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強化蘇生【リバイバル】
鬱積叱責のレトロスペクト
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「はぁ......」
【久保タツト】は自身の境遇を憂いていた。
身長167センチ、体重54キロ。黒髪で、道を歩けばどこにでもいそうなぱっとしない顔立ち。運動や勉強で特に何か突出して秀でたものがあるわけでもなく、これといった趣味もない。
そんな平々凡々な容姿や凡夫の類を出ない能力。それだけならまだマシだった。
ーーもっとひどいのは、タツトが生まれ持ってしまった、極度のコミュニケーション能力の欠如である。それが彼のため息をよりいっそう濃いものにしていたのだ。
ここでいうそれは、人見知りとは、少し訳が違ってくる。別に初対面の人間には、大抵の場合楽に話せるのだ。むしろ、うまく話が弾めば会話の主導権すら握ることだってある。家族や親族といった、深い仲の人間とも気楽に接することができるし、それらの人物との生活には何ら、支障をきたさない。
タツトが苦手とするのは、その中間の人物達。
知らないかと言われれば、そうでもない。しかし、知り合いかと言われれば、そうでもない。特に理由が無い限り話すことは無いし、接点も無ければ、そもそも互いにそんなに興味が無い。
そんな中途半端な人間関係を築いてしまった人物達とのコミュニケーションには、どう立ち回ればいいのか分からず、とりあえず嫌われないようにとひどく神経を使ってしまい、かえって気まずい空気になってしまうのだ。
そして最大の原因として、それらの“中間層”が、タツトの通う高校と同じ高校の生徒全員であるということだった。
タツトは中学時代は部活に入らず、かといって何か一つのことに傾注したわけでもなかったので共通の趣味や話題を持つ友人が出来ず、そうなると必然的にクラスの休み時間は専ら寝たふりでやり過ごすことになるわけで、ぼーっと授業を受け、ぼーっと家に帰り、ぼーっと一日を無駄にする。そんな排他的で無味乾燥な日々を送っていた過去があった。
そのこともあってか、高校入学当時には「たくさん友達を作って、青春に溢れた高校生活にするぞ!」と息巻いていたものの、周りを見れば、一人ぼっちにならないように特段仲の良い訳でもない同級生と楽しそうに振る舞う人間が居たり、クラス内で“群れ”を形成することで強くなった気分になって、不遜に振る舞う人間がいたり、そんなありふれた日本のクラスカースト制度を目の当たりにし、こんなに惨めに人の目ばかり気にした生活を送るくらいならいっそ、ぼっちでいいや。と結論づけたのである。
そうはいっても、やはり気の置けない親友や、可愛い恋人は欲しくなったりするもので、そんな欲求不満が先ほどのため息に起因していたりするのである。
無論、タツトに恋愛経験が無いわけではなかった。あれは高校一年生の冬頃だった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「......ねえ、あなたは結局、私のことをどう思っているの?」
真っ白な吐息が鮮明に目に映るほど寒い冬の夜、とある公園に男女が二人、その空気をさらに冷たくするような深刻そうな雰囲気で佇んでいた。
きっとそれは彼女、【秋山 唯】が過去に何度も口にしようとして躊躇してきた疑問だったのだろう。呼吸の短い間に、唯が何度もそれを胸中で反芻していたのが伝わるほどに、その言葉は淀みなくタツトの元へ届いてきた。
彼女は互いに憎からず思っているであろう関係でありながら、事態が核心に触れようとすると曖昧にはぐらかすタツトの態度にその疑問を抱いて、それでも口を閉ざしてきたのだ。
しかし、そのことに痺れを切らしてついに彼に疑問をぶつけた、というには唯の表情は余りにも緊張に包まれていた。これまで二人の間で、このように大きく互いの気持ちに踏み込んだ会話は交わされてこなかったからだろうか。
