"強化蘇生"~死ぬ度に強くなって蘇るスキル~

ハヤサマ

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強化蘇生【リバイバル】

絶世黒檀のエピファニー

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「......は?禁忌?いや、どういうことだよ。何が言いたいのか意味分からんぞ」

 クロが大気を揺らすほどの激情を静かに湛えた直後、突飛な物言いをしたので、タツトははてな、といった表情を浮かべながら聞き返してしまった。

『あれはな......いや、待つのじゃ、念頭に申しておくが、今から言うことは誰にも口外せんでくれの。お主と我の胸だけに留めておいてほしいのじゃ』

「お、おう分かった。言っても、口外する人間がいないからどっちにせよ不可能なんだけどな」

 タツトはなぜ秘匿にするのか、と聞きたかったのだが、クロのあまりの必死さに、質問し返してはいけない場面だと踏んでにわかごしに了承する。

『ならよいのじゃ......。お主が見たというアレはの、古い名を“ゲズィヒト”と言ってな。この【花畑】のヌシなのじゃ。また、太古の神話の中で【炎と情熱を司る神】であるを殺して喰らい、その【炎】と【情熱】に干渉する能力を略奪し、異形の神へと変貌を遂げた魔物とも言われておる。』

 クロが、底知れぬ憤懣を理性で押し殺したような、悲痛な声でそれを語った。

「ちょ、ちょっと待てクロ。あ、あの“カオ”の化け物の本来の名前 がゲズィヒト?で、そいつはここのヌシで、更に昔、神を食って、そいつの持ってた概念干渉系スキルを奪って、神になって......いきなり情報が多すぎて整理できないんだが」

 どれ一つをとってもインパクトのありすぎるあの“カオ”についての情報が一気にタツトのもとに押し寄せてきた。脳がその全ての情報を処理して理解しようとするが、あまりに強烈な話の数々に伝達回路が渋滞を起こしてしまう。

 『タツトよ、二種類以上の異なる概念を操ることができるようになった時点で、“神格”を得ることができて神々が棲まうとされる【神領ゴッドサイド】に続く扉が開かれるようになるというのは、前に話したな?じゃから、あのゲズィヒトはマゴス様を喰らい、計三つの概念干渉系スキルを得たのじゃよ。幸か不幸か、【異常地イレギュラー】の魔物は何故か他の人間界や魔界へ出ようとせんでの、ヤツが【神領ゴッドサイド】に侵入し、神々を食い散らかすといった惨劇は起こらなかったのじゃが、それでも神となったあの魔物を屠ることができる神など、現世にはおらんじゃろうな。それこそ、神々の中でも抜きん出た戦闘能力を持つという“八神”が束になって、初めて五分五分といったところじゃ。』

 実は数十分前にタツトとクロが【花畑】の森へ近づこうと爆走、いや、爆歩していたころ、「結局神ってのはどういう存在なんだ?なんかいっぱいいるらしいけどイマイチ定義ってか、こう、すごさが伝わってこないんだよな」と、タツトが聞き、歩いている間は専らクロが神についての詳細を語っていた。

『ほぅ、なかなか難しい質問じゃな。諸説あるが、大雑把に言ってしまうなら、やはり“二種類以上の概念を操ることができる存在”であろうな。これは我のよく知る神から聞いた話なんじゃが、この世を創造したとされる創世神様以外の神は初めは普通の生物だったらしいのじゃ。本来とは千言万語を尽くしても言い表し得ないほど血滲の努力を積み重ねた者だけが辿り着ける領域での。それを更に二種類じゃ、並大抵の生物ではそれを成し得る前に寿命がきて死んでしまう方が早いの。それまで誰も考えが付かなかったような魔法を創り、魔の極地に至った大賢者や、神話ミソロジー級の武具を打った稀代の天才鍛冶、どの勇者も倒すことが出来なかった歴代最強と謳われた魔王などが神格を得て、神領ゴッドサイドに旅立ったと言われておるの。じゃがそのいずれにも、気の遠くなるような努力があったはずじゃ。だいたい、お主が例外中の例外なのじゃよ、我はお主を歴史上最大の不幸者だと思っておるが、同時に最大の幸福者とも考えることもできるの。』

