ええ。確かに僕はまだお酒よりは」
ミキエは「かしこまりました」とにこやかに微笑んだ。
ビールが注がれたグラスをカチンと合わせ、軽く口にした御幸が徐に話し始めた。
「武明も、そのうち大人の遊びとして、恵三叔父からお茶屋遊びの流儀を学ぶといい」
琥珀色に輝くグラスの中でゆらゆらと上る気泡を眺める御幸に武明は肩を竦める。
「お茶屋……京都の花街ですか」
そうだ、と答える御幸はテーブルの上の瓶を取り、武明の空いたグラスに注いだ。
「会席膳の始めの一杯は日本酒なのだ。そんな流れを若いうちに身に付けておかなければいけないよ」
グラスを手にし、ビールを口にする武明は、あまり気乗りのしない顔をする。
「花街での遊びなら、お祖父様よりおじさんと思いますけどね」
御幸は微かに微笑んだ。
「私はもう、花街には行かない」
武明は、御幸の言葉に頑とした響きが込められていたように感じた。それ以上の言及を拒絶するような。
「そうですか。じゃあそういう遊びの礼儀作法はお祖父様が一番なんでしょうけど、父さんは」
〝父さん〟。
口にしてみて武明の胸に複雑な想いが込み上げる。
何も知らない父の過去の断片を、自然に探る形にしたが、御幸が数秒程沈黙した。ほんの一瞬ではあったが凍り付いたように武明には見えた。
おじさん?
武明が訝しがる気配を見せると、御幸は直ぐに自分を取り戻したかのようにフッと笑った。
「武さんは、昔は行ってたようだね」
御幸らしくない、濁すような物言いだった。武明の目が鋭い光を放つ。
父さんと花街に何かある。
推察できたが、その場は、ふぅん……とだけ反応し、聞き流した。武明の中ではまだ、全てのパーツがバラバラだった。
自分の父とみちるの父との間に確実に存在していた確執。父が持っていた写真の、みちるにそっくりな女性。
「武明」
グラスを片手に思案顔の武明に、御幸が問い掛けた。
「私に聞きたい事があったのだろう?」
顔を上げた武明の視線が、箸を取った御幸の視線とぶつかった。武明は「はい」と答え、グラスを置いた。
ゆっくりと口を開く。
「おじさんに聞いて確かめたい事が幾つかあるからここに来たのですが、その前に、僕はここではっきり断っておきます」
御幸は、武明の物言いに僅かに身構えた。
「僕はさっき、みちるとは別れたと話しましたが、諦めたのとは違います」
武明は少し前に微かに聞こえた御幸の電話の断片で心を決めた。
一度は諦めかけたが、みちるの傍にやはり男がいる。
みちるは誰にも渡さない。
「僕とみちるの間にある真実を知った上で改めてみちると向き合おうと思ったからです。今夜は僕の聞く事をおじさんにしっかり答えてもらうまで帰りません」
武明は、眉根を寄せ苦渋にも似た表情を浮かべ黙っている御幸をしっかりと見据え、深呼吸をし、再び話し始めた。
「では本題に入らせていただきます。父さんが、みちるを知っていました。自分の敵の娘だ、と言い、彼女が持っているであろう秘密を探れ、と僕に命じました」
武明の、ゆっくりと確かめるような口調で語られた言葉に、御幸の表情が動いた。
一瞬だけ見せた、ほんの僅かな狼狽の色を武明は見逃さなかった。
やはり、おじさんは何かを知っている。
武明の放つ眼光には、しなやかな物腰とは相反し対局する、屈強な鋭い内面が現れていた。御幸は小さく息を吐いた。
「武さんは、武明に何をどう探れ、と言ったのだ」
「父さんは、みちるが肌身離さず持っている何かがある筈だ、と言いました。確かに、彼女は母の肩身、というペンダントを持っていました」
きっぱりとはっきりとそう話した武明に、御幸はゆっくり静かに問い質した。
