この夏をキミと【完結】

深智

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父の謎

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 父の和也が運転する車の助手席で篤は窓に肘を掛け頬杖を突き、流れる景色をボンヤリと眺めていた。日が長いこの季節、七時を迎えようとする時刻だったが、辺りはまだ明るい。空は、西に姿を消した太陽の余韻と東から迫る夕闇とがせめぎ合うようなコントラストが拡がっていた。

 父と二人で、車で出かけるなんて何年ぶりだろう。いや、こんな事はなかったかもしれない。会話のない沈黙の車内は、走る車のエンジン音しか聞こえなかった。重苦しい空気は息苦しささえも催す。次第に暗くなってゆく車窓の景色は、自身の心を映し出しているようで、篤は内心でため息をついていた。

 和也は婿養子だった。長兄の忍は、和也が二十歳、奈緒が十六歳の時の子だ。いわゆるデキ婚だったと聞いている。娘しかいなかった大介が婿養子になる事を条件に許した結婚だったという。

 大介の会社で働く和也は、家ではもちろん、会社でもその、目の上のたんこぶのごとき義父に頭が上がらない。そんな父は篤の中で、幼い頃から祖父の影に隠れた、立場の弱い存在でしかなかった。

 薄暗くなってゆく車窓を見ながら篤は、胸にわだかまる想いを放出出来ぬまま、むっつりと黙り込んでいた。
聞きたい事はいくらでもある。しかし、幼い頃からろくな会話を交わして来なかった父と、今さら何をどう話せというのか。



 自宅から二十分程車を走らせた県境にあるスポーツレジャー施設内にバッティングセンターがあった。

 土曜の夕刻、ネットで仕切られたケージが並ぶバッティングセンターは、学生と思しきグループや野球少年とその父と思われる親子連れ等で賑わいを見せていた。

 ボックスになっているケージの入口にはそれぞれ球速表示が付いており、七十キロから百四十キロまで順に並ぶ。篤はその中で、一番奥にある百四十キロという札が掛かったボックスに向かった。

「高校野球で140キロの球なんてめったにお目にかかれないだろ」

 背後から和也が声を掛けられたが、

「今日は何も考えずにガンガン打ちたいんだよ。大会前にちゃんとゆるい球に合わせていくんだよ」

 ぶっきらぼうにそうとだけ答えた。自前のバットをケースから出した篤は、傍のベンチにそれを置き、ボックスの中に入っていった。



 キイン! と小気味よく連発する金属音と共に長打系の打球がケージから次々に飛んで行った。

「よぉしっ!」

 コインを使い切りマシンからの送球が切れると、篤は拳を握り軽くガッツポーズをした。もう少し続けよう、とポケットから財布を出した篤の目に、背広の上着を脱ぎネクタイを外し、ワイシャツの腕まくりをする和也が見えた。

 おいおい、と飽きれた篤はボックスから出ると父に声を掛けた。

「親父、何始める気だよ」

 怪訝な顔で話し掛ける篤に和也は、嬉しそうな笑みを見せた。

「いや、この空気の中にいるといてもたってもいられなくなってな」

 そう言いながら、和也は隣の空いていたボックスに入った。篤は慌ててその傍に駆け寄った。そこは、球速百四十キロのゲージだった。

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