 だいたいそんな感じのことをクロが語り、タツトが得た感想は「神パネェ」であった。なんとも希薄な語彙であるが、強ち間違っているとも言えないところがアレである。

「ってことは、あのゲズィヒトとかいう“カオ”はそんなにヤベぇやつなのか......。俺が見たときには何かしらの概念を操ってた感じは無かったんだか、ナメプされてたってことか......?」

『彼奴は感情を持っておらんようでな。特に何かの意図があって行動してるわけではないのじゃ。じゃからほとんど機械と言っても差し支えないじゃろうな。必要なときに、必要なだけ力を使う。恐ろしく合理的で、常時冷静な分厄介よ。マゴス様もそれはそれはお強い方だったのじゃが、やはり一対一では勝ち目が無かったようじゃ......。誠に、不覚よ。この【執念の果実】、一生の不覚。マゴス様と忌々しいゲズィヒトが闘っている最中、我は封印されておって何もお力添えすることができなかったのじゃ......!!」

 クロがぐつぐつとマグマが煮えたぎるような悍ましいほどの怨嗟と自責の念に駆られているのがタツトにも伝わり、気付かぬうちに全身に鳥肌が立っていた。
身体が震え上がるほどの狂的な怖気を全身に纏いながらもタツトはある疑問を返す。

「な、なぁ、クロ。その「マゴス様」っていうのはなんなんだ?お前の言いようからして、お前にとって何か特別な人だったんだろうけど」

『............あぁ、マゴス様か?あの方は、とても偉大な神様じゃった。それはそれは御立派な信条をお持ちでの。当時果実として封印されてどうしようもないほど退屈していた我に手を差し伸べ、笑って話しかけてくれたのじゃ。我は今でこそこんな風に調子付いておるが、あの時は意識がはっきりしたまま、寝ることもできずに同じ場所でじっとしているという生活に、本当に頭がどうにかなるところだったんじゃよ。そんな環境に終止符を打ってくださったマゴス様に、我はどれほど救われたか。毎日面白い話を聞かせてくれての。他の神々の目も気にせず、我を手に持ったまま神領ゴッドサイドを歩き周り、美しい風景を見せてくださるなんてこともあったのじゃ。我がマゴス様を親のように慕うのも必然というものじゃろうて。そんな方を見殺しのような形で亡くすとは、ほんに、情けない話よ』

 もしもクロの姿を見ることができていたなら、その表情はきっと、烈しい苦痛に歪んでいただろう。

 聞いた者にそんな確信を否応なしに持たせるほど、クロの話し声の抑揚や調子が、悲痛なものへと変わっていく。

 そうなるにつれて、つい数分前までは【花畑】の無限ループに惑わされていたとは到底思えないほど、二人の周囲の雰囲気は非常に重暗いものになっていた。

「...............そうか」

 無闇なフォローは辺りに漂うこの深刻な空気を余計に悪化させるだけだ、と感じたタツトは、今も例えようのない烈しい感情に心を震わせるクロに言葉を投げかけることができない。

『......別に気を遣わんでもいいのじゃよ。その方が余計に辛くなってくるからの。さて、取り乱してすまなかったな、話の続きをさせてもらうとしよう......ーーそのさなかであったのよ。ある日突然マゴス様が、「魔物討伐に行ってくる」などと言い出しての。我がマゴス様に拾われて一緒に時を過ごす間に、何度かマゴス様が能力を使われるのを見る機会があったもので、その力の強大さはよく存じておったから、これほどまでにお強い方が直々に出向く必要のある魔物とは一体どんな化け物なんじゃと思ったものよ。我も何かマゴス様の力になりたいと言って我を喰らって新たな力を手に入れることも提案したのじゃが、結局聞き届けてくださらんかった。我が付いていこうとしても、「すぐに帰ってくるから待ってろよ。まさかお前、俺の力を疑ってるわけじゃないだろうな?」と悪戯気味に言われてしまっては、マゴス様を心から信頼している我がそのように言われて尚も粘るというわけにはいかなくてな、ーーついに我を残して討伐に行ってしまわれたのじゃ。』

 要はそのマゴスと呼ばれる神はクロの拾い主で、長い封印に辟易していたクロに様々な楽しみをもたらしてくれた、というわけだ。それは、魔物討伐に行くマゴスにクロがついて行こうとするのも必然的なものだ。

「ん?待てよ、お前がその“マゴス様”について行ったとして、そいつに何の得があるんだよ。お前はあくまで実だったんだから、食われて力を手に入れてもらう以外にお前が何か役に立つとは思えないんだが」

