魔王を失くした妃様は勇者の旦那に監禁されたようです

OPLIA

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かつては、同じ道にいた者共へ

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「お。気づいたか」

私はハッと目を覚ました。

上体を起こして周りを見るとどうやらどこぞの路地にいるらしい。さらに言うと、四角い木箱の上で丸まって眠っていたらしい。

「・・・」

 少し前の事を思い出す。アレ・・を見てからすぐに意識を保てなくなって、それ以降の記憶は一切無い。倒れた記憶すら無い。今だに頭がぼやぼやとする。

「頭が痛いとかは無いか?吐き気は?」

向かい側で何かを飲んでいた彼がそう話しかけてきた。

「・・・大丈夫よ」

「そっか。それなら良かった。いやぁ、びっくりしたぞ。目を剥くのまではまぁ、予想内だったが、まさかなぁ。脈が止まってたのは驚きだったな」

「・・・そう、ばれたの」

「正確には、血がさらさらと勝手に流れてしまうせいで心臓が意味をなさなくなってしまった、とかかな?ポンプの様に血を押し出す仕組みがなくなれば心臓もただの中間地点ってわけか」
 
私のこれは、以前に私の脳内ナレーションでも少し触れた通り18歳から続いている。そこにどんな意味が込められているのかは分からないが、まぁ、この世界では良くあることだ。

「私を・・・拘束した時点で気づかなかったのか?」

「俺は指示しただけで、実際には見てただけだからな。あいつは確かに強いが、アホなところがあるからな。お前のそれには気づいてなかった」

「・・・そう」

私はそう返すと、会話を切り上げた。まだ、あの光景が目に、耳に、こびりついている。

少し回想しただけで、再び私を吐き気が襲う。

「辛かったな。そうさせたのは俺たちだけど。まずはほら、これ飲んで落ち着け」
 そういうと彼は、お茶のような色の液体が入った容器を投げてよこした。

(これは・・・?)

それは、私が今まで見たことが無い物だった。押せばベコべコと音を鳴らして凹むから軟らかいのだろうが、それ自体はとても軽い容器だった。
 
 普段のような瓶の容器と同じく、口についた蓋をねじって開ける。ゆっくり唇をつけると、果実のような甘い香りが口の中に広がる。結論、お茶だった。

  2,3度コクコクと喉を鳴らして唇を離すと私たちは一度切り上げた会話を再開した。

「あれは・・・何なの?」

「あれ、というのは祭典のことでいいのか?」 

私はコク、と小さく頷いた。  

「う~ん。あれはなんだと言われてもなぁ。魔王軍が倒れたから喜びの祭りなんだけど」 

信じられないことだ。あれだけの血が流れているのに喜びで踊れるのか・・・。

「・・・私やあの人と陽に当たる彼らは同じ『人』だと思っていた」

「同じだよ。勝った後、どういう対応をしようが」

「ち、違う。あんなのは人間じゃない。悪魔のすることだ・・・」

 少なくとも、魔王軍はそんな悪魔みたいな連中じゃない。

(実際の悪魔は少しだけいた訳だが)

「参考までに、魔王軍は闘いが終わったらどんなことをしていたのか、聞いてもいいか?」

 
魔王軍では闘いが終わると、幹部も兵士も(種族としての『人』はこの中にはいないが)『糸の城』の前の広場に集まり、敵も味方も全て追悼する。死人が出ること自体滅多にないのだが、死んだ者には墓を建てる。死んだ者に忠誠を誓う様に跪く。最後に魔王が一人、その墓の前にどっかりと座って2・3日ほど、長いときは一週間を過ごす。それが魔王軍のやり方だった。

「なるほど。まだ、あの人はそんな優しさを貫いていたのか」

「・・・?何か言ったか?」

「いいや。何というか、それならお前の、あの反応にも納得できる気がする」

「・・・・そうか」
 
この男に毒づいても仕方が無い。最後に私は質問した。

「あの人たちは、どうなるんだ?」

「あいつらがただの罪人と同じように数えられるなら、燃やされるな。ただ、事が事だからな。薬漬けにして飾られるかもしれない。最悪の罪人として公共の建物の中で飾られるかもしれない」

「・・・・」

私はそれ以上、何も言わなかった。
 
その後、私たちはろくに言葉も交わさずに、彼らの家へと帰った。
 地下室に入ると、いくらかの食べ物を手渡されて扉は閉められた。


「もう出てきていいぞ」

「・・・」
 
もはや言葉は発さず、オルナリウスは静かに、クッションにドカッと座った私の前に現れた。

「止めることが出来ず、申し訳ない」

「構わないさ、もう」
 
開口早々、謝罪をした彼をとりあえずなだめる。

「お前もあの事、知らなかったのか」

「・・・失念していました」

「そっか」
 
私は食え、というと先ほど手渡された食べ物の入った袋を投げて渡した。

「しかし・・・」

「食え」

「・・・は」



黙々と食べてからどれほどだっただろうか。いつの間にか私は眠っていたようだった。
 目を開けると、階段を上ろうとするオルナリウスの姿があった。オルナリウスはすぐに気づいたようだ。

「妃、起こしてしまいましたか」

「・・・お前も、行ってしまうのか」

「・・・・・・・申し訳ありません」

「・・・はぁ。構わない。お前の人生だ」

「お世話に、なりました」

 不死身にして、私の血を勝手に司る大馬鹿野郎は、深々と頭を下げると階段を上って行った。
  私は考えることさえ放棄し、眠りについた。
  
  
  
        
  
         
      
       
  
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