冥界の仕事人

ひろろ

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第五章: 新人仕事人 恋模様

そんな特技があるの?

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 女湯の大きな露天風呂には、4人のお婆さんと、30代手前に見えるお姉さんが入っていた。


「お邪魔します」あおいは、小さく言って温泉に入った。


 あおいは、周囲をキョロキョロ見て、確認する。


私の姿は、誰にも見えていないみたいだ。


 ならば、遊んじゃおう!


「ふふふっ、泳いでみましょう」


 スイミングに通っていた記憶はないが、身体が覚えているらしい。
 

 あおいは、平泳ぎをして温泉を楽しんでいた。


もしかして、泳ぎが得意だったのかも?


あおいは、何かを思い出しかけて、泳ぐのをやめた。


  泳いで誰かを助けた?のかな。


 うーん、分からない。


 まっ、いいか。


 チャプン!


先に入っていたお姉さんが、露天風呂から出た。


 おお!出るところは出て、ウエストは細くて、ヒップの形も良くて、なんて羨ましいボディなのだろう!


それに比べて私は、出るところは出ていない、くびれも無く、お尻は大きい。

 
何か短時間で、スタイルが良くなる体操とかないかな?


あるわけないか!


 本当に蓮さんが泊まりに来るのかな?


さっきみたいに、押し倒されたらどうしよう。


蓮さんは、私の事なんて何とも思っていないから、何も無いはずだけど、念のため、身体を念入りに洗おう。


 それと、気休めだけど体操を……。


 両手を拝むように合わせて、肘を外側に張り、胸に力を入れて……。


「大きくなーれ!大きくなーれ!
 言いたくないけど、胸が大きくなーれ!

上半身を左右に振ってウエストを細く……」


こんな体操を人前でなんて出来ないけど、私の姿は見えないから、どんなポーズもできちゃうもんね。


 あれ?


 私、体操なんてして効果があるのか?


本物の肉体は、もうないからスタイルに変化なんてないんじゃない?


 あー、生きている間に努力しておくべきだった……。


 ちょっと、待て!


 私ったら、何を考えているんだろう!


 蓮さんは、大人の男性だから私を相手にするわけないでしょう!

 …………………

 あおいが大浴場の出入り口から出たら、蓮が長椅子に腰掛けていたのだ。


「もしかして、私を待っていてくれたんですか?

もし、そうだったなら お待たせして、すみません」


「そうだよ!あおいちゃん、随分、長風呂だったね!
倒れているかと心配したよ。

もうちょっとで、見に行くところだったよ!」


「えっ!女湯にですか?
危なかった……出てきて良かった。

蓮さんが、痴漢になるところでした……。

まあ、もう少し前なら、スタイル抜群の人がいましたよぉ」


「えっ、痴漢って!酷い!

で、スタイルのいい女性がいたの?

それは、惜しいことをした……って、言うわけないでしょっ!

うーん、スタイルとか 外見は、あんまり気にしないけどなぁ。

あおいちゃんは、気にするの?」


「はい、気にしていますよ。
 コンプレックスの塊ですから!」


「そんな事、気にしなくたっていいじゃない!

それよりさ、夕飯まで笹の間にいれば?
 
一緒に行こうよ」 


「あの、せっかくだから旅館の浴衣を着たいんですけど、着ることって可能ですか?」


「我々が食べ物を食べても、本当は減らないのと同じように、着ることもできるよ。

 生きている人の目には、服に何も変化がなく、そのままの状態に見えているけどね。着るの?」


「はい、柊の間に寄って、着てから行きます」

…………………

「蓮さん、着てみました。どうですか」


「あー、浴衣って、帯のあるタイプだったのか。

私たちは死者だけど、ここは人間界だから、右前にして、もう少し足のくるぶしくらいに短くしようか。

着付けをするから、こっちにおいで」


 あおいを呼んだ蓮は、浴衣の付け帯を外した。


次に帯を解き、紐を解き、腰に両手を回すようにして、腰紐の位置を確かめて解いた。


 そして、浴衣の両襟を、持ち上げるようにして大きく広げた。


 きゃあ、下着だけになっちゃったよぉ!