そして、唯の疑問を投げかけられた当のタツトもまた、いつものようにあやふやなワードで誤魔化せない、ある意味問い詰めともいえる彼女の言い方にたじろぎ、やはり緊張の色を隠しきれないでいた。
「それは......っ君のことは、大切な友人だと思っているよ。」
唯の質問に困惑していたタツトは、逃げ場を得たとばかりに、咄嗟に思いついた言葉を矢継ぎ早に唯に言い聞かせるように言う。だが、対する彼女の表情は釈然とせず、どこか寂寥さえ感じさせるものだった。
「ーーそれだけ?」
「......」
「他に何か、言うことはないのね?」
「......」
辺りを静寂が包む。冷たい冬の夜の風が緊張に火照った頬を撫ぜて、過去の冬の記憶が脳に蘇り、えも言われぬ感慨が心に飛び込んでくる。
「......いつもみたいに、当たり障りのない模範解答で逃げないのかしら」
「逃げられない状況を作ったのは君じゃないか」
「それもそうね......」
訪れた静寂が二人の間に割って入り、往生際の悪い自己主張を続け、しばしの間決まりの悪い時間が続く。
重暗い雰囲気を払拭しようと先に沈黙を破ったのは、タツトだ。
「......うわ、もうこんな時間か。そろそろお暇するね。終電逃しちゃうし」
「わざとらしいわね、夜はまだまだこれからよ」
「ちっ、ばれたか」
「もう、茶化さないでよ」
そうしてやりとりを交わして互いを見つめると、さっきまでの深刻そうな空気はどこへ行ったのか、いつもの軽快でコミカルな雰囲気に苦笑が漏れ、更にその笑いが双方から生じていたことに気が付くと、両者一転して、今度は面映ゆい顔になる。傍から見れば微笑ましい光景だが、当の本人達は至って真剣だ。
「でも、悪いけど本当に帰るね。今日は楽しかったよ。ありがとう」
「っ......ええ。そうね。本当に楽しかったわ。ありがとう、また会いましょう。出来れば明日ぐらいに。」
「それは無理だよ!?」
「冗談よ、それじゃあねーーー」
「ーーー行ってしまったわ」
盛大な喪失感に襲われながら、唯はそれを隠すように早足で帰路につく。隠さないと負けたような気がして。
勿論、そんな挙動は彼には見えていない訳で、なんの意味もないのだが。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「......今思えば、あの頃が一番のモテ期だったな」
唯とは同じクラスになったものの、あれきり事務的な会話を偶に挟む程度で、殆ど話す機会がなかった。
唯は最近何をしているのだろうか。彼氏はいるのだろうか。もしかしたら、まだ自分のことを好きなままでいてくれてたりするんじゃないだろうか。
そんな風に過ぎ去った過去に思いを馳せていると、後ろからふいに声を掛けられた。
「よぉ久保!辛気くさい顔しやがって、相変わらず一人ぼっちか?ぎゃはは!」
馬鹿笑いしながら明らかに弱者を見る目でこちらに寄って来たのは【藤本 秀雄】だ。彼は日頃から暇になるとタツトの机に尻で座り、皮肉交じりの挨拶を言いに来る。彼は暇なのだろうか。そこまでタツトのことを侮辱しているにも関わらず、こうやって毎日のように構ってくる藤本も、実は友達がいないんじゃないか。
そんな残念な藤本へのタツトの評価は、上質なオブラートに三重に包んで、更にリボンまでつけて言ったとしても、“最低なやつ”が妥当な線だった。
利己的で、暴力的。絵に描いたようないじめっ子で、彼にとって、見た目は完全にひ弱そうなタツトは
そのちっぽけな征服欲を満たすのには格好の餌食だったというわけだ。
ただ、他のクラスメイトの藤本への評価も、タツトのそれと対して変わらない物だったりするが、利己的な藤本はそんなことに気付くはずもなく、今日も今日とてタツトに罵声を浴びせに掛かっていた。
というのも、藤本は学校内でも一二を争うレベルの見目麗しい美少女である秋山唯に気があり、実は何度もアタックしたことがあるのだが、結果は全空振りのオール三振。そんな中、彼なりに思い悩んでいるにも関わらず、唯の幼なじみで尚且つ、彼女が告白したことがあるというタツトが気に入らなくて仕方なかった。
(周りの煩わしそうな目には気付かないのか?この男は......)