 タツトがその疑問に行き着くのも、また当然のことであった。タツトの認識ではクロはあくまでもは単なる一つの果物。ただそこに意識や記憶が存在しているだけで、そのことと「食べた者は不思議な力を手に入れられる」という二点を除いては、あとはその形状以外にその辺に転がってあるそれと何ら遜色のない果物なのだ。

 よって、クロがその魔物討伐に同行したからといって、マゴスが何かしらの恩恵を受けられる様子は想像することができなかった。

 その観念も、次のクロの発言とによって霧散させられることになる。

『はて......?ーーあぁ、そういうことか。お主にはまだ言ってなかったが、マゴス様は我を拾ってくださったあと、我が一人でも自由に周辺を動き回ることができるようにと【実体】に干渉する神に掛け合って、ある能力を授けていただいたのじゃ......まぁ、説明するより見せる方が早いかの』

 ーークロがそう言い終えた途端、タツトの眼前、極彩色の花々が所狭しと咲き誇る辺りにどこからともなく漆黒の霧が発生し、もやもやと広がっていく。

 読んで字の如く、これ以上どんな濃色を足したとしても恐らくその色が変わることがないほどの密度の純粋な黒が、漆のようにヌラリ、と煌めいている。

 恐らくクロが何かしたのであろうと察したタツトがしばしその光景に見惚れていると、それまで大気の流れにされるがままにゆらゆらと動いていた霧が、突如として指向性を持ち、まるでビデオテープの巻き戻しを見ているかのように収束していき、徐々にその純黒の霧が何かを形作っていく。霧自体の密度が上がったため、その黒壇の光沢が自己主張するかのように目立って照り輝く。

 見ると、何やら霧は人を象っているようだ。だんだんとその方向性が見えてきて、指先や髪の毛など、細部に至るまで形成されるようになる。そうすると徐々に、十三、四才ぐらい少女のような姿のシルエットが浮かびあがってきて、光沢のある黒に覆われているために、一級の芸術品のように見えてくる。

 なかなかに不思議な光景であった。色とりどりの花が際限なく咲き誇る【花畑】に、霧で出来た少女が現れ、幻想的というよりはそのシュールさと異物感のせいで、不気味と形容した方が的確だ。

 そして、ついにその霧が少女の姿を形成し終わると、その役割を果たしたかのように上方に晴れて霧散していく。あとには、一人の少女が立っていた。それも恐ろしく美しい容姿をした。

 タツトがその少女を一目見て抱いた印象は、「黒い」であった。その迸る美貌を差し置いて、初めにその形容詞が先行してしまうほど、

 黒く可愛らしいサンダルを履き、これまた黒の、天使が着ていそうなノースリーブのワンピースを纏っていて、肩口が大胆にも露わになっている。濡れたようにしっとりと滑らかな黒髪も相俟って、まず飛び込んでくるのが圧倒的な“黒”なので、その大味な所見もやむを得ないといったところだ。

 続いて得る印象は、「綺麗」だとか「可愛い」、「美しい」であろうか。

 答えは否である。その次に飛び込んでくる感想は「白い」であった。

 その暴力的な黒に対抗するように、その少女の肌は白かった。細く華奢な肢体も、「もし人間を一から作ることができたとして、自分好みの顔にするとしたらこんな感じになるだろうな」と感じる凄まじい美貌の顔も、遠慮がちはであるものの、出るところは出ている教育に悪そうな場所も、新雪のような、シミ一つ見当たらない滑らかな純白であった。陶器のように美しくきめ細やかな素肌を持つ少女が【花畑】で太陽に照らされていて、天国の夢でも見ているようだ。

 白と黒のみで構成されていると思われた超絶美少女であるが、唯一そうでない部分として、その大きな瞳があった。赤、それも真紅の、まるで燃えるようなルビーでもはめ込んだような美しい紅い瞳であった。
 見ると、肩ほどまであるセミロングのさらさらした髪の毛を可愛らしいピンで留めており、これ以上無いくらいに可憐であった。完璧すぎてもはや卑しい気を起こそうとする考えすら湧き上がってこない。

