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鏡
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老体に子守りは、こたえる。
チェンバーは、その思いを日々強めていた。
「アクティス様、いけません……ここは立入禁止です」
「うるさいな、チェンバー。お父様が怖いんなら、ここで待ってなよ。ボクひとりで行ってくるから」
「そういう訳にも参りません。後生ですから、お考え直しを……ここは、本当になりません」
ゲザー伯は、魔法の品のコレクターとして有名である。彼は自分のコレクションを、ふたつの蔵に収めていた。
蔵は、中に入れる品物の質によって使い分けが成されているが、今、アクティスとチェンバーが侵入しようとしているのは、危険な代物ばかりが安置されている方のそれであった。
普段は鍵をかけて管理をしているが、その鍵のありかを、息子のアクティスは知っていた。そして父の留守をいいことに、このワンパクは危険な蔵の探検を思い立ったのだ。
蔵の鍵を開け、のうのうと中へ進むアクティスに、気が気でない様子でついていく侍従のチェンバー。とは言え、ぱっと見では古臭い骨董品が並んでいるようにしか感じない。
この飽き性の9歳児は、一度つまらないと言い出したらすぐに踵を返してくれるはず……か細い望みを頼みに、侍従は小さな暴君に付き従う。
残念ながら、チェンバーの思惑通りに事は運ばなかった。
「あ、見てチェンバー! 鎧だよ!」
「いけません、触れては! 呪われますよ!」
「何この本? すごいホコリまみれなんだけど」
「あああ! 開かないで! どんな悪魔が召喚されるか分かりませんよ!」
「かっこいい……剥製かな、この狼?」
「それ以上近づいたら、噛み殺されますよ」
見慣れない物品に興味津々なアクティス。チェンバーは必死で彼をたしなめ続ける。
と、
「ねえ、チェンバー。この鏡は何?」
全身が映る大きさのそれを前にして、おもむろにアクティスが尋ねてくる。
(……はて、鏡?)
そんな物、ここにあったかな? チェンバーは記憶の糸をたどる。
一瞬、アクティスから視線が外れた。
「……ねえ、面白いよ。コレ、鏡なのに、ボクと全然違う顔が映ってる」
「あああああああ!!」
思い出した時には、後のまつりだった。それは、絶対に覗き込んではいけない鏡だったのだ。
そこに映るのは、生まれ変わる前……すなわち、前世の姿なのだ。そして、
「ねえ、おじさん。名前、何て言うの?」
「お待ちなさい! アクティス様! これ以上はいけない!」
鏡の中に声をかけて、返事をもらう。もしくは鏡から声をかけられ、返事をする……要は会話が一往復してしまうと、鏡の中に取り込まれてしまうのだ。そうすると、二度と鏡の世界から出られなくなる。
『わしの名は……』
鏡から声がした。やばい、アクティス様が相手の名前を全部聞いてしまったら、その瞬間に彼はここからいなくなってしまう。
「アクティス様……!」
必死でアクティスの気を鏡から外そうとするチェンバー。鏡はお構いなしに語る。
『……寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝るところに住むところ藪柑子の藪柑子パイポパイポパイポのシューリンガン……』
「……」
「……」
聞きながら、アクティスはあくびをする。
「……この人名前長い」
「……左様ですな」
「もういい。帰る」
「はい、そうしましょう」
『シューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナの長久命の……』
悦に入って長々と自分の名をしゃべり倒す鏡を尻目に、ふたりは蔵を出た。
(助かった……)
ちなみに、蔵に入ったこと自体はバレたらしく、後日ふたりはゲザー伯にしっかり怒られた。
チェンバーは、その思いを日々強めていた。
「アクティス様、いけません……ここは立入禁止です」
「うるさいな、チェンバー。お父様が怖いんなら、ここで待ってなよ。ボクひとりで行ってくるから」
「そういう訳にも参りません。後生ですから、お考え直しを……ここは、本当になりません」
ゲザー伯は、魔法の品のコレクターとして有名である。彼は自分のコレクションを、ふたつの蔵に収めていた。
蔵は、中に入れる品物の質によって使い分けが成されているが、今、アクティスとチェンバーが侵入しようとしているのは、危険な代物ばかりが安置されている方のそれであった。
普段は鍵をかけて管理をしているが、その鍵のありかを、息子のアクティスは知っていた。そして父の留守をいいことに、このワンパクは危険な蔵の探検を思い立ったのだ。
蔵の鍵を開け、のうのうと中へ進むアクティスに、気が気でない様子でついていく侍従のチェンバー。とは言え、ぱっと見では古臭い骨董品が並んでいるようにしか感じない。
この飽き性の9歳児は、一度つまらないと言い出したらすぐに踵を返してくれるはず……か細い望みを頼みに、侍従は小さな暴君に付き従う。
残念ながら、チェンバーの思惑通りに事は運ばなかった。
「あ、見てチェンバー! 鎧だよ!」
「いけません、触れては! 呪われますよ!」
「何この本? すごいホコリまみれなんだけど」
「あああ! 開かないで! どんな悪魔が召喚されるか分かりませんよ!」
「かっこいい……剥製かな、この狼?」
「それ以上近づいたら、噛み殺されますよ」
見慣れない物品に興味津々なアクティス。チェンバーは必死で彼をたしなめ続ける。
と、
「ねえ、チェンバー。この鏡は何?」
全身が映る大きさのそれを前にして、おもむろにアクティスが尋ねてくる。
(……はて、鏡?)
そんな物、ここにあったかな? チェンバーは記憶の糸をたどる。
一瞬、アクティスから視線が外れた。
「……ねえ、面白いよ。コレ、鏡なのに、ボクと全然違う顔が映ってる」
「あああああああ!!」
思い出した時には、後のまつりだった。それは、絶対に覗き込んではいけない鏡だったのだ。
そこに映るのは、生まれ変わる前……すなわち、前世の姿なのだ。そして、
「ねえ、おじさん。名前、何て言うの?」
「お待ちなさい! アクティス様! これ以上はいけない!」
鏡の中に声をかけて、返事をもらう。もしくは鏡から声をかけられ、返事をする……要は会話が一往復してしまうと、鏡の中に取り込まれてしまうのだ。そうすると、二度と鏡の世界から出られなくなる。
『わしの名は……』
鏡から声がした。やばい、アクティス様が相手の名前を全部聞いてしまったら、その瞬間に彼はここからいなくなってしまう。
「アクティス様……!」
必死でアクティスの気を鏡から外そうとするチェンバー。鏡はお構いなしに語る。
『……寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝るところに住むところ藪柑子の藪柑子パイポパイポパイポのシューリンガン……』
「……」
「……」
聞きながら、アクティスはあくびをする。
「……この人名前長い」
「……左様ですな」
「もういい。帰る」
「はい、そうしましょう」
『シューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナの長久命の……』
悦に入って長々と自分の名をしゃべり倒す鏡を尻目に、ふたりは蔵を出た。
(助かった……)
ちなみに、蔵に入ったこと自体はバレたらしく、後日ふたりはゲザー伯にしっかり怒られた。
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