タツトが心中でそんな風に思っていると、タツトの背後から、タツトの机の上を我が物顔で踏ん反り返っている藤本へ声が掛けられた。
「よせ、藤本。久保が嫌がっているだろう。見ているみんなも良い気持ちじゃないはずだ。」
「なんだと?俺に文句があるって言うのか!?」
なんとも正義感に溢れる発言を藤本に投げかけたのは、クラスのリーダー的存在である【神山 龍二】だ。
傲岸不遜な藤本を見て煩わしそうにしつつも、後々絡まれるのが怖くて誰も咎めることが出来なかった状況で威勢良く藤本を制した龍二に、尊敬の念を込めた視線が教室のあちこちから注がれる。その内の何人かは頬を赤らめ、熱っぽい視線を向けているがうぶで頭の回転が速くない彼には気付くよしもない。
(みんな神山のこといいやつだと思ってるだろ?そうじゃあないんだよなぁ......)
神山龍二は頭の方は良くないが、抜群のリーダーシップを采れて、情にも厚くみんなから慕われている。だが、反面実直過ぎるところがあり、己の非を決して認めたがらないのだ。
例えば、誰かが濡れ衣を着せられていたとしても、神山が一度その人が悪いと思えば、絶対にその意見を曲げることがない。下手にリーダーシップがあるせいで周りの人間もそれに賛同し、何度か冤罪が成立されていたりすることがあるのだが、そのことを知っている人間は多くない。仮に正面切って言いふらそうにも、人望の厚い龍二に対してぼっちのタツトでは、誰も耳を傾けることはないだろう。
(いずれにしても、僕を挟んで口論するのはやめてもらいたいなぁ......)
タツトはそんな二人の言い合いをどこか上の空で聞いていて、心の中で愚痴を呟いた。
【久保タツト】は自身の境遇を憂いていた。
身長167センチ、体重54キロ。黒髪で、道を歩けばどこにでもいそうなぱっとしない顔立ち。運動や勉強で特に何か突出して秀でたものがあるわけでもなく、これといった趣味もない。
そんな平々凡々な容姿や凡夫の類を出ない能力。それだけならまだマシだった。
ーーもっとひどいのは、タツトが生まれ持ってしまった、極度のコミュニケーション能力の欠如である。それが彼のため息をよりいっそう濃いものにしていたのだ。
ここでいうそれは、人見知りとは、少し訳が違ってくる。別に初対面の人間には、大抵の場合楽に話せるのだ。むしろ、うまく話が弾めば会話の主導権すら握ることだってある。家族や親族といった、深い仲の人間とも気楽に接することができるし、それらの人物との生活には何ら、支障をきたさない。
タツトが苦手とするのは、その中間の人物達。
知らないかと言われれば、そうでもない。しかし、知り合いかと言われれば、そうでもない。特に理由が無い限り話すことは無いし、接点も無ければ、そもそも互いにそんなに興味が無い。
そんな中途半端な人間関係を築いてしまった人物達とのコミュニケーションには、どう立ち回ればいいのか分からず、とりあえず嫌われないようにとひどく神経を使ってしまい、かえって気まずい空気になってしまうのだ。
そして最大の原因として、それらの“中間層”が、タツトの通う高校と同じ高校の生徒全員であるということだった。
タツトは中学時代は部活に入らず、かといって何か一つのことに傾注したわけでもなかったので共通の趣味や話題を持つ友人が出来ず、そうなると必然的にクラスの休み時間は専ら寝たふりでやり過ごすことになるわけで、ぼーっと授業を受け、ぼーっと家に帰り、ぼーっと一日を無駄にする。そんな排他的で無味乾燥な日々を送っていた過去があった。
