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僕の普通が行方不明になりました。誰か知りませんか?

01-03 初めてのスニーキング

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出発してから数分――騒動が始まってから軽く見積もっても二時間以上が経った今、晴れていた空はいつの間にか曇り始め、埃っぽかった空気は少し湿気を帯び始めていた。
冬とはいえ、今着ているパーカーで十分過ごしやすい気温だったのに、それなりに活動しているので少し汗ばんできたのが少し鬱陶しかった。

そして銃声のような音は途切れることなく、散発的にではあるけど聞こえ続けていたから正直死屍累々、阿鼻叫喚の地獄絵図といったのを覚悟していたんだけど……いい意味で裏切られた。

目的地方面では銃声の音がしないからっていうのもあるんだろうし、MACYでレーダーとも呼べるそれのおかげで人に見つからないよう進んでいるから、僕が避けてきた場所ではもしかしたらそんな光景が広がっているのかもしれないけど。

あ、一応説明すると、生物から発生している微弱な電波を感知しているから僕は便宜上レーダーと呼んでいるけど元々正式に搭載された機能というわけじゃないし、無理やりに運用しているから感知できるのも開けたエリアで30メートルぐらいが限界なんだそうだ。
一応欠点も存在するけど、こんなに本格的なスニーキングは初めてだから欠点なんて気にならない。ホントにありがたい。

これまで全ての反応を避けてきたわけだけど、ほとんどの反応はテロリストと思しき銃を持ったのばかりだった。というのも建物の中まで逐一確認したわけじゃないし、中にはただ身を潜めている現地人だったのかもしれないけど。

まぁそれでもレーダーだけを頼りにしてるから生物しかわからないし、目隠しして進むわけじゃないから、見たくもないものを見てしまったのは一度や二度じゃない。
ここは観光地だし、この島の中でも有数の都会である、ってことは人の多さもそれなりだってことを加味するとまだ少ないほうだとは思うけどね。

ともあれ結果的に一人で行動してたのも理由の一つだけど、ここまで早く到着できたのは今も通信している彼女のナビとレーダーのおかげだ。

彼女っていうのは、あの古代文明のテクノロジーを運用して僕を助けてくれた人だ。
――まあ、僕が死にかけたのもそのテクノロジーだったから、マッチポンプと言われてしまうと否定はできないけど……、死にかけた記憶がないんだからそれは言うまい。
死にかけた記憶がないから助かった実感も薄いけど、色々見て聞いたあとだとテクノロジー事態は受け入れてしまってるし、現在進行形で助けられてるからそのあたりはもうわだかまりだったり疑問だったりは持ってない。

先日スマホの機種変更し、後輩二人と食事した後は家に帰って今回の旅行の準備をしたあとも彼女と少しだけ話をしたんだけど、こんなことになるならもっと色々聞いておけばよかった……、誰もこんなことになる想定でアレコレと動く人なんて犯人側しかいなさそうだから、どうしようもないか。

心の中で感謝とどうしようもない後悔をしながらも彼女の指示通りに準備を着々と進めていた。
時間がない中で着替えさせられたのはヤキモキしたけど、どうやらさっきよりもより防御面では信頼のできる素材の服らしい。
見た目は極々普通のカジュアル。上着は薄茶色のマウンテンパーカーだし、下はグレーのカーゴパンツでとっても動きやすい。というかさっきとほぼ一緒。
よく見れば色味が若干? を始めとした、ほぼ間違い探しみたいになってる。

だけどふと思ったことがある。
声に出すつもりはなかったんだけど、つい口に出てしまったようで、通信チャンネルもオープン状態だから当然彼女は僕の声に反応してきた。

「うーん……」
〈どうしたんですか?〉
「あー、なんて説明したらいいのか……、こんな状況、初めてなのになんで今僕は落ち着いてるんだろって気になると言いますか……。まぁ平静でいられるのは助かると言えば助かるんですけどね。不思議な感じになりまして……」
〈そのことですか。まだ伝えていなかった部分ですが、有事の際や極限状態時にはパニックになったり自傷行為を防ぐ目的で脳内物質を抑制しています。もちろん常時というわけじゃないですよ。それに抑制しているといっても平時と同等程度には喜怒哀楽などの感情を感じられるよう調整されてますので。つまり、怒ることはできるけど、キレることはないといった感じですね〉

