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一章 元おっさん、異世界へ

12 亜人I

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久しぶりに人間らしい生活をしている。
前世ではもちろん人間だった為、対応するのは時間は掛からなかった。グリフィンの“フィン”と一緒に王都の方へ出て行くと、何やら人だかりが出来ている。

「ガルルルッ!」

フィンは酷く興奮している。何者かに対して威嚇しているようだ。今はまだ、昼頃。そんな時間に何が起こっているのだというのか。王都の中でも人が多く集まる噴水広場。俺たちはそこへと足を運ばせる。
行ってみると、どうやら。制服らしきものを身に纏っている人物達がいた。学校の制服っぽく、よくある貴族に通う生徒達だろうか?
だが、なぜ貴族の令嬢達が人だかりに囲まれているのか。別の国の学校か?それとも、何かをやらかしたのか…。
理由はどうであれど、厄介なことが起きないように祈っておかないと。

「私たちは……」
「余所者はどこか行け!!ここは人間が住まう場所だ!!」
「この亜人共め!」

亜人…。という事は、人間とはまた違った種族。どうやら、この国の人たちじゃ無いみたいだ。国民達の怒鳴り声。それは凄まじいものだ。だが、身なりでは貴族の息女に見える。しかし、どうやらここではそれは通じないようだ。
ファンタジー世界では、獣人なんかも存在するのだろうが、彼女達には人間とは違う獣耳が生えている。尻尾も存在しているし…。なら、亜人という定義に当てられるが、本当は獣人…?なのだろうか。

(…どうするか。別の方にこの人たちを移動させるか?ここ辺りには魔物など存在しなさそうだし)

そこで一つのことが頭に思い浮かぶ。別の場所に移動させればいいんじゃ無いか?と。
それに有効なのは『転移移動ワープ』
異世界では鉄則だと思っている。
これしか思い浮かばない為、国民達にバレないように、小さく詠唱を唱える。もちろん、魔法発動時の条件を満たすためには、二つは必ずしないといけない。

・一言一句正しく
・魔法放つポーズ

要約はこんな感じ。詠唱を言い放つときも、一言一句違いしないように。そして魔法を放つには、体内にある魔力を手から出すというイメージを思い浮かべなきゃ、発動はしない。何かしらの理由で失敗する恐れがある。魔力が暴発でもしたら、俺はここに居られなくなる。

「———『転移移動ワープ』」

最終的にその言葉を唱えると、彼女達の足元には大きな魔法陣が展開され、ぐるぐると周り、青い光を放つ。

「ぐっ!?何だこれは!?」
「一体誰がやりやがった!?」

パニックになっている最中に、ここから近いところへとワープ地点を設定し、そしてワープを確実に行う。これで何とかなっただろう。

ヒュン!

といった感じで、彼女達は魔法陣と共に消え去った。ここには用は無くなった為、先程設定したワープ地点へと急ぐ。フィンの背中に乗り、フィンの早い脚力でその場所まで急ぐ事に。

♢♢♢

「こ、ここは…?」
「一体、誰が…」

私たちは魔物達から襲われ、たまたま目の前にあった王国へと急ぎ走ったが、国民達から追い出されそうになってしまった。
私たち亜人は、いつもそうだ。亜人と言うだけで、差別に遭い、私たちの友人や家族は奴隷にされてしまった。魔物から襲われた村は、火の海へと消え去り、跡形もなくなる。村にいた人たち、ほとんどはどこかへ避難していたが、私たちは逃げ遅れた。
今、こうして生きているのも、運が良かっただけだろう。そして、誰が私たちを流してくれたのか…。もし、その人の力を借りれば、みんなを———。
いえ、だめ。見ず知らずの人を巻き込むわけには行かない。

「ねぇ、これからどうする……?」

恐る恐る聞いてくる、私の友人。“カメリア”
一緒に逃げた女の子。彼女は犬族の末裔な為、耳は犬耳だ。
そして私の名前は、“ローズ”
私は猫族の末裔者。私の耳は猫耳。
これからどうするべきか。わからない…。だけど、どうにかしないといけないのかも知れない。このままだったら、奴隷商の人にまた追いかけられる…!

「あの、」

足音が鳴り響いた。ここは路地裏的な場所。人目がない場所だ。そこで足音。もしかして、位置がバレた!?ど、どうしよう…。売り飛ばされる……?
現れた人物は、私たちと同じ身長もしくは、少し小さいぐらいの女の子。黒い髪色に、輝く緑の瞳。吸い込まれてそうな瞳だ。華奢な体型をしており、グリフィンの背中に乗っている。

「ど、どなたですか……?」
「あぁ、あんま警戒しないでね。えーと、君たちはどこから来たの…?」

口調的には全然優しい。だけど、油断出来ない。その人はグリフィンの背中から降り、私たちの方へとジリジリとやって来る。怖い…。身をすくんでしまいそうだった。

「自分の名前は、“ヴィーゼ”
怪しいものじゃないよ」

そう優しそうな笑みをこぼし、手を差し出す。信じて、良いのだろうか?私たちは、人族から嫌われる、亜人。この人も異端扱いされてしまいそうだ。それがただ、不安で一杯だった。

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