「武明は、それを武さんに話したか?」
「話していません」
話すものか。得体の知れない過去を持つ父に、大事なみちるの情報を安々と明かせる訳がない。
「要するに、君が私に聞きたい事というのは」
「父の過去に纏わる事です」
互いを牽制するかのような探り合いの空気の中で、御幸はフッと視線を外した。
「ミキエさん。燗した銚子を三本程置いていってくれたら、今夜はもういい」
キッチンにいたミキエは、直ぐに察しがついたようだ。お盆で燗されたお銚子を運んで来ると「では今夜はこれで失礼させていただきます」と深く頭を垂れて挨拶をし、出ていった。
静かになった食堂で、御幸は武明に盃を取らせた。盃に注がれる透明な液体を見ながら、御幸は静かに聞く。
「どんな話を聞きたいのだ?」
武明は盃を置き、改めて御幸を見据えた。脳裏で素早く思考を整理する。
父の過去。みちるの両親を、直接手を下した訳ではなくとも殺したかもしれない、という自分しか知らないであろう過去は、今は伏せる事にした。
深呼吸をした武明は、ゆっくりと口を開く。
「おじさんに見て欲しいものがあります」
「見て欲しいもの?」
怪訝な表情を見せた御幸に、武明は隣の椅子の背もたれに掛けてあったジャケットのポケットからあるものを出した。
御幸は、武明によってテーブルの上に差し出された写真を手にして見、表情を強ばらせた。
「武明、これは?」
武明は、御幸の想像以上の反応に微かな動揺を覚えた。
自分を律し、静かに答える。
「それは、父さんの書斎の引き出しの中に大事にしまわれていました」
「武さんがこの写真を大事に?」
御幸は、信じられない、という表情で写真を眺めていた。
武明に差し出された写真は、御幸に絶望をもたらしていた。
あの情の欠片もなさそうな津田武が、未だこんな写真を持っていた。
御幸の胸に微かな痛みが走った。
『右京はん。うちが愛した男はんは、うちを愛してくれはったんやのうて、うちを通して舞花を見てはったんどす。舞花の代わりにうちを抱いてはったんどすなぁ』
御幸の脳裏に甦る芸妓の涙、耳に甦る彼女の声。
武明が出した、武が大事に持っていたらしき写真に映るのは、若かりし日の津田武と一人の女性。
舞花か姫花。彼女達の容姿はよく似ている。しかし、御幸は見た瞬間、判別した。
舞花だ。姫花ではない。
あの男の中に姫扇はもういないのか!
何かに耐え堪えるように目を閉じた御幸を、武明は真っ直ぐに見詰めていた。
暫しの沈黙が続き、御幸がゆっくりと目を開けたのを見計らい、武明が静かに問い掛ける。
「そこに映るのは間違いなく、父さんですね? 隣の、みちるにそっくりなその女性は、誰ですか」
御幸の視線は写真に落とされたまま動かない。武明は続ける。
「そこにはもう一人映っていた形跡があります。おじさんなら何かをご存知かと思い、父さんの書斎からそっと持ち出したのです」
御幸は、そうか、と眼鏡を外し、目頭を親指と人差し指で押さえた。
何からどう話せば良い?
みちるの〝出生の秘密〟まで話すべきなのか?
御幸の脳裏を瞬時に様々な思考が駆け巡る。暫し思案していた御幸は心を決め、ゆっくりと顔を上げると武明を見た。
「そこに映るのは、中丸舞花(なかまるまいか)という女性だ。その切り取られた部分には恐らく、私の従兄である津田恵太という男が映っていたのだろう。彼等、恵太と舞花はみちるの育ての親だ」
「育ての……?」
武明は腑に落ちない表情をみせた。
写真の中の女性はみちるとの血縁関係を証明するかの容姿なのに?
母親じゃないのか?