そのこともあってか、高校入学当時には「たくさん友達を作って、青春に溢れた高校生活にするぞ!」と息巻いていたものの、周りを見れば、一人ぼっちにならないように特段仲の良い訳でもない同級生と楽しそうに振る舞う人間が居たり、クラス内で“群れ”を形成することで強くなった気分になって、不遜に振る舞う人間がいたり、そんなありふれた日本のクラスカースト制度を目の当たりにし、こんなに惨めに人の目ばかり気にした生活を送るくらいならいっそ、ぼっちでいいや。と結論づけたのである。
そうはいっても、やはり気の置けない親友や、可愛い恋人は欲しくなったりするもので、そんな欲求不満が先ほどのため息に起因していたりするのである。
無論、タツトに恋愛経験が無いわけではなかった。あれは高校一年生の冬頃だった。
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「......ねえ、あなたは結局、私のことをどう思っているの?」
真っ白な吐息が鮮明に目に映るほど寒い冬の夜、とある公園に男女が二人、その空気をさらに冷たくするような深刻そうな雰囲気で佇んでいた。
きっとそれは彼女、【秋山 唯】が過去に何度も口にしようとして躊躇してきた疑問だったのだろう。呼吸の短い間に、唯が何度もそれを胸中で反芻していたのが伝わるほどに、その言葉は淀みなくタツトの元へ届いてきた。
彼女は互いに憎からず思っているであろう関係でありながら、事態が核心に触れようとすると曖昧にはぐらかすタツトの態度にその疑問を抱いて、それでも口を閉ざしてきたのだ。
しかし、そのことに痺れを切らしてついに彼に疑問をぶつけた、というには唯の表情は余りにも緊張に包まれていた。これまで二人の間で、このように大きく互いの気持ちに踏み込んだ会話は交わされてこなかったからだろうか。
そして、唯の疑問を投げかけられた当のタツトもまた、いつものようにあやふやなワードで誤魔化せない、ある意味問い詰めともいえる彼女の言い方にたじろぎ、やはり緊張の色を隠しきれないでいた。
「それは......っ君のことは、大切な友人だと思っているよ。」
唯の質問に困惑していたタツトは、逃げ場を得たとばかりに、咄嗟に思いついた言葉を矢継ぎ早に唯に言い聞かせるように言う。だが、対する彼女の表情は釈然とせず、どこか寂寥さえ感じさせるものだった。
「ーーそれだけ?」
「......」
「他に何か、言うことはないのね?」
「......」
辺りを静寂が包む。冷たい冬の夜の風が緊張に火照った頬を撫ぜて、過去の冬の記憶が脳に蘇り、えも言われぬ感慨が心に飛び込んでくる。
「......いつもみたいに、当たり障りのない模範解答で逃げないのかしら」
「逃げられない状況を作ったのは君じゃないか」
「それもそうね......」
訪れた静寂が二人の間に割って入り、往生際の悪い自己主張を続け、しばしの間決まりの悪い時間が続く。
重暗い雰囲気を払拭しようと先に沈黙を破ったのは、タツトだ。
「......うわ、もうこんな時間か。そろそろお暇するね。終電逃しちゃうし」
「わざとらしいわね、夜はまだまだこれからよ」
「ちっ、ばれたか」
「もう、茶化さないでよ」
そうしてやりとりを交わして互いを見つめると、さっきまでの深刻そうな空気はどこへ行ったのか、いつもの軽快でコミカルな雰囲気に苦笑が漏れ、更にその笑いが双方から生じていたことに気が付くと、両者一転して、今度は面映ゆい顔になる。傍から見れば微笑ましい光景だが、当の本人達は至って真剣だ。
「でも、悪いけど本当に帰るね。今日は楽しかったよ。ありがとう」
「っ......ええ。そうね。本当に楽しかったわ。ありがとう、また会いましょう。出来れば明日ぐらいに。」
「それは無理だよ!?」
「冗談よ、それじゃあねーーー」
「ーーー行ってしまったわ」
盛大な喪失感に襲われながら、唯はそれを隠すように早足で帰路につく。隠さないと負けたような気がして。
