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二章 元おっさん、帝国へ

32 帝国内の様子

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青竜が封印を解かれてから、一週間後。国は大変なこととなっていた。青竜が放った炎の攻撃で、焼かれた街。幸いにも負傷者は出なかったが、復興まで時間は大幅にかかると皇帝は判断する。

「ハァ、あいつらにはもう呆れたぞ」
「私も同じ気持ちでございます……。あなた達に何とお礼を言ったら良いか……」

事態を起こした張本人、エレーナは遠い地にて送り出される事となった。そこはスラム街とも言えるぐらいの劣悪な空間。そこへと送り込まれたエレーナとついて行ったグロウは、大変な苦労をしているとのこと。
国外追放となり、家族からの縁も切られた2人は、遠い地にて兄妹で暮らしているだとか。

噂は風で流れてくるが、噂は人によって誇張する恐れがある。その為、真実か否か。定かではない。

皇帝と皇后は改めて、ヴィーゼ達に謝罪をする。ヴァルとリクも2人に誠心誠意謝った。

「俺たちからも申し訳ない。あの馬鹿どものせいで、ランスさんの友人さん達にまでご迷惑をおかけし」
「いえいえ、どうぞお気になさらず……」
(言っていいのか分からんが……。いや、やめておこう。これは侮辱に過ぎない)

ヴァルの言葉に同感を覚え、2人は帝国代表である皇帝から品を受け取る。
小さな宝箱に入っている紋章入りの指輪。サファイアがはまっており、国宝級の物だと言う。

「それは皇族の知り合いの証。どうぞ、受け取ってください」
「え、いやいや! 受け取れないですよ! 王族であるランスならともかく! 庶民である自分には!!」
「いや、君にも受け取ってほしい。青竜を止めたのは君たちなのだから」

確かに青竜が炎のブレスを吐いた時、真っ先に街から自分たちの方へと移すように、真っ向から戦いを挑み、死闘の果て終幕をした。
魔法を放ち、剣を使い、青竜の硬い鱗に攻撃を当てていく。
そんな先日の夜を、皇帝は見ていた。兵を率いり、皇帝自ら戦いを挑んだのだ。

「ランスもすまなかったな。あの馬鹿どもの愚行のせいで。君にまで迷惑をかけてしまった。本来なら、処罰はあんな生ぬるい物じゃなくてよかったのだぞ。君にはそれを選ぶ権利がある。それほどのことをされたのだから」

「……確かにそうかもしれません。ですが、私にはもう関係のなくなった人たちなんです。皇帝様の私目の心遣い、痛み入ります」

皇帝に深々と頭を下げ、謙遜する。サファイアがはまっている指輪を、ヴィーゼ達は受け取る。
煌びやかに光るサファイア。ヴィーゼ達はその指輪を指につける。

(すごっ、皇族の知り合いの証……。この人達、本当にいい人たちだな……)

(ほんと、ヴァルさん達にはお世話になったばかりだったな)

「では、アンナ。ランスさん達をお願いします」
「はっ!」

手を胸に当てる。アンナは玉座の間を出て行った。
玉座から見下ろす皇帝と皇后。そして玉座の間の壁に寄りかかっているヴァルとリク。

♢♢♢

帝宮から去った後、帝国を見て回っていた。
帝国内には市場、図書館、飲食店、そして掲示板、他にもギルドなんかも存在している。
帝都の真ん中には、像が建てられていた。
1人の冒険者が鳥と戯れている像。その鳥は不死鳥フェニックス

その冒険者というのは、皇帝の先祖。この国の初代皇帝。では、何故。フェニックスがこの国の象徴なのか。
それは初代皇帝がフェニックスを使い魔としていたから。
その由来から国の紋章というのが、フェニックスとなった。
赤い鳥を象徴させ、その神秘さを思わせるような紋章の旗。
それが騎士団の象徴ともなるもの。

(リンゴみたいな奴だな)

市場の方へ行くと、赤い果物が置かれてあった。りんごのように真っ赤なもの。甘い匂いが漂う。
果物屋のおっちゃんに、尋ねられた。

「どうだい? お嬢ちゃん達」
「ヴィーゼ、リンゴを買うの?」

隣にいたランスは、ヴィーゼに尋ねた。
ランスのその言葉にヴィーゼは驚きを隠せない。驚愕が心を襲い、目が点となる。

(え、この世界にリンゴってあんの? にてるとかじゃなく?)

