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家族の中の軋轢2
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家に戻った篤がリビングのドアを開けると、祖父の大介が末妹の美羽に勉強を教えていた。
篤には兄と弟の他にもう一人、妹がいた。年が離れている妹の美羽は、まだ中学一年生だ。昭和一桁生まれの頑固一徹の祖父は、孫息子三人には説教と小言とタバコの煙しかくれないくせに、この孫娘にだけはべらぼうに甘い。
大介の相好を崩したふやけた顔を見た篤は、頑固じじいも形無しだな、と肩を竦めた。
「ただいま」
「おう、お帰り」
「あっちゃんおかえりなさーい!」
美羽の顔は篤の顔を見るなりパッと明るくなった。直ぐに立ち上がりパタパタと駆け寄ってきた。中学一年にしては幼いこの妹は、篤に一番懐いていた。
色白でくりくりとした大きな瞳。その可憐な容姿と無邪気な性格は幼い頃から変わらない。そんな美羽は、なぜかいつも篤のそばに来る。篤自身も彼女をかわいがってはいたのだが、中学生になってからの「あっちゃん、一緒に寝てよー」にはさすがに引いた。その時「男と寝るのはその日の為にとっておけ」と、訳のわからない事を言ってきかせ、母の奈緒にこっぴどく叱られた。
中学生になって純粋培養もないだろうに。篤は傍に来た美羽の頭を優しくなでた。
「あっちゃん、今日の試合大活躍だったってパパからきいたよ!」
「親父から?」
怪訝な表情を浮かべた篤は改めて美羽を見た。
「うん。さっきパパからの電話、美羽が出て話したんだもん」
さっきの兄にしろ、なぜ父までも、たかが練習試合の内容など知っているのだろうか。観ていた、としか思えない。グラウンドの周りには確かに、試合を観戦する生徒に混じって近所に住む野球好きのオジサン達の姿がちらほら見えた。しかしそこに父の姿があるとは考えもしなかった為、篤は目を向けもしなかった。
父が自分の試合を観る事など、篤は考えた事もなかった。篤の試合を家族が観に来たのは、一年前の夏、あの試合が最後だ。来たのは、祖父の大介だった。
試合後、大介に言われた言葉を篤は今でも忘れられない。きっと、一生忘れられないであろう言葉を大介は叩き付けたのだ。
『重圧に勝って本当のチャンスをモノにできないヤツには、無理だ。もうやめた方がいい』
大介は、大きなお茶農家である本家から分家に出た先々代から引き継いだ財産を元手に興した不動産会社を、一代で市内一、二の会社にした剛腕の持ち主だった。この家は、そんなワンマンな大介中心に動いていると言っても過言ではなかった。
そんな環境で育った篤にとって祖父の存在は絶対だった。まず祖父に認めてもらわなければ、という想いが幼い頃から強かった。だから、昨年の夏に祖父から言われた、まるで突き放すような言葉は篤の中で消えることなく胸に残るしこりとなったのだ。
「篤の部活は夏の間は終わらないのか。野球もいいが、そろそろその先の事も考えろ」
大介が静かな声で篤に言った。その声がいつにも増して篤の中にずしりと重く響いた。以前なら、素直にハイと言えたかもしれない。だが今は、頷くことすらしたくなかった。
宿題しっかりやれよ、と美羽にだけ声をかけ、篤はリビングを出た。
篤には兄と弟の他にもう一人、妹がいた。年が離れている妹の美羽は、まだ中学一年生だ。昭和一桁生まれの頑固一徹の祖父は、孫息子三人には説教と小言とタバコの煙しかくれないくせに、この孫娘にだけはべらぼうに甘い。
大介の相好を崩したふやけた顔を見た篤は、頑固じじいも形無しだな、と肩を竦めた。
「ただいま」
「おう、お帰り」
「あっちゃんおかえりなさーい!」
美羽の顔は篤の顔を見るなりパッと明るくなった。直ぐに立ち上がりパタパタと駆け寄ってきた。中学一年にしては幼いこの妹は、篤に一番懐いていた。
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中学生になって純粋培養もないだろうに。篤は傍に来た美羽の頭を優しくなでた。
「あっちゃん、今日の試合大活躍だったってパパからきいたよ!」
「親父から?」
怪訝な表情を浮かべた篤は改めて美羽を見た。
「うん。さっきパパからの電話、美羽が出て話したんだもん」
さっきの兄にしろ、なぜ父までも、たかが練習試合の内容など知っているのだろうか。観ていた、としか思えない。グラウンドの周りには確かに、試合を観戦する生徒に混じって近所に住む野球好きのオジサン達の姿がちらほら見えた。しかしそこに父の姿があるとは考えもしなかった為、篤は目を向けもしなかった。
父が自分の試合を観る事など、篤は考えた事もなかった。篤の試合を家族が観に来たのは、一年前の夏、あの試合が最後だ。来たのは、祖父の大介だった。
試合後、大介に言われた言葉を篤は今でも忘れられない。きっと、一生忘れられないであろう言葉を大介は叩き付けたのだ。
『重圧に勝って本当のチャンスをモノにできないヤツには、無理だ。もうやめた方がいい』
大介は、大きなお茶農家である本家から分家に出た先々代から引き継いだ財産を元手に興した不動産会社を、一代で市内一、二の会社にした剛腕の持ち主だった。この家は、そんなワンマンな大介中心に動いていると言っても過言ではなかった。
そんな環境で育った篤にとって祖父の存在は絶対だった。まず祖父に認めてもらわなければ、という想いが幼い頃から強かった。だから、昨年の夏に祖父から言われた、まるで突き放すような言葉は篤の中で消えることなく胸に残るしこりとなったのだ。
「篤の部活は夏の間は終わらないのか。野球もいいが、そろそろその先の事も考えろ」
大介が静かな声で篤に言った。その声がいつにも増して篤の中にずしりと重く響いた。以前なら、素直にハイと言えたかもしれない。だが今は、頷くことすらしたくなかった。
宿題しっかりやれよ、と美羽にだけ声をかけ、篤はリビングを出た。
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