「あっ、ごめん。でも、着付けだから、仕方がないよね」


「はい、ちょっと、恥ずかしいけど、お願いします」


 抱きしめられるようにして、浴衣の長さを決めて腰紐を結ばれ、


腰上辺りに、おはしょり のたるみを伸ばされる時に、蓮の指の感触が伝わり、ドキッとする。


 なにせ、蓮の頭があおいの胸辺りにチョロチョロとくるから、あおいは生きた心地がしないのだ。


 帯をギュッと締められ「ぐえっ」となった。


「我慢、我慢、さあ、この付け帯をして、はい、出来上がり!」


 大きな花柄、紺色の浴衣で、ピンク色のリボンの帯である。


「可愛い!いいねぇ!髪型も変えようか?洗面所にヘアゴムがあったよね?」


「蓮さんに髪型まで作ってもらって、ありがとうございました」


  顔の両サイドに薄く残した髪があって、後ろは、手慣れた感じで、ポニーテールにしてくれた。


  着付けなんて、男の人ができるのは珍しいけど、生前、何をしていた人だろう?


「あおいちゃんの浴衣姿を見ていたら、私も着たくなっちゃったな。

 男性用もあったよね。
 早く、笹の間に行こう」


 あおいの浴衣姿は、優とオストリッチに絶賛されたが、蓮が着付けたとは、言わなかった。


 着付けの光景を想像されたら、とても恥ずかしいのだ。


 蓮が浴衣に着替えているのを見て、優も蓮に、着せてもらったのだった。


当然、オストリッチも着たいと言ったが、蓮に着付けは出来ない、と言われたので、只今、ふてくされ中だ。


「うわぁ、優さん、カッコいいなー!
 似合っています。いいなぁ!
その色いいですね。

楽しいでしょうね、人間は!

なんか、楽しい事がないかなー」


 オストリッチは、テラスに出て露天風呂の中に、脚をつけた。


「あちっ!お風呂も熱すぎて、入れなかったし、シャワーは、息が出来ないし。

サウナは、蒸し鳥料理が出来そうで、一瞬しか入れなかったし、結局、水風呂に入ったんだよね。

びっくりするほど、冷たかった」


「ツルノ君、夕飯が終わったら楽しい所に連れて行ってあげるから、機嫌を直しなよ」


 紺色の浴衣を格好良く、着こなしている優が言ったのだ。


 6畳間で待っていた あおいの元へ、蓮が入ってきた。


「蓮さん、黒い浴衣が似合いますね。
背が高いから、短めだけど格好いい」


「本当に?オストリッチ君は、優ばかり褒めているから、似合っていないかと思ったよ。

あの2人、随分、仲良くなったね。

オストリッチ君は、この間まで、優の事を“あの弱い人”なんて呼んでいたのにね!

この旅行で、仲良くなれて良かった」


「本当、急に仲良くなりましたよね。
リッチ君たら、私の所には全然来ないですもの。

リッチ君も楽しそうで良かったです」


「そうだ、優たちに今晩、あおいちゃんの部屋に泊まる事を伝えてくるよ」


「私も一緒に行きます」
  

 蓮とあおいもテラスに出た。


「優、オストリッチ君、今晩だけど。

 あおいちゃんがあの部屋に1人で泊まるのが怖いって言うんだ。

だから、私があの部屋に泊まってあげると約束をしたからさ、夕飯が終わったら、向こうへ行くからさ」


「すみません、我儘わがままを言ってしまって、蓮さんをお借りします」


「出た!これが魔性の女ってヤツだな!

 なんちゃって、冗談だよ。

 はーい、了解しました。

 ねぇ、ツルノ君!」

 
「?お姉さんの部屋に蓮さんが泊まるんですね。了解しました」


 なんか2人とも、あっさりと了解した……もっと、冷やかされるかと思ったけど?


 ピンポーン!
 

 その時、女将が夕食の支度が出来た、と知らせにやってきた。


「ツルノ君、夕食だってよ。そのヘルメットは、取って行こうよ。ねっ?
 お風呂の時も被っていたよね?」

 
「 ! 」


「あっ!被っていてもいいや、どっちでもいいよ」


 優も また、オストリッチの秘密を知ったのだった。


「はい、取って行きます」


 夕食は、大広間の会場でバイキング方式だった。


 あおい は、蟹を黙々と食べ、オストリッチは、甘エビを黙々と食べた。


 それぞれ、好きな物を食べ大満足の4人だったのだ。


 食事が、終わると優はオストリッチを連れて、どこかへと行ってしまった。


 あおいは、急にソワソワする。


「じゃあ、部屋へ戻ろうか?」


「あ、は、はい!」 


 あおいは、高鳴る?胸に、静まれと言い聞かせ、蓮の後を歩いていく。


 柊の間の前で、あおいは小さく深呼吸をした。


 なんかぁ、緊張してるぅ。


 蓮も ドキドキしているが、努めて、平静を装っている。


 コタツの部屋の隣、襖を開けると布団が2組敷かれていた。


 お、同じ部屋に布団!


 ど、ど、どうする?


 うう、今夜は、眠れそうにありません。


 2人は、同時に思ったのである。
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