1つ銀貨5枚。果物屋のおっちゃんからリンゴを二つ買い、銅貨10枚を渡す。
リンゴを受け取り、それを隣にいたランスに渡した。きちんと水で洗い流し、真っ赤なリンゴを口に運ぶ。

ムシャムシャ。

甘い味が口いっぱいに広がる。座れる場所にランスと共に座り、一緒にリンゴに齧り付く。

「んー! 甘い!」
「確かに美味しい」

リンゴにハズレはない。と思っている。
何故なら、甘いものにはハズレはない。
甘い物好きである。
復興には時間がかかるらしいが、帝国の人々のおかげでかなり進んだ。
炎で荒れていた街だったが、少しずつ復興していく。

「いやー、先日は大変だったねぇ。大丈夫だったかい?」
「えぇ、もう大変だったわね」

近くでおばさん達の話し声が耳に入ってくる。
それをたまたま聞いていた2人は、同感した。あの時の青竜の戦い。確実に生きるか死ぬかぐらいの激烈な戦いだった。

(ハァ、本当に生きているのが奇跡なぐらいだわ)

ため息を吐き、先日のことを嫌でも思い出してしまう。





~一週間前の出来事~

青竜の封印が解き放たれ、ヴィーゼたちの身体中には、傷跡が残るぐらい激戦状態。

『ヴァアアアアアア!!』

「ぐぅっ! くそ! 炎攻撃で近づけねぇ!!」

もう男口調になるぐらい、切羽詰まっていた。
羽ばたかせている翼。緊迫とするこの状況。心臓のドキドキが止まらなく、それを追い込ませる炎の広がり。

「『氷塊放射グラソン・アロー』!!」

魔法での交戦。氷塊を出し、それを青竜に当てるが、全くもって効果なし。

(これじゃあ、ダメなのか。ステータスで『鋼線』があるな。これでいけるか? いや、それでももしダメなら? いやいや、やるしか無いだろ)

何故かギルドカードを見なくとも、脳裏にステータス画面が見える謎原理。
理由を知らないヴィーゼからしたら、「何で異世界でバグが起きるんだ」と言いたいが、ここは不思議な国。
他の国よりも遥かに近代的だ。どれだけ魔導の力が偉大か知らされる。

(『鋼線』で何とかできたら……。あ、行動を制限できるんじゃ無いか? それに、新しく手に入れた固有魔法スキル。それは———)

「———そこを動くなよ!! トカゲ野郎!! 動いたら………体が切り刻まれるぞ」

固有魔法スキル切断の空間ジ・エンド』。指定した空間、どんなものでも切ることができる糸が張り巡らせている。それはまさに、相手がたとえドラゴンであろうと、その鱗を切り刻むことが可能というわけだ。

既にそのスキルを使い、そしてドラゴンには話が通じるわけもなく、

『ギャオオオオオオ!!』

と威嚇をし、そのまま動こうとしたが、

『ギャアアアアアア!!』

その空間を動いたことにより、体が切り刻まれ、そのまま悶えながら地面に落ちていく。

(…………勝った。後で聞いてみるか。この………バグの正体)

ギルドカードを見ると自分のステータス画面が見える。だが、ギルドカードで見なくともステータス画面が見えるという不可解。
それをヴィーゼは気になりまくっていた。






(ハァ、結局聞くタイミング逃したし……)

と、先日のことを思い出しながら、リンゴを頬張っているのと、大きなため息を何度も吐いている姿を隣でランスが見ていた。

(結局は隠密魔法も取得できなかったし。あいつ、今頃何やったんだろうなぁ……)

少しばかりの関係ではあるが、その男が今どこで。何をしているのか。もしや、王国の方で覗きを楽しんでいるのか、はたまたそれが見つかって捕まっているのか。

「ぬわぁああああ!! 早くねぇか!?」
「居たぞ! 覗き魔、まてぇええええ!!」
「うわぁああああ!!」

必死に騎士団から逃げている覗き魔であった。

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