気になる点はもう一つがあった。
「それにその、切り取られた部分に写るのが叔父さんの従兄だろうというのは?」
詰め寄る武明に、御幸は一語一語確認するように答えた。
「今から一つずつ話していこう。武明、心して聞きなさい。みちると君の関係についても及ぶ話なのだから」
武明が固まる。
「僕と、みちるの関係?」
御幸は決意する。武明に全てを話す事を。
みちるとの関係が許されるものではない事は、必ず武明に伝えなければいけない。
†††
「僕は初めて津田家の血が怨めしく思いましたよ」
話を聞く武明は、思いの外冷静だった。ただ、その穏やかで柔和な印象だった彼の表情が、変わった。
静かで感情の無い声で淡々と話す武明は、冷酷な空気すら漂わせていた。御幸はそんな武明を冷静に見詰めていた。
「帰ります」
武明は静かに立ち上がる。
「酒を飲ませてしまったからな。近衛に頼んで代行を出す。ちょっと待っていなさい」
御幸の気遣いに「はい」と素直に答えた武明は少し空を睨み思案し、静かに話し始めた。
「おじさん、僕は家を出ますよ。大学も辞めます」
どんな意味があるのか御幸は探りながら慎重に答えた。
「今の君は冷静な判断が出来なくなっているだろう。少し時間を置いてまた来なさい。相談ならいつでも聞く」
武明はフッと笑った。ゾクリとするような微笑だった。
「僕は冷静ですよ。みちると僕は〝戸籍上〟は何の問題もないじゃないですか。みちると僕はあくまでも〝いとこ〟なのだから」
言葉の意味を察した御幸は、何も答えず目を閉じた。
全てを知った上で諦めないのなら、私はもう止めまい。
恵太と同じ道を歩んだとしても。
恵三叔父。貴方が津田家繁栄の為、という大義名分で蒔いてきた〝種〟が、いずれ破滅へ導く芽を芽吹く可能性には考え及ばなかったのか。
御幸は立ち上がり内線電話を取り、執事の近衛を呼んだ。
†
今お酒をお持ちしますから」
「ああ、ミキエさん。今夜はビールにしてくれないか。武明はまだ若いからその方がいいだろう」
御幸はキッチンの方へ行こうとしたミキエに声を掛け、武明に聞く。
「ええ。確かに僕はまだお酒よりは」
ミキエは「かしこまりました」とにこやかに微笑んだ。
ビールが注がれたグラスをカチンと合わせ、軽く口にした御幸が徐に話し始めた。
「武明も、そのうち大人の遊びとして、恵三叔父からお茶屋遊びの流儀を学ぶといい」
琥珀色に輝くグラスの中でゆらゆらと上る気泡を眺める御幸に武明は肩を竦める。
「お茶屋……京都の花街ですか」
そうだ、と答える御幸はテーブルの上の瓶を取り、武明の空いたグラスに注いだ。
「会席膳の始めの一杯は日本酒なのだ。そんな流れを若いうちに身に付けておかなければいけないよ」
グラスを手にし、ビールを口にする武明は、あまり気乗りのしない顔をする。
「花街での遊びなら、お祖父様よりおじさんと思いますけどね」
御幸は微かに微笑んだ。
「私はもう、花街には行かない」
武明は、御幸の言葉に頑とした響きが込められていたように感じた。それ以上の言及を拒絶するような。
「そうですか。じゃあそういう遊びの礼儀作法はお祖父様が一番なんでしょうけど、父さんは」
〝父さん〟。
口にしてみて武明の胸に複雑な想いが込み上げる。
何も知らない父の過去の断片を、自然に探る形にしたが、御幸が数秒程沈黙した。ほんの一瞬ではあったが凍り付いたように武明には見えた。
おじさん?