マジすか。なんか重要っぽい情報をサラッと……。
最初の機能説明でよく理解できてない部分は多々ありすぎて、挙句僕の都合で切り上げてしまったのだから、聞いてないことが多いのは確実に僕のせいなんだけども。
今更感は強いけど、やっぱり把握しておくべき情報は把握しておかなきゃいけないよね。
ついでに頭良くしてもらえないんだろうか。
そんなことも聞いてみたら、MACYの機能で脳の性能を上げることは可能といえば可能だけど、脳はデリケートで傷つきやすいからお勧めできないと言われてしまえば無理にお願いもしたくない内容だ。結局すごいのはMACYで、僕は僕ってことか。

なんにせよこんなことが起きたからにはMACYについてしっかり把握しておきたいって気持ちが膨れ上がってきた。

「というわけで、僕の頭でも理解できるようにMACYのことを教えてほしいんですが」
〈“というわけで”がどういう意味かわかりませんが、わかりました……、けど――〉
「けど?」
〈MACYの仕様・特性の説明だけで……、どう例えたら……。そうですね、日本の広辞苑換算で4冊と少しほどあります。こんなことに巻き込まれて思ったことなんでしょうけど、今すぐどうこうというのは私でもちょっと……〉

Oh……。これは僕の要求が無茶でした。
それだけの情報量があれば僕がどの部分を求めているかはっきりしないと彼女も何から伝えていいかわかんないのも仕方ない。“仕方ない“じゃないな、僕の要求がアバウトすぎたのが悪いんだ。

人によっては事故に巻き込まれただけの被害者だ! とかって只々被害者面して全責任を加害者に――なんて人もいるけど、僕はそういうのは好きになれなくて、それとこれとは別だと思ってる。
もちろん全面的に加害者側が悪いって場合もあるけど。
なのにいざ自分に降りかかったときに思ってたこととやってることが違っていたのはかなり良くないね。

それから彼女が優秀すぎて現段階まで自分の環境に不都合を感じられなかったから、優先順位を間違えたっていうのも……。
今、巻き込まれてるのは自分で、彼女は手助けしてくれている立場でしかない。そこを履き違えちゃいけない。

「ホントすみません。なんかかなり無茶を言ったようで。けど、どうしたものか……すごいものだっていうのはなんとなく理解できたんですけど……よくわからないままに痛い思いはしたくないのも事実ですし」

車とかみたいにカタログスペックみたいなので客観的に手軽に把握できたらとも考えたけど、利用者との相性次第で数値によっては倍以上変わることもあるみたいだし、例えば“自己増殖力”とかの説明を筋肉や白血球との比較で説明してくれたけど、すごさは何も伝わらない。
僕の基礎知識がないから行動の指針にもなり得ない。
専門の人ならそのすごさとかがもしかしたら伝わるんだろうけど、僕程度の知識じゃさっぱりだった。

「まぁ、必要なことだから勉強しないとか……。とりあえずしばらくはその時に必要なことや、気になったときに聞くのがベターでしょうか?」
〈私もそう思います。とりあえず現状は必要以上に過信しないような行動を心掛けてください。MACYのおかげで普通の人よりも生存率が上がっているとはいえ、ライフルクラス以上の貫通力は防ぎきれないので〉
「……ライフルクラス?」
〈流石に一点突破力がありますからね。MACYのエネルギーも無限ではありませんので、自動小銃でも撃ち続けられればいずれといったところです〉

いやまぁそういうつもりで聞いたんじゃなくて。
ライフルとか、普通の民間人がそんなもので狙われるなんて想像できなかったから思わず聞いてしまっただけで。
あと、いずれって何? そこで止められた方が逆に怖いんですけども。

