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時には、正義と悪が入れ替わるもあるかもしれない
しおりを挟む「・・・というか、なんで私はアンタと町中で散歩しているのよ」
「そりゃ、お前。見せたいものがあるからだろ」
「あんたねぇ。たったそれだけの言葉で人を納得させられてると思ったら大間違いなのよ」
「・・・・・・」
これ以上話す気はないらしい。
私としては、やっぱり相応の理由が欲しい。
・・・例えばの話だけど、もしかするとそもそも私が誘拐された理由が“国に引き渡すとあれだから”という曖昧なものでなく、しっかりとあるのではないだろうか?
ただ、やはりというか何というか、肝心の理由がさっぱり分からない。
魔王軍の上層としての情報を絞り出す?もちろん違うと思う。わざわざ魔王軍の情報を求める必要があるのは魔王軍と戦っている最中のはずだ。順序があやふやになってしまっている。
私の血統自体は至って健全なはずだ。間違っても何か恐ろしい封印を解く鍵にはなっていない。
(
じゃあなんだ・・・?本当にあんな馬鹿みたいな理由で私を監禁しているのか?だとすると、なぜ私はわざわざこんなところを歩いている?)
『オルナリウス、お前はどう思う?私はどうしてこんな奴に拉致られているんだ?』
『わかりかねます。情報が少なすぎて、貴女を連れ出した理由も含めてたくさんの仮説の中から絞り出すことが出来ません』
『そうか、仕方が無いな。しばらくは流されておくとしよう』
私は方針というにも矮小なものを導き出し、行動の基準としてみることにした。
とはいえ、ようは彼にちょこちょことついて行くことくらいだ。
『ですが妃。貴女の行動権は貴女にあります。もし何かあれば・・・』
『・・・?わかった』
私たちはしばらく歩いていたのだが、いつの間にか大きなステージの前にいた。
前といっても、ステージの外側の端からぎっしりと人が全方向に並んでいるため、そこまで近くにはいない。
「これは・・・?」
「今回の祭りのメインイベントだ。あいつが、祭典がなんちゃらって言ってただろ?それだよ」
あいつ、というのは彼の奥さんの事だろう。だが、彼女は命を懸けて何かと闘い、結果として何かを得る戦闘職のはず。前に出て何かすることがあるのか?
私の疑問には一切気づかずに、彼は続けた。
「本当はお前には目に毒だから一人で来いって言われてたんだけど、やっぱりお前にもちゃんと見て欲しかったから連れてこさせてもらった」
私はとりあえずの疑問も含め、新しい疑問、というか意見を口にする。
「奥さんに一人で来い、て言われてるのになんで思いっきり他の人、しかも女連れてるのよ。信じられない。それに、そもそもその奥さんはなにをするの?」
「・・・あぁ。あいつはただ単に、俺に自分の勇姿を見てもらいたいだけさ。で、俺は世間知らずなお前にこの世界がどうゆう場所なのかを知って欲しいだけだ」
彼は、勝手に何かを納得すると、勝手に良くわからない説明をした。
「この世界って・・・。ステージの上にあんたの奥さんがのこのこ出てきてそれでこの世界の何がわかるのよ?」
「そりゃ・・・醜さ、だな」
「なによ、そ」
私が少しよそ見をしていると、
「妃!目を閉じろ!」
「「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!! 」」」」」」」
オルナリウスが私の頭に叫ぶのと人の群れがこれもまた叫ぶのは唐突な出来事だった。
私が聞くべきは、信用するべきは当然オルナリウスだっただろう。ただ、私はおもわず人々の叫びを聞き、ステージに目をやってしまった。
そしてそこには、私が会いたくて会いたくてたまらなかった顔ぶれがあった。
否、顔たちがあった。
否、頭達があった。
「・・・は?」
なぜ彼らの、魔王軍の顔ぶれがあんなところに掲げられている?
ゾンビ、ントラディク。
雪男、ゲリド。
レーシー、アシノル。
レプラコーン、ガルデト。
グール、ラムバル。
ヌラリヒョン、ウタブル。
魔王軍に肩入れしていた一族のそれぞれの長たちだ。そして、
魔王、チハヤ。
「・・・あぁ?」
私には理解できなかった。決して愛しき人が死んだからではない。流石にそれは理解している。受け入れている。だが、あれはなんだ?
なぜひとびとはならびならぶなまくびをみてこうようしている?
なぜよろこびにみちたかおをしている?
なぜうれしそうにおどっている?
なぜ?
なぜ?
なぜ?
「・・・うっ」
吐き気を覚えた。調子が悪いとかそういうことじゃない。
嫌悪感。あえて例えるなら、ゴキブリが体中にくっついているようなそれ。
「おっと・・・。。流石にきつかったかな。ほれ、我慢しろ。涼しい場所に行こう」
まるで睡魔に首を絞められたように・・・意識すら・・・朦朧としてく・・・る・・・。
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