魔王を失くした妃様は勇者の旦那に監禁されたようです

OPLIA

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最後の兵士と、見送る者

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こんな恥ずかしい手記を心に、心臓に秘めていながら、結局私はこれを使う機会は無かった。
不老にして不死の吸血鬼が遺言書など書く訳もないと思っていたのだが、百年も生きないうちに書かなくてはならない羽目になってしまったのだ。

・・・書くこと自体は決定したのだが、肝心の内容が思いつかない。私がこれからするであろう最後の体験を綴ってもよいのだが、何か足りない。私の来歴でも綴ってみようか?
しかしそれを思い出すと、それはそれで長くなる気もする。

そうだ。この世界に隠された『システム』。私をこんな身にさせた『システム』について綴るとしよう。
それは名を、『伝承の肯否定』という。強い人間達の願いが常識の天蓋を押し上げる事だ。
重要なポイントといえば、天蓋を押し上げるだけで、決してぶち壊すことではない点だ。

これを我が王に話した時、彼はこう表現した。

『それは、口裂け女みたいな物なのか?』

『口裂け女ってのは俺がいた国の割と最近の妖怪?まぁ、妖怪みたいなもんだな』

『そもそもどこからこの噂が流れ始めたのかは知らないが、口裂け女はたくさんの性質を持っていたりするんだ』

『例えばチョコを渡せば見逃してもらえる』

『かと思ったら、チョコはすぐに食べ終えてしまうからアメを渡さなきゃいけない、とかな』

『アメの件は明らかにガキが勝手に創作したものだろうが、そういう話が増えすぎて結局何が本当で何が嘘かわからないくなっている』

『わかりにくい?こういう一連の流れがあるってことだろ?誰かが口裂け女、っていう話を流し始めてそれが流行。別の誰かさんがそれに対する対処法を考案。流行。さらに別の馬鹿がそれを妨害する。この場合はチョコじゃだめだよってやつだな。これもまた流行する。これが繰り返されて、本質が蓄積される』

『全てがでまかせで全てが本質。わけわかんねぇよな』

その時は、王はこういうと話をしめた。

如何だろうか。私は実体験での知識があったが、彼の表現の方が分かりやすかった。
それから、忘れるところだったがあの事についても綴っておこう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

さて、これで私の使命は済んだ。あとは、最後の戦いに挑むだけだ。

地下室の階段の、最後の一段を上り終えると
そこには金属製の扉があった。右足の裏をノブに添えて、そこそこの速度を付けて伸ばす。
鍵がかかっていたのだろうが、それは簡単に壊れたようで扉は勢いを持って開いた。蝶番の方は壊れなかったようだが、それがなければ目の前にいるアホにぶつかっていただろう。

夫婦が2人で晩酌しているものだと思っていたのだが、そうではなかった。
複数人の男女がいたわけで、その関係は不明だが近所付き合いというやつだろう。

皆酔っているらしく、現状を正しく理解できているらしき者は一人しかいない。

「よぉ、オルナリウス。もういいのかい?」

「あぁ、もとより死ぬべきだったものが、少し延びたに過ぎない」

私はそう答えながら目を動かす。同朋の仇は部屋の隅っこで震えながら丸くなっていた。

「『勇者』は酒に弱いのか?」

「あぁ。まだ若いんだ」

・・・今から過去に戻って、皆に伝えてやりたい事実だった。

「さて、吸血鬼。終わりにするか」


何時間さかのぼればいいのかは判別できず、とりあえず妃が倒れた直後だと思ってくれればいい。

「おい、そこにいるのは吸血鬼でいいんだよな?でてこい」

それは妃を路地に寝かせた直後だった。
最初、私は無視を決め込んでいたのだが、妃の首に男が手刀を振り下ろそうとした事でつい、反応してしまった。


「約束を守ってくれてうれしいぜ」

「お前のは強要だろう」

脅迫とも言う。

少しばかり移動し、今いるのは町から離れた荒野だった。月は最高潮の輝きを見せ、冷たい風が肌をなでる。

私と男は向き合うとゆっくりと視線を重ねる。

「最後に一つだけ聞いていいか?」

「なんだ?」

「名はなんていうんだ?」

「・・・カミヨっていうのが本名だ」

「そうか」

それ以上の会話は無かった。

男、カミヨからすれば自分の妻が討ち損なった者を討つだけ。

私はそれを迎え撃つだけ。

言葉はいらないらしい。
カミヨは一瞬で距離を詰めてきた。

「・・・っ!?」

かがめた上半身から右腕を伸ばしてくる。とっさに私はそれを左手で受け止める。


大きい衝撃を受け、音が無くなったかの様にさえ思った。ただ、何が起きたのか理解するのには時間が掛からなかった。
左手はおろか、左の半身までもがふっ飛ばされていたのだ。

「なっ・・・!?」

私は驚きつつも、すぐに相手を見据え反撃する。痛みなど感じる暇もなく、反撃。

過剰回復リーチアタック

腕を本来の長さの数倍に伸ばし、敵を地面に縫いつける用途の使い方をする、のだが。
相手の目前まで伸びたところで再び私の左腕は弾けた。

「・・・!?」

信じられない。吸血鬼の肉体は回復が早いことで有名だが、それ以前に固い。少なくとも
純粋な金属では太刀打ちできない。

それをやすやすと砕いてしまうとは。予想以上に予想外だ。

離血復起ブラッドバース

飛び散った私の血が私の腕、一つ一つになる。
吸血鬼の回復、という要素を血の一滴一滴が再現する。それでも、

「チェックメイト」

カミヨはそう言うと片腕で全てのうでを受け流し、私の顔を殴った。吹っ飛ぶ。


「・・・お前は、何者なんだ?」

朦朧とする意識の中、私はそう言った。

「お前も知っている『伝承の肯否定』の内の特例。例外中の例外。肯定だけに生み出された存在。・・・もうわかったか?」

きっと、私は最後、笑っていた。

「なる、ほど。化け物と・・・呼ぶには、少し敷居が高すぎるな」

「そういうことだ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

吸血鬼は死んだ。勿論最後は、俺がその手で消したわけだが。

きっと、これでいいんだよな。

こういうことは幾度となくしてきたが、慣れないものだ。

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