っていうかよくよく考えてみたら、有事の際にはセーフティーがかかるとか、防御面の説明とか、まぁ今は必要な情報だからきちんと受け入れるとしよう――でも、だ。普通の日本人ならこんなことに巻き込まれるとか、まず無いよね。生きて帰れたらそれこそ必要ない情報じゃないか? なんか雰囲気に飲み込まれて流れで勉強するとか言っちゃったけど……初心に帰ろう。
こんな体になっちゃったけど、僕は普通の人生を取り戻すつもりでいるんだから。

なにはともあれ。まずは生きて帰る。じゃないと話にならない。

それにしても準備に手間取って長居してしまった。何気に水と食料を見つけるのに苦労した。
そりゃホテルだから厨房に行けば食材はあるし、水道もまだ使えたから水も出るけど、調理前の生肉や野菜を持ってくわけにもいかないし、料理する時間もない。そんな時間があったとしても、まさかこんな状況にも拘わらず皿に盛ってグラスに水入れて持ってくようなバカはいるまい。

そういう理由もあって右往左往してたら、地下にシェルターがあって、そこに水と非常食が保管されてるのを見つけた。シェルターを見つけたとき避難してる人がいるかなって少し期待した。
もし居たらこういう場合の避難場所とか確認したかったのに残念でならない。

最後に、見つけた水と食料をスーツケースの空いた隙間にねじ込んで、これまた言われるがままに操作をすればあら不思議、キャリーバー(転がすときに持つとこ)が外れて警棒みたいになったり、ケースがガシャコンという音と共にスリムになってバックパックになり、無防備な背中の防御も一安心!
しかもこの警棒、スタンロッドなんだってさ。

元々の体の丈夫さに加えて装備によって防御力はアップし、もしかしたら銃を持ったテロリストと対峙するかもしれないのだから無手よりはスタンロッドでもあったほうがいいんだから助かるけどさ……

「一つ聞いておきますけど……、僕の記憶が確かなら、これ空港の検査通ってましたよね……?」
〈この程度の科学力ならばいくらでも誤魔化しようはあるのです〉

えぇー……、この人、誤魔化すとかはっきり言っちゃったよ……。
さっきも思ったけど、ないよりは助かるんだけどさ……、これ、ピンチ乗り切ったら自首とかすべきなんだろうか……、なんだろうなぁ……。

『僕は普通のスーツケースだと思ってたんです! 信じてください!』
『でもキミ、棒振り回してたよね?』

うん、今はうまい言い訳見つからない。
どのみち死んだら意味がないんだし、生きて帰れるんならちょっとぐらいの罪なら覚悟しよう。
っていうか、テロリストが悪いんだし。
そうだ! テロリストから奪ったことにしよう! 銃を奪って使うなんてできないし、きっとこういう警棒ぐらいなら一人ぐらい持っててもおかしくないだろうし。

〈なぜか表情が暗くなったり明るくなったりしてますが、準備はよろしいですか?〉

はい。ちょうどいい具合の言い訳見つかったので。

「ところで本当にありがたいんだけど、こんなに装備が充実してるはなぜでしょう?」
〈それは念のためですよ。よかったじゃないですか、何もないよりは〉
「いや、そうなんですけどね、でも……」
〈これでも考え抜いた末なんですよ。もう普通には動けてますけど、まだ肉体と精神の結合には不安定な部分もあるんです。ということはまだあなたは私の患者さんなんです。念のために患者さんのQOLについて考え抜いておくのも私の努めです〉

なんかすごい満足気にしてるとこ悪いけど、僕は彼女の念のための万能感が半端ないことのほうが気になるんですが……。
いやまぁ、そのおかげで現在大助かりなので文句言うつもりはないけど、でもQOLは絶対違うよね? 
……この人優秀なのに、たまにこういうズレたとこあるよなぁ。

