幻獣使役はアケコンで!

小曽根 委論(おぞね いろん)

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Chapter 8 枢機卿と、……俺で?

scene 31

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 腕組みをしてニヤニヤする副島。さきほどまでの仕草が嘘のように、その態度はふてぶてしいものになった。完全に、大介が知る副島だ。

「お前が大活躍していると聞いて、俺は耳を疑ったよ。まあ、そりゃそうだよな。お前が俺の部下だったのは、もう20年も昔の話だ。もし今でも当時ままだとしたら、お前に生きる意味なんてまるでねぇからな」

 容赦のない言い草。副島は、己が無能と判断した人物を徹底的にこき下ろす。

「……たまたまです」

「運も実力のうちさ。せっかく俺が褒めてるんだ。もっと喜べよ」

「……」

「なんだよ、黙りこくって。性格の暗さは相変わらずか? ん?」

「いや、その……すみません」

「別にいいさ。お前にとっては、今が人生の春なんだろう? 女ふたりはべらせて、いい御身分じゃないか」

「あ……別に、そういうわけでは……」

「どっちがお前のタイプなんだ? どうせ今も独り身なんだろ? 神の使者、とかいう都合のいい肩書もあることだし、その気になりゃいつでも自分のものに出来るだろ? 違うか?」

「……」

「それとも、ふたりと関係を持ちたいとでも思ってるのか? 正直、それはおすすめしないが」

 話が勝手に進む。はっきり否定も出来ず、大介はその場に固まる。それを見て、副島は軽くため息をついた。

「やっぱり、相変わらずなんだな。もう少しちゃんとした大人になってると思ったのに、残念だ」

「……すみません」

 気の抜けた返事だと思いつつ、大介にはそれが精いっぱいだった。副島はそれへ、肩をすくめるだけで応えとし、奥へ進む。封印の間、という名前でありながら、そこは天井の高い洞窟のようになっていて、まだまだ奥に道が続いていた。

「この先のことについて、どれくらい説明を受けている?」

 足を動かしながら、副島が尋ねてきた。

「え? ……いえ、とくには何も……」

「事前に質問くらいしておけよ、そういうとこだぞ」

 そんな時間があっただろうか……という疑問は、この男の前では無力だ。少なくとも、大介はそのように調教されている。もっとも、それが錯覚である可能性は高いのだが。

 ため息と同時に、副島は言う。

「仕方ない。いちから説明するぞ。ここは封印の間。雌型の炎の幻獣、イフリットを閉じ込めている部屋だ」

 副島によると、ここは大幻獣イフリットにより、炎の力が異常に発達した場所であるという。本来、幻獣は一日に一回、一体しか召喚できないはずなのだが、ここでは炎の幻獣に限り何体も出現させることができるという。

「ここではイフリットが活性化すると、サラモンドが自然発生する。これを押さえ込もうとすると、こちらもサラモンドで対処するしかなくなるんだ。さっき、マリーが言ってたのは、これさ」

 他にも、ウイドキア全体で起こる異変として、サラモンドの強化や召喚に伴うリスクの軽減があるという。召喚したサラモンドが敗北をした時も、脳や精神へのダメージは少なく、何ならそのまま次のサラモンドを召喚することさえできるらしいのだ。

「……ま、この辺は蛇足か。今俺が言いたいのは、せっかくマリーが倒してくれたサラモンドが、再び出現する前に仕事を済ませよう、ということだ。急ぐぞ」

「はい」

 洞窟を進むふたり。体感温度は、少しずつ高くなっていく。

「……秦名。なにか面白い話はあるか?」

 不意に、無茶振りのような要望が副島から飛んできた。

「え? ……いや、そういうのは……」

「だろうな。じゃあ、俺の話でも聞いてくれ。この先は、まだ少し歩く」

「あ……ハイ」

 いきなり、何だろうか……と思っていると、副島はおもむろに切り出した。

「広美の話は、お前にしたことがあったか?」

 それは、大介が副島と共に働いていた当時、副島が付き合っていた女性の名前だった。詳細は知らないが、名前は何度か聞いたことがある。

 副島が振り向いたので、大介はハイと返事をして頷く。それを確認して、彼は刹那的に止めた足をまた動かし出した。

「あれな……死んだよ。お前が会社辞めた、その年の年末にな」

「え?」

 まさか、そんな話をされるとは思わなかった。大介は図らずも声を出してしまう。

「お前みたいなやつでも、驚いてくれるんだな。そう……広美は死んだんだ。飲酒運転のクソ野郎に轢かれてさ……あいつは何も悪くない。店の外で俺の支払いを待っている間に、いきなり歩道を乗り上げて突っ込んで来たんだ。避けれるはずがない」

「……」

「広美はいい女だったが、いくらなんでも死に様が酷すぎた。ご両親は丁寧に娘を弔っていたが、俺は本当に彼女が成仏出来ているのか、知りたくて仕方がなかった」

「……」

「……信じられん、だろうな。お前がいた頃の俺は常々、神や幽霊の存在を否定していたからな。だが、広美がああなって、俺は変わったよ。名のある僧侶や霊能力者を片っ端から当たって、広美が今どこにいるか尋ねまくった」

 大介は話の成り行きに、ただ驚きをもって受け止める。歩幅が狭まったのか、ふたりの距離は少し開いていた。

 先導する副島はそれに気づくはずもなく、ただ話を続ける。

「しかし、結果は散々だったよ。聞くヤツ聞くヤツ、言うことがバラバラだったんだ。どれを信じたらいいものか……いや、そんなもんじゃない。結局、あいつら何にも分かってなかったんだ! だってそうだろう? 分かってたら、そこで意見がバラつくなんて、ありえないのだから!」

「……」

「……気休めでもいいから、何か言えよ。だから、そういうトコだぞ?」

 副島はそう言うが、衝撃的な内容に、大介は言葉を発せられなかった。

「……まあ、いいや。とにかく、そんなわけで霊能力者どももアテにならなかったんだ。でも、じゃあ誰に訊いたら真相を教えてくれるんだ? 雲をつかむような展開に、俺は絶望したよ。だが……」

「……」

「天は俺を見捨てなかったよ。あるひとりの親切な老人が、俺を導いてくれた……」


「え、まって 待ってください!」


 それは、ほとんど無意識だった。大介は声を張り上げ、副島の語りをさえぎる。

 かつての上司が立ち止まり、ゆっくり振り返る。優秀なビジネスマンでも、恋を失った傷心の男でもないソレが、醜く口元を歪めた。

「察しは随分と良くなったようだな……そうとも。そのご老人こそ……
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