武明が訝しがる気配を見せると、御幸は直ぐに自分を取り戻したかのようにフッと笑った。
「武さんは、昔は行ってたようだね」
御幸らしくない、濁すような物言いだった。武明の目が鋭い光を放つ。
父さんと花街に何かある。
推察できたが、その場は、ふぅん……とだけ反応し、聞き流した。武明の中ではまだ、全てのパーツがバラバラだった。
自分の父とみちるの父との間に確実に存在していた確執。父が持っていた写真の、みちるにそっくりな女性。
「武明」
グラスを片手に思案顔の武明に、御幸が問い掛けた。
「私に聞きたい事があったのだろう?」
顔を上げた武明の視線が、箸を取った御幸の視線とぶつかった。武明は「はい」と答え、グラスを置いた。
ゆっくりと口を開く。
「おじさんに聞いて確かめたい事が幾つかあるからここに来たのですが、その前に、僕はここではっきり断っておきます」
御幸は、武明の物言いに僅かに身構えた。
「僕はさっき、みちるとは別れたと話しましたが、諦めたのとは違います」
武明は少し前に微かに聞こえた御幸の電話の断片で心を決めた。
一度は諦めかけたが、みちるの傍にやはり男がいる。
みちるは誰にも渡さない。
「僕とみちるの間にある真実を知った上で改めてみちると向き合おうと思ったからです。今夜は僕の聞く事をおじさんにしっかり答えてもらうまで帰りません」
武明は、眉根を寄せ苦渋にも似た表情を浮かべ黙っている御幸をしっかりと見据え、深呼吸をし、再び話し始めた。
「では本題に入らせていただきます。父さんが、みちるを知っていました。自分の敵の娘だ、と言い、彼女が持っているであろう秘密を探れ、と僕に命じました」
武明の、ゆっくりと確かめるような口調で語られた言葉に、御幸の表情が動いた。
一瞬だけ見せた、ほんの僅かな狼狽の色を武明は見逃さなかった。
やはり、おじさんは何かを知っている。
武明の放つ眼光には、しなやかな物腰とは相反し対局する、屈強な鋭い内面が現れていた。御幸は小さく息を吐いた。
「武さんは、武明に何をどう探れ、と言ったのだ」
「父さんは、みちるが肌身離さず持っている何かがある筈だ、と言いました。確かに、彼女は母の肩身、というペンダントを持っていました」
きっぱりとはっきりとそう話した武明に、御幸はゆっくり静かに問い質した。
「武明は、それを武さんに話したか?」
「話していません」
話すものか。得体の知れない過去を持つ父に、大事なみちるの情報を安々と明かせる訳がない。
「要するに、君が私に聞きたい事というのは」
「父の過去に纏わる事です」
互いを牽制するかのような探り合いの空気の中で、御幸はフッと視線を外した。
「ミキエさん。燗した銚子を三本程置いていってくれたら、今夜はもういい」
キッチンにいたミキエは、直ぐに察しがついたようだ。お盆で燗されたお銚子を運んで来ると「では今夜はこれで失礼させていただきます」と深く頭を垂れて挨拶をし、出ていった。
静かになった食堂で、御幸は武明に盃を取らせた。盃に注がれる透明な液体を見ながら、御幸は静かに聞く。
「どんな話を聞きたいのだ?」
武明は盃を置き、改めて御幸を見据えた。脳裏で素早く思考を整理する。
父の過去。みちるの両親を、直接手を下した訳ではなくとも殺したかもしれない、という自分しか知らないであろう過去は、今は伏せる事にした。
深呼吸をした武明は、ゆっくりと口を開く。
「おじさんに見て欲しいものがあります」
「見て欲しいもの?」
怪訝な表情を見せた御幸に、武明は隣の椅子の背もたれに掛けてあったジャケットのポケットからあるものを出した。
御幸は、武明によってテーブルの上に差し出された写真を手にして見、表情を強ばらせた。
「武明、これは?」
武明は、御幸の想像以上の反応に微かな動揺を覚えた。
自分を律し、静かに答える。
「それは、父さんの書斎の引き出しの中に大事にしまわれていました」
「武さんがこの写真を大事に?」
御幸は、信じられない、という表情で写真を眺めていた。
武明に差し出された写真は、御幸に絶望をもたらしていた。
あの情の欠片もなさそうな津田武が、未だこんな写真を持っていた。
御幸の胸に微かな痛みが走った。
『右京はん。うちが愛した男はんは、うちを愛してくれはったんやのうて、うちを通して舞花を見てはったんどす。舞花の代わりにうちを抱いてはったんどすなぁ』
御幸の脳裏に甦る芸妓の涙、耳に甦る彼女の声。
武明が出した、武が大事に持っていたらしき写真に映るのは、若かりし日の津田武と一人の女性。
舞花か姫花。彼女達の容姿はよく似ている。しかし、御幸は見た瞬間、判別した。
舞花だ。姫花ではない。
あの男の中に姫扇はもういないのか!