「まぁその“念のために”には感謝しておきます」
〈なんか含みのある言い方が気になりますが……、そろそろ戻りましょう〉

まったく、帰ったら聞きたいメモが増えていって仕方ない。
結局ホテルでは期待していた情報は見つからなかったし、フロントから外を見れば今にも雨が降ってきそうな空模様だしで、気持ち精神的な疲れを感じながら念のためにフロントに置かれていた観光マップを適当に掴んでポケットへとしまった。最初に持ってた観光ガイドよりはいい情報が載ってるといいんだけど、所詮僕の念のためだから期待はできない。

〈まずいですね。降る前には合流したいところです。急ぎましょう!〉

さっきまではまだ余裕のあった彼女の口調が硬くなった。
先んじて生物がいるかいないか感じ取れるなんて、素人でもわかる大きなアドバンテージが失われるかもしれないんだから、もしそうなったらそれだけ状況が悪くなる。それは僕にも十分伝わった。

全てが順調だったわけじゃないけど、やれることはしてきたはずだ。あと僕にできるのはしてきたことが正しいと信じて進むしかない。







「お待たせ、水と食料見つかったよ。他にはなんも見つからなかったけど」
「あああぁぁ……、良かった……八崎先輩無事だったんですね……!」

なんとかかんとか無事に二人の元へ戻ることができた。
出るときは見る余裕なかったけど、空間迷彩はマジですごいと思った。
ほんとに壁にしか見えなくて、きちんと感覚まであったからびっくりだ。
当てた手を更に押し込むと貫通? したからよかったものの、知ってる僕まで騙されるぐらいだからホントにすごい。

僕がいつ戻るかとかわかんなかったのに、騒がずに大人しく待っててくれたけど、よく待っててくれたな。
僕ならきっと待てなかったと思う。
いや、それだけ僕を信じてくれてたと思えば嬉しさもこみ上げてくるけどさ。

二人を労いつつも水を二人に渡すとがぶ飲みせず味わうように噛みしめながらゆっくりと飲んでくれた。

「先輩、ありがとうございました。おかげで落ち着きました。あとその、危険なこと任せてしまいすみません……」

感謝と謝罪をしてきたのは美作さんで、最初に声かけてきたのが武蔵君だ。
もちろん武蔵君だって感謝とかしてくれたけど。

それにしても途中で雨が降ってきて、最後にはかなり雨脚が強くなってきたときはホントに参った。
今まで以上に慎重にならなくちゃいけなかったからかなり時間がかかってしまった。
雨が足音を聞こえづらくしてくれたのはありがたかったけど、それは相手にも同じことが言えるし。
ところどころでヒヤリとしたこともあったけど、一先ずは無事を喜んでおこう。

ついでに僕も水分補給をしてほっと一息ついたタイミングで美作さんが時計を渡してくれた。
おっと、ほぼ忘れてた。
あとはホテル出るときに持ってきた観光マップも出しておく。

「ガイドマップにも載ってるかもしれなかったけど、念のためにこれも持ってきたんだ。避難場所とか見つかればと思ってね」

そういうと二人とも少し表情を陰らせた。

「なるほど。でも残念ながらガイドマップには載ってなかったんです……そちらにはあるといいんですが……」

代表して声に出したのは美作さん。
既に探してくれてたのか。なんていうか、高卒の僕と違って大卒だからってだけじゃなく二人とも頭がいいだけじゃなく、非常事態でも慌てることなく文句も言わないし、すごいって言葉しか出てこない。
あとは僕のボキャブラリーのなさもある意味すごい。


とりあえず何を目印に探していいのかわからなかったから、武蔵君に目安を書いてもらった。
それを合図にそれぞれがマップを手に取って探していったけど結果としては確実に避難所と思われる場所は見つからなかった。

「日本でなら役所等の公共施設や病院でならと思いますが、テロの場合は真っ先に狙われそうでもあります」
「そうですね。あとは公園とか開けていて大人数が避難できそうな場所が推奨されてることが多いですけど、開けてる分この場合危険そうですよね……」
〈なのでこの場合はテロリストに見つからないようにしながら人のいない場所を目指し、尚且つテロリストのいない地域で救援を待つのが得策かと思われます〉