 そんな途轍もない美貌と、誰彼構わず虜にさせるような魅力の持ち主であるその少女に、タツトは恐る恐る問いかける。

「..................クロ?」

「ーー如何にも。どうじゃ?我の見てくれは。人間が好みそうな外見だと自負しておるのだが」

 目の前の美少女がドヤ顔でそう語る。美しいその顔がなんともウザい感じに歪められているが、そんな動作すら絵画にしたくなるような華やかさがある。彼女が年端のいかない少女であることの危うさもその一因となっているようだ。

「うん。いや、まあ目ん玉飛び出そうになるぐらい可愛いんだけどさ。そもそもお前女だったのか?口調とかあからさまにジジイだろ」

 恐らく、地球のどんな女優やアイドルでも勝ち目がないくらい人間の限界とはかけ離れた造形をしているクロだが、その口調とのギャップに先ほどから違和感を感じまくりだ。

「ふむ、タツトよ、その発言は少し不快であるな。我は一度も己をジジイなどと騙ったことはないぞ。無論、この姿はあくまでも具現化した我であって本体ではないぞ。まあ宿主のお主が死んだら我も死ぬんじゃが。」

 またも誇らしげに、しかも今度は右手で髪の毛を耳に掛ける仕草付きでそう語る。その言動に、相手は年下の少女だというのに、タツトはどこか艶やかさすら感じてしまう。

「ふふ、惚けているでないぞ。まぁ、我の余りの美貌についつい見とれてしまうのも分かるが、先ほどの
話を見失ってはいかんじゃろ。要するに、我はこの姿でマゴス様に同行することで、微力ながらも助太刀しようもしたのじゃ。まあ断られてしまったがの。」

「お、おう......、そういうことだったのな」

「タツトよ、マゴス様が討伐に向かったとき、我は尋常でないほどの嫌な予感をガンガンと感じていたのじゃ。あのとき、無理にでもマゴス様を引き止めて『討伐になど行かないでください』と引き止めることを選んでいたら。あのとき、無理にでも我を喰らって【執念】の力を手に入れることを選ばせていたのなら......‼」

 心なしか普段よりマイペースな調子のクロがいきなり先ほどの話を続けだし、タツトも「このタイミングで再開するのか?」と慌てて話を聞く体制に立ち直す。

「あぁ、マゴス様の訃報を聞いたのは、マゴス様が出発してから間もない頃じゃったよ。ほんの、二、三時間ほどのことでの。あの、何か衝撃の事実を聞いたときに限って訪れる意識がガクンッと揺れるような感覚に襲われながらも場違いに「先刻から今までの間に、マゴス様は死んだのか」という得体の知れん感慨のようなものを感じていたのじゃ。我に返ったときにはひたすら己の過去の過ちを悔いておったの。忘れ去ることなどできるはずもなく、マゴス様を失った我は再び最初に封印されていたときのように動けぬ時間を過ごしておったのじゃが、最初の一年ほどは休みなしで悔恨と怨嗟で自らを呪っておったわい。“もしこうしていれば”とか、“あのときこうであったら”とか他愛ない妄想ばかりして、狂いそうな気を紛らわしてどうにか保っておったんじゃよ。」

「......なるほどな、話は大体分かったぞ。お前はつまり、お前の親愛を寄せていた人物を殺したゲズィヒトを怨んでるんだろ?」

「その通りじゃ。マゴス様を殺しただけでなく、その命を弄ぶように彼の力を略奪したあの人外の化け物に我は何度命懸けの戦いを挑もうと思ったことか。じゃが、マゴス様で敵わなかった化け物に我が敵うはずがないのは頭では理解しておっての。ここで我が死んでしまっては、もうマゴス様の仇を晴らせる者がおらんくなってしまうと思うと、どうしても踏み切れなかったんじゃよ......」

 クロが不服そうにそう言うと、タツトはあっけらかんとした様子で返した。

「その化け物と今すぐ戦えるといったら、会ってみたいか?」

「なっ......! それは勿論、一分一秒でも早く彼奴の存在をこの世から消し去りたいところじゃが、そんな馬鹿げたことが起こるわけもないじゃろ。滅多なことを言うもんでない。勝てる見込みもないしの」

 それを聞くとタツトはニヤリと笑って、

「そうでもないみたいだぞ?今すぐ感動の再会をしたいなら、俺がゲズィヒトに会わせてやる。それも、俺も一緒に戦ってやるから勝ち目がゼロというわけでもなさそうだぞ?」

 手元の、久しく出番のなかった【空虚と否定の短剣イミディナイダガー】をチラつかせながら言った。

 

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