何かに耐え堪えるように目を閉じた御幸を、武明は真っ直ぐに見詰めていた。
暫しの沈黙が続き、御幸がゆっくりと目を開けたのを見計らい、武明が静かに問い掛ける。
「そこに映るのは間違いなく、父さんですね? 隣の、みちるにそっくりなその女性は、誰ですか」
御幸の視線は写真に落とされたまま動かない。武明は続ける。
「そこにはもう一人映っていた形跡があります。おじさんなら何かをご存知かと思い、父さんの書斎からそっと持ち出したのです」
御幸は、そうか、と眼鏡を外し、目頭を親指と人差し指で押さえた。
何からどう話せば良い?
みちるの〝出生の秘密〟まで話すべきなのか?
御幸の脳裏を瞬時に様々な思考が駆け巡る。暫し思案していた御幸は心を決め、ゆっくりと顔を上げると武明を見た。
「そこに映るのは、中丸舞花(なかまるまいか)という女性だ。その切り取られた部分には恐らく、私の従兄である津田恵太という男が映っていたのだろう。彼等、恵太と舞花はみちるの育ての親だ」
「育ての……?」
武明は腑に落ちない表情をみせた。
写真の中の女性はみちるとの血縁関係を証明するかの容姿なのに?
母親じゃないのか?
気になる点はもう一つがあった。
「それにその、切り取られた部分に写るのが叔父さんの従兄だろうというのは?」
詰め寄る武明に、御幸は一語一語確認するように答えた。
「今から一つずつ話していこう。武明、心して聞きなさい。みちると君の関係についても及ぶ話なのだから」
武明が固まる。
「僕と、みちるの関係?」
御幸は決意する。武明に全てを話す事を。
みちるとの関係が許されるものではない事は、必ず武明に伝えなければいけない。
†††
「僕は初めて津田家の血が怨めしく思いましたよ」
話を聞く武明は、思いの外冷静だった。ただ、その穏やかで柔和な印象だった彼の表情が、変わった。
静かで感情の無い声で淡々と話す武明は、冷酷な空気すら漂わせていた。御幸はそんな武明を冷静に見詰めていた。
「帰ります」
武明は静かに立ち上がる。
「酒を飲ませてしまったからな。近衛に頼んで代行を出す。ちょっと待っていなさい」
御幸の気遣いに「はい」と素直に答えた武明は少し空を睨み思案し、静かに話し始めた。
「おじさん、僕は家を出ますよ。大学も辞めます」
どんな意味があるのか御幸は探りながら慎重に答えた。
「今の君は冷静な判断が出来なくなっているだろう。少し時間を置いてまた来なさい。相談ならいつでも聞く」
武明はフッと笑った。ゾクリとするような微笑だった。
「僕は冷静ですよ。みちると僕は〝戸籍上〟は何の問題もないじゃないですか。みちると僕はあくまでも〝いとこ〟なのだから」
言葉の意味を察した御幸は、何も答えず目を閉じた。
全てを知った上で諦めないのなら、私はもう止めまい。
恵太と同じ道を歩んだとしても。
恵三叔父。貴方が津田家繁栄の為、という大義名分で蒔いてきた〝種〟が、いずれ破滅へ導く芽を芽吹く可能性には考え及ばなかったのか。
御幸は立ち上がり内線電話を取り、執事の近衛を呼んだ。
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