魔王を失くした妃様は勇者の旦那に監禁されたようです

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【最終回】お休み、英雄たち

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さて、化粧をされ終えた私が彼女、エラといちゃついていると、カツンカツンと音を立てながら彼が階段から降りてきた。

「準備は出来たか?」

「えぇ。とりあえず言われた通りにはしましたけど、どこへ連れて行くんですか?」

エラは一転、真面目な口調で彼の質問に答える。

「その話をするから、少し上ってきてくれ」

と言うと彼はすぐに私たちに背を向けた。だが彼は、階段を上る直前に振り返ると、物を投げてよこして来た。
それは手帳だった。表紙には何も書かれていない。背表紙も裏表紙もそうだ。

「これは・・・・?」

それを受け取って、私がそう彼に聴いた時には既に、彼どころかエラさえもいなくなっていた。
私は少し寂しい思いをしながら手帳を開くとそこには統一され、整った文字が数ページにわたり書かれていた。
それ以外に書かれていることは無いかと思い、最後のページまでペラペラとめくってみたが、まっさらだった。
仕方なく、最初に書かれている文字列を読んだ。

「・・・・・。」

案の定というべきか、これを書いたのはオルナリウスだ。
別に彼の筆跡を知っているわけではないが、
まぁ、なんというか、感覚として理解できた。
・・・実感は湧かないがオルナリウスが死んだ、ということになる。悲しい話だが、なぜだかスンと受け入れられた。

それに、あの男自身がオルナリウスの存在に気づいていたのかは知らないが、最早話題に出す気はないらしい。
唯一の気になる点と言えば、あの男がどうやってこの手帳を手に入れたのかぐらいだ。オルナリウスが手渡ししたとは、正直考えにくい。かと言って、あの男が不死身の肉体を持つオルナリウスを殺した場合、その肉体は完全に消えているはずだ。とても、えっちらおっちら死体を地面に埋めている様子は想像できない。そんなどうでもいいことが頭の中で合致しなかった。

・・・ノートの内容はと言うと、何とも不思議なことについて、丁寧に書かれている物だった。
私はその数ページから200%の情報を理解した。
私の今までの記憶が、少しずつこの話を補強する。今まで不自然だと思っていた事象全てが頭の中で合致する。
文字の羅列を読み終え、私はふぅと息を吐いた。手帳を閉じるとポイとそこら辺に捨てた。

最後に一つ分かったことがあった。正確には報告された、というところだが。

あの人、愛しき魔王からの、伝言でありオルナリウスからの遺言が書いてあった。

それは地名。プリームと呼ばれる平原にある同じ名前の森の名。
そこに行けという、それだけが書かれていた。

「なるほど・・・」

どこに連れていかれるのかと思ったが、どうもここらしい。

「・・・そういうことだ。いくぞ」

「っ!?」

いつの間にかカミヨが真後ろにいた。やるべきことは終わったのだろう。結構びびった。しかし、私はすぐに真剣そうな面を作ると答えた。カクゴは出来た。

「はい」

私とカミヨは夜明けの町を歩く。まだ大した時間ではないはずだが、すでに人は多くいる。
その街を抜け、太陽の光が指す山を越え、橋のない大河を渡り、件の草原へたどり着いた。
目的地であろう森が見えてきた頃、いきなりカミヨが話し始めた。

「きっとあいつ、エラは俺との出会いの話をしたんだと思うが、あれは半分間違ってる。

具体的には、幼少時代のあいつを助けたのは俺じゃない」
私は内容をあまり受け止めずに淡々と聞いた。

「じゃあ誰なの?」

「分かってるだろ?あいつがわざわざ顔を間違えるような奴だ。”あの人”しかいない」

「・・・!」

彼の言葉を聞いて私は思わず視線を上げた。

「”あの人”は俺とも関係が深くてな。”あの人”にお前みたいな奴がいると知ったときは複雑な気持ちだったよ。もしも、エラが”あの人”と会っていればエラはアイツについて行ってたわけだからな」

「・・・・・」

私は少し考えて、やがてきっぱりとそれをやめた。最後にそういうことがあったと知っただけだ。
さらに歩き、ついに森の中に入った。

「用意は全て出来ている。この後どうするかはお前の勝手だ。どうするにせよ、今後は身を委ねてもらって構わない」

カミヨがそう言ったのは、森の中に突如開けた場所が現れた時だった。

「・・・ありがとう」

わたしは少し無意味な間を開け、やげて礼を言った。既に、どこにもカミヨは居なかったが。

・・・その開けた場所には、無数の墓があった。日差しに照らされ、美しく輝いた墓石だ。
その中心へと足を運ぶと最愛の人の名前がそこにはあった。
その墓石の傍らに、私は静かに座る。あるいは寄り添う。

「いままで、した事ないくらい綺麗にしてもらいました・・・と思いますけどどうですか?・・・それに、共に眠るのは久しぶりですね」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そもそもあの場所は、”あの人”がいずれ、太陽をその妃に見せるために場所だった。せめてもの責任として俺はそこへ案内したわけだ。あれから一週間、結局アーチェフィルムは帰ってこなかった。まだあの場所にいるならそれで構わないのだが、もしも何かあったのなら流石に嫌だから、という理由で再びこの場所へ戻って来たのだ。

いた。

眠る彼女に近づき首元や手首を触ってみるが、生きている感じはしない。

そもそもアーチェフィルムが不死身的な状態だったのはあの吸血鬼が由来だったため、吸血鬼が死んだ時点で脈拍は回復していたはずだ。だから今、何の反応もないならば死んだと解釈していいだろう。墓の下にあるほとんどの死体は自害した者だったから引っ張り出して埋めるのは簡単だった。結局アーチェフィルムに言うことは無かったがエラが国に提出した首はすべてレプリカだったため、肉を盗んでくる必要は無かった。
”あの人”はぼろぼろだったし、吸血鬼至っては埋める物は何もなかったが。

俺はアーチェフィルムの墓を彼女が眠っていた墓の隣に作り出し彼女を埋葬した。

最後に俺は墓の軍に向かって頭を下げた。

「お休み。英雄たち」


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