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第1話 - A part
ドロップ・アウト - Ⅲ(ミコト)
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これまで数千体と屍体を見てきたはずなのに、ミコトは目の前で起きたことが信じられなかった。
人が人を殺す瞬間。生が終わり、死が花開くとき。それはあまりに一瞬で、あまりに儚く、あまりに非現実的で、いま彼の目の前には「結果」だけが重くのしかかっていた。
それらを総じて現実とするなら、ミコトの脳の処理速度では追いつけず、過去と現在の区別が付かなくなってしまう。
嫌な予感はしていた。屍体が増えたということは人が殺されたということーーもちろん、自殺の可能性もゼロじゃないけどーーつまり、殺人犯がいるということだった。
しかし、〈マザー〉からの通信では、犯人はもうすでに現場を離れたとのことだったし、なにより「いま」起きたこと自体が既におかしい。
しかし、現に彼は見てしまったのだ、人が人を殺す瞬間を。
後ろ姿からでも、それが幼い少女であることは明白だった。ところどころ血で赤く染まった袖なしワンピースにボロボロのビーチサンダル、腰まで伸びた水色の髪、そして小さな手に握られた巨大な斧。
おそらくミコトの身長ほどはあろうかという強大な斧は、血飛沫で汚れている。おそらくさっきの一撃だけじゃない、とミコトはそれを見つめながら冷静に思う。
少女と斧。そのミスマッチな組み合わせが空恐ろしさを肥大化させる。
〈マザー〉の誤作動? いや、そもそも屍体が増えたのはついさっきだ。時間の矛盾《タイムラグ》があるじゃないか。分からない、何もかもが。これは僕が分裂症だからだろうか?
いよいよ、僕も幻覚を見るようになったのだろうか。そしたらおしまいだ、なにもかも。施設送りにされて、牢獄みたいな場所でただ時間をーー。
そのとき、思考が冷たい何かを感じる。
--------------------------------------------------------------
少女を表現するのは難しい。
(2016年6月18日)
人が人を殺す瞬間。生が終わり、死が花開くとき。それはあまりに一瞬で、あまりに儚く、あまりに非現実的で、いま彼の目の前には「結果」だけが重くのしかかっていた。
それらを総じて現実とするなら、ミコトの脳の処理速度では追いつけず、過去と現在の区別が付かなくなってしまう。
嫌な予感はしていた。屍体が増えたということは人が殺されたということーーもちろん、自殺の可能性もゼロじゃないけどーーつまり、殺人犯がいるということだった。
しかし、〈マザー〉からの通信では、犯人はもうすでに現場を離れたとのことだったし、なにより「いま」起きたこと自体が既におかしい。
しかし、現に彼は見てしまったのだ、人が人を殺す瞬間を。
後ろ姿からでも、それが幼い少女であることは明白だった。ところどころ血で赤く染まった袖なしワンピースにボロボロのビーチサンダル、腰まで伸びた水色の髪、そして小さな手に握られた巨大な斧。
おそらくミコトの身長ほどはあろうかという強大な斧は、血飛沫で汚れている。おそらくさっきの一撃だけじゃない、とミコトはそれを見つめながら冷静に思う。
少女と斧。そのミスマッチな組み合わせが空恐ろしさを肥大化させる。
〈マザー〉の誤作動? いや、そもそも屍体が増えたのはついさっきだ。時間の矛盾《タイムラグ》があるじゃないか。分からない、何もかもが。これは僕が分裂症だからだろうか?
いよいよ、僕も幻覚を見るようになったのだろうか。そしたらおしまいだ、なにもかも。施設送りにされて、牢獄みたいな場所でただ時間をーー。
そのとき、思考が冷たい何かを感じる。
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少女を表現するのは難しい。
(2016年6月18日)
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