"強化蘇生"~死ぬ度に強くなって蘇るスキル~

ハヤサマ

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強化蘇生【リバイバル】

絶望と咀嚼のプロローグ

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 ーー薄暗い黄土色の洞窟の中を歩く少年は、脂汗を盛大に滴らせながら、張り詰めたような表情をしていた。

 まるで、かのように慎重に、息を殺しながら歩を進めている。

 既に時間の感覚がおかしくなってくるほどの長時間、全身を著しく強張らせながら歩いて、もう何度目になるか分からない角を曲がった直後のことであった。

 ふいに、少年が、そのようにして歩むことを余儀なくさせた、当の根源が姿を顕したのだ。

 それは、この世の恐怖の象徴を詰め込んだような化け物だった。少年は、それがあらぬ方を向いて立っているのを見た。まるで自我が存在しないような、そんな出で立ちだった。
 
「ーーーーッ」

 思わず息をのむ。化け物なんて言葉では到底表せないほど悍ましい容貌をしていた。痩せこけた人型で、殆どただの布切れと言っても差し支えないような、みすぼらしい衣服を纏っている。煤けた髪はその腰に届こうかとしているほどに長く、某ホラー映画のテレビから這い出てくる○子を彷彿とさせるような不気味さを醸し出している。

 そして何より、本来そこには目が存在しているであろう部分が、ぽっかりと穴が空いたように抜けており、そこからは見た者を等しく恐慌の底に叩き落とすような漆黒の深淵が覗いていた。

 ぱっと見、足の速そうな感じはしないため、気付かれなければなんとかなりそうだ。うん、なんとかなりそうだ。







 いつの間にか、その化け物の首が弾かれたように少年の方を向いていた。


(ーーーーーー気付かれた。)


 瞬きの間にこちらに視線を移されたため、一瞬、コマ送りのようにも見える。
 
 その速すぎる挙動に少年は、突然世界から音がなくなったような、心臓が飛び出そうな感覚に襲われながらも踵を返し、後方に走り出す。



見られた。見られた。見られた。見られた。見られた。見られた。見られた。見られた。見られた。見られた。見られた。見られた。見られた。見られた。見られた。見られた。見られた。見られた。見られた。



 胸中で幾度となくそれを繰り返しながら、黄土色の洞窟の中を全速力で駆け抜けた。彼の人生で一番早く走れた瞬間だったのではないだろうか。もし短距離走のタイムを計測していたら、イイ線いっていただろうか。一歩間違えれば食い殺される、この危険過ぎるタイミングにも関わらず、そんな場違いな考えが頭を過る。とにかく一刻も早く、あの恐ろしい空間から逃げ出したかった。あの怪物が自分を意識下においている、その事実だけで恐怖で昏倒しそうだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 そうしてどのくらい走っただろうか。細い分かれ道の一本に入り腰を休める。もと来た道をなぞってきたので、既視感のある場所だ。だいたい二時間前に見た気がするので、あの化け物とはかなりの距離を置けたはずだ。少なくとも、今すぐにさっきの生物に遭遇することはないだろう。

 荒い呼吸を整えて、そんな半分言い聞かせのような暗示を自分に掛けながら、それらの確認の意味も込めてふと、来た道を振り返る。


 その瞬間、少年の眼前に黒い壁が突如として出現した。黒の中に、濁った白色のインクを落としたような斑点がいくつもあったので、灰色と形容した方が正確か。そんな不気味な影の様な化け物の口内から太い筒状の、腸のような器官が、ずるっ、と伸びてきて、少年の上半身を上から包むように呑み込んだ。その間、恐怖で体が言うことを聞いていないのか、少年は呆然と立ったまま、微動にしない。これから咀嚼されようとしているのは誰の目から見ても明白なのに、だ。

 だが、そこに佇む棒立ちの少年の眼にあるはずの、諦念や死への焦りのような、負の気色は欠片も見られなかった。むしろ、強い覚悟に染まった、獰猛な、強かな眼をしていた。それも、眼前の超常の化け物に向けて。



(ーーーこんなところで、心を折られるわけにいかないだろ。)



 生を渇望する。今の状況を鑑みれば不可能に近い願望だが、それでも、未来を生きる決意をする。この理不尽の塊のような環境から這い出てやる。と考えるだけで拳に考えられないぐらいの力が入り、しばらく切らずに伸びた爪が掌を赤い模様で彩る。痛みなんてとうに感じなくなっている。



(ーーーいつか、この目の前の化け物を殺して、必ず生きて帰ってやる。いつかだ。)


























 ブチッッッ!!



 ずるっ、ずるっ、にちゃ、くちゃ......どさり。
 

 硬質な何かを、圧倒的な膂力で無理やり切断したような鈍い音がしたと同時、腰から上が消失した少年の下半身がその制御を失って、地に転がるように倒れる。

 

 それからしばらくその空間には、化け物の咀嚼音だけが響いていた。
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