勿論、そんな挙動は彼には見えていない訳で、なんの意味もないのだが。
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「......今思えば、あの頃が一番のモテ期だったな」
唯とは同じクラスになったものの、あれきり事務的な会話を偶に挟む程度で、殆ど話す機会がなかった。
唯は最近何をしているのだろうか。彼氏はいるのだろうか。もしかしたら、まだ自分のことを好きなままでいてくれてたりするんじゃないだろうか。
そんな風に過ぎ去った過去に思いを馳せていると、後ろからふいに声を掛けられた。
「よぉ久保!辛気くさい顔しやがって、相変わらず一人ぼっちか?ぎゃはは!」
馬鹿笑いしながら明らかに弱者を見る目でこちらに寄って来たのは【藤本 秀雄】だ。彼は日頃から暇になるとタツトの机に尻で座り、皮肉交じりの挨拶を言いに来る。彼は暇なのだろうか。そこまでタツトのことを侮辱しているにも関わらず、こうやって毎日のように構ってくる藤本も、実は友達がいないんじゃないか。
そんな残念な藤本へのタツトの評価は、上質なオブラートに三重に包んで、更にリボンまでつけて言ったとしても、“最低なやつ”が妥当な線だった。
利己的で、暴力的。絵に描いたようないじめっ子で、彼にとって、見た目は完全にひ弱そうなタツトは
そのちっぽけな征服欲を満たすのには格好の餌食だったというわけだ。
ただ、他のクラスメイトの藤本への評価も、タツトのそれと対して変わらない物だったりするが、利己的な藤本はそんなことに気付くはずもなく、今日も今日とてタツトに罵声を浴びせに掛かっていた。
というのも、藤本は学校内でも一二を争うレベルの見目麗しい美少女である秋山唯に気があり、実は何度もアタックしたことがあるのだが、結果は全空振りのオール三振。そんな中、彼なりに思い悩んでいるにも関わらず、唯の幼なじみで尚且つ、彼女が告白したことがあるというタツトが気に入らなくて仕方なかった。
(周りの煩わしそうな目には気付かないのか?この男は......)
タツトが心中でそんな風に思っていると、タツトの背後から、タツトの机の上を我が物顔で踏ん反り返っている藤本へ声が掛けられた。
「よせ、藤本。久保が嫌がっているだろう。見ているみんなも良い気持ちじゃないはずだ。」
「なんだと?俺に文句があるって言うのか!?」
なんとも正義感に溢れる発言を藤本に投げかけたのは、クラスのリーダー的存在である【神山 龍二】だ。
傲岸不遜な藤本を見て煩わしそうにしつつも、後々絡まれるのが怖くて誰も咎めることが出来なかった状況で威勢良く藤本を制した龍二に、尊敬の念を込めた視線が教室のあちこちから注がれる。その内の何人かは頬を赤らめ、熱っぽい視線を向けているがうぶで頭の回転が速くない彼には気付くよしもない。
(みんな神山のこといいやつだと思ってるだろ?そうじゃあないんだよなぁ......)
神山龍二は頭の方は良くないが、抜群のリーダーシップを采れて、情にも厚くみんなから慕われている。だが、反面実直過ぎるところがあり、己の非を決して認めたがらないのだ。
例えば、誰かが濡れ衣を着せられていたとしても、神山が一度その人が悪いと思えば、絶対にその意見を曲げることがない。下手にリーダーシップがあるせいで周りの人間もそれに賛同し、何度か冤罪が成立されていたりすることがあるのだが、そのことを知っている人間は多くない。仮に正面切って言いふらそうにも、人望の厚い龍二に対してぼっちのタツトでは、誰も耳を傾けることはないだろう。
(いずれにしても、僕を挟んで口論するのはやめてもらいたいなぁ......)
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