なんか彼女までもがディスカッションに参加しだしたけど、僕にしか聞こえてないんでしょ? あ、僕の口から説明しろということですね、察しが悪くてすみません……

「だからこの場合はテロリストに見つからないようにしながら人のいない場所を目指して、テロリストのいない地域で救援を待つのがいいと思う」

僕の発言に二人とも真剣な顔で頷いてくれた。
銃声などの炸裂音は西側からがほとんどだったから、僕らが向かうのはとりあえず東側ということになった。
ていうか僕が言わなくてもわかってたんじゃない? っていうか、僕が一番わかってなかった。
武蔵君はまだ24歳だし、美作さんは26歳だ。僕が彼らくらいの年齢のときってもっと考え方も行動もガキ――とまではいかないけど、ここまでしっかりしてなかったと思う。この非常事態に年齢とか関係ないけどさ、ものすごく自分が情けない……

なんにしても、今までここが爆破されなかったのは運もあったと思う。
いつどこが破壊されたっておかしくないんだから、行動指針が決まったところで早速行動に移そうと思う。

二人の恰好は観光するにはちょうどいいけど、雨の中傘もささずに行動するには少々不向きだから、僕がさっきまで来ていた脱ぎたてのパーカーは武蔵君に、まだ袖を通してないパーカーを美作さんに差し出した。
雨で暗くなってきたし、背景に溶け込みやすくなったのは僕の好みが偏っていたおかげ。グッジョブ僕の趣味。

同時に困ったこともあった。移動するときにも空間迷彩が使えてたらよかったんだけど、腕時計サイズにまで小型化したことで動いてるときには使えないっていう制約があった。
空間迷彩は使えない。レーダーも使えない。僕は頼りない。で無い無い尽くしなのにはほんと参った。けど、一般人三人組が生き残るには彼女に頼らざるを得ないんだけど。

〈できることはかなり少なくなりましたが、サポートは任せて下さい!〉
〈負担ばかりかけてすみませんがお願いします〉







激しく難易度の高い逃避行は途中までは順調にいってたと思う。
街中は隠れる場所も多かったから。でも、日が落ちるにつれだんだんと視界は悪くなると移動速度も落ちるし、郊外になるにつれて隠れる場所が減るだけじゃなく移動経路も限られてきたからテロリストらしき人影を見る機会が増えてきてしまった。
何度か道を変えたりもしたんだけど、どうにもここから先には進めなくなってしまった。

「ここもか……」
「ですね……、どうしましょう?」

諦めるつもりはなかったけど、素人だけの集団でこれ以上進むのはもう無理なのかな。
道はどこも塞がれているし、戻る場所はない。森の中を進むというのは彼女がいれば遭難することはないとはいえ、暗くなって雨でぬかるんでる所を進むのは怪我で動けなくなる危険性が。

別にリーダーになった覚えはないけど、二人とも僕の返答を待ってる。今からでも地頭の良い二人のどちらかに任せたら……ダメかなぁ?
そう思ったけど二人の真剣な視線を前にはとても言い出せる雰囲気じゃなく断念した。

「仕方ない。危険だけど森を進もう」

二人もそれしかないと考えてたんだろうね。何の反論もなくすぐに賛成してくれた。
僕が言わなくてもわかってるんだろうなとは思いつつもケガしないよう注意しておいたほうがいいんだろうな。

「怪我には注意し、うぶっ――――?」

これは、手? 突然誰かに口を押えられて……ガッチリと口押さえられるとこうも声でないのかって初めて知った。
口と同時に顔も固定されていて、体は関節決められていてもうホント身動きとれなくて、“まずい”とか“やばい”とかそんなことすら浮かばない。
ただ何もできないまま静かに森の中へと引き込まれることしかできず、漠然とここで殺されるのか、そう思った。


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