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のどもと過ぎても剛毛は忘れず

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 そして牢屋から脱出することが出来たフェザーは、フェツィルと共にヒヴェルコラキ山脈へと馬車を走らせた。従者の中にはキャングルも愛馬にて駆けている。
 途中で王と共にしていた騎士が待機しており、彼に案内されながら山中へと進んでいく。森の奥深くまで入り込み、すでに方角は見失っている。案内している騎士も実は方角はわかっておらず、染色された蔦が木の幹に巻き付けられておりそれを辿っているのだという。この蔦はもちろん自然発生したものではなく、ジャッツクデル王国民が迷わないようにと、マロカの民たちが用意してくれたものである。
 そしてしばらくして、急に森が開けた。山坂ではなく広い平地がそこにはあった。そして山の外からはどうやっても見ることの叶わなかった大きな建物が建設されていた。2階までしかなく高さはそれほどではないが、代わりに横に広がっている。横幅だけではジャッツクデル王国の王宮以上だ。建物そのものは質素という言葉が当てはまり、石やレンガではなく木材によって作られている。騎士がいうにはジャッツクデル王国の者たちが訪れるということで突貫で作ったという。同盟が結ばれればすぐに壊して、技術を取り入れてからまた再建築するらしい。

 フェザーは隣にいる兄と共に開いた口が塞がらなかった。
 確かに建物の質から突貫工事によるものだというのは伺える。しかしこれだけの大きさのものを急拵えで建築してしまう腕もだが、それをただ招待客のために用意してしまうということとこれだけの大きさのものをすぐに壊してしまうという思考についていけない。
 そして中へと入るが人がいる様子がない。罠かと思ったが案内していた騎士も複雑な顔で歩を進める。あいさつなどは不要らしい。そして騎士たちは大部屋で仲間たちと合流し、フェザーとフェツィルはお付きの騎士(フェザーの場合はキャングルである)と共に部屋へと連れられた。その部屋を開けるとフェザーたちの父である王フェルザ、宰相、そしてフェザーが胸毛ムシャアした騎士団長がいた。

「来たか」
「父上。説明をお願いいたします」

 フェルザに説明を求めたのはフェツィルだ。フェルザも心得ているとうなずく。

「同盟は無事結ばれる。だがそれに伴い、条件を突きつけられた。そのためお前たちを呼び出した」
「おそらく私は兄の代理として呼び出されたのでしょうが・・・・・・フェザーに何の関係が?」

 フェツィルは普段の一人称を変えてフェルザに問う。
 その発言は別にフェザーを見下しているわけではない。だが第6王子は王子としてはオマケ扱いをされるくらい地位が低いフェザーを、わざわざ呼び出した理由がわからなかった。フェザーもまた同じ事を疑問に思っていた。
 その疑問を解決するために、フェルザはフェザーの名を呼んだ。


「お前には、この国の者と結婚してもらう」


 父親の言葉に、フェザーは兄と共に「はあ!?」と声をあげたのだった。


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