幻獣使役はアケコンで!

小曽根 委論(おぞね いろん)

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Chapter 10 最期

scene 37

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「バカな! なんてことを!」

 驚き、唖然とするマリー。一方で大介は困惑顔だ。

「待ってくれ。話が見えないんだが……アレは一体、何だ?」

「幻獣のサイクルを早めるアイテムだよ、ダイスケ君。活発に動いている幻獣を早めに疲れさせ、眠っている幻獣には目覚めを促す。本来は自然発生した幻獣に大人しくなってもらうための物なんだけど、そういう幻獣って強力な自然界の歪みから生まれるから、幻獣自体のパワーも強いの」

「そんな強い幻獣を操るアイテムってことは、あれ自体にも強い力があるんだな? で、それを壊すとどうなるんだ?」

「幻獣を操作する自然の力が逆流して、アイテムを持っていた人に流れ込む。人間も自然の一部だから、そこへ幻獣の力が勢いよく入ってくると、その人は幻獣になってしまうの」

「はっ? てことは……」

 大介はギョッとして副島を見る。すでに変異は始まっていた。

 叩きつけられて破損した砂時計から異常な量の赤い煙が上がり、つる草が支柱に群がるようにして副島に絡まっていった。彼の姿がすぐに見えなくなる。

「これ、俺たちは見守るしかないのか?」

「あの赤い煙みたいなのに触れたら、私たちも幻獣になってしまう。枢機卿の変異が収まるまで、私たちに出来ることは何もないよ」

「幻獣になっちまうと、どうなるんだ?」

「一時的には、人間の理性と幻獣の超能力を併せ持った、強力な存在になれる。でも、ものの一日も経たないうちに人間としての感情は失われて、ただの幻獣に成り下がってしまうよ」

 簡潔な説明が意味するものは、絶望の一言だった。大介の顔から血の気が引く。

「そっか……じゃあ、どのみち助からないんだな、あの人」

 赤い煙が、砂時計から出なくなった。副島の様子は、依然分からない。

 どうにかして、あの人を救う手立ては無いものか。大介は色々と考え、思いついたものをマリーにぶつける。

「人間の意識があるうちにそいつを殺すと、魂ってのはどうなるんだ?」

「普通の人間と一緒だよ。もっとも、今ここで枢機卿をヤッたとしたら、魂の行き先は天国でも地獄でもなく、あそこだろうけどね」

 そう言って、マリーは大幻獣を見上げた。そうか……死んだらこの人も、ここに……。

「そう言えばハタナ様。そこにいる幻獣、まったく襲ってくる気配がないのですが……大丈夫なのですか?」

 不意にアデラが尋ねてきたのは、大幻獣から分離された通常サイズのイフリットだった。ずっと静かに立っていたが、大介が質問を受けると呼応するようにしてアデラたちを見た。

「……意思があるのか? その幻獣……」

 よほど稀な現象なのだろう。クレールもいぶかしげに訊いてきた。

「ああ……事情は後で説明するが、彼女は俺たちの味方だ」

 大介が幻獣を『彼女』と呼んだ瞬間、マリーの双眸がかすかに細くなった。

「……なるほど。確かに、今語るには時間がなさそうだね」

 その言葉にハッとして、大介は副島に向き直る。
 変異は、ほぼ終了していた。

 南門でイジドールが扱っていたものより、さらに大柄なサラモンドがそこにいた。赤い煙は晴れかけており、全貌は容易に確認できた。

「潰してやる……何もかもだ……」

 サラモンドと化した副島が、低く唸る。

「させねえよ。ヴニール・ピスト!」

 幻獣であれば、ピストに封じ込むことも可能だ。大介は自分のサラモンドを召喚し、副島とともにピストへ入れた。

 「貴様……秦名の分際で、邪魔をするなぁぁ!」

 途端に、有無を言わさず襲い来る副島。しかし、がむしゃらに突っかかってくる副島の攻撃は、威力こそ高そうなものの非常に大振りで、かつワンパターンだった。

 あっさりと攻撃をかわし、距離を取る大介のサラモンド。副島はすかさずフランバルを放ち、これを追い立てる。

 対処の難しい飛び道具ではなく、大介はこれもまたあっさりと真上に跳んで避ける。

「ぐああああ! チョコマカと小賢しい! もっと正面から勝負しろおおお!」

 怒鳴る副島。しかし、大介に聞く耳は無かった。

(副島さん……あなたはゲームもまったくしないで、人生と真正面から向き合ってきた……まさかそれがアダになる日が来るなんて、夢にも思わなかったでしょうね……)

 それはもはや、勝負というより『処理』であった。無鉄砲に暴れる副島を、一個一個冷静に対処する大介。体力が減っていくのは、副島ばかりであった。

「ぐおお……ぐおおお……」

 副島の放つ言葉が少し怪しくなってきた。これは手早く終わらせた方がいいのか?

 焦りを感じた大介に、副島は都合良くフランバルを撃ってきた。

「……すいません、とっとと終わらせますよ」

 大介のサラモンドは一旦垂直ジャンプでこれを避けると、続けざまに前方へ跳んだ。

 そのままフランバルを連射していた副島に、跳び蹴りが刺さる。着地と同時に地上技も当て、ブレット・デ・キャノンまで連続でぶち込むと、早々に副島の体力はゼロになった。

「すごい……こんなにあっさり……」

 アデラが漏らすと、クレールが言った。

「力勝負に行ったら、ダイスケは負けていた。だが、アイツには元の世界で培った独自のノウハウがある。枢機卿もアイツと同じ世界にいたはずだが、おそらく彼にはそのノウハウがなかったのだろう。……早い話が、経験の差さ。ダイスケの前で幻獣化した時点で、もう枢機卿に勝ち目は無かったんだ」

 決着はついた。しかし、副島の姿は消えずに残っている。

「人間としての魂が残ってるからね。大丈夫、もうピストを解いても、彼は動けないよ」

 マリーの言葉を信じ、ピストを解く大介。そしてサラモンドも帰したところで、不意にイフリットが動いた。

「!」

 全員に緊張が走る中、彼女はゆっくりと副島の傍らまで歩み寄った。

(……どうした? 何がしたい、ゴリ美……?)

 大介さえ怪訝の表情を禁じ得なかった。だがイフリットは、そんな一同の視線を意に介する様子もなく、副島の体を抱きかかえた。
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