【改稿版】人間不信の俺が恋なんてできるわけがない

柚希乃愁

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第四章 花火大会と海の家

第41話 告白って簡単なことじゃない

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 雪愛達が海へと行く前日。
 雪愛は瑞穂にいつもは四人でしているビデオ通話で相談をしていた。
 花火大会の日から春陽への想いは募る一方で、とうとう明日、春陽と海で会うことになる。
 それも、春陽の泊まる場所と同じところに一泊する予定なのだ。
 雪愛は自分の気持ちを一人で抱えきれなくなっていた。

 そこで、瑞穂には悪いと思いながらも話を聞いてもらうことにしたのだ。
 瑞穂は和樹と付き合っている。
 自分の抱く気持ちよりもずっと先を行っているからこそ話しやすく、もしかしたら何かアドバイスをくれるかもしれない。そんな気持ちもあった。

 花火大会の日に春陽と何があったかを話す雪愛。
 瑞穂は雪愛から春陽とのことで相談があると言われ、ここまで雪愛が話すのを嫌な素振り一つせず聞いている。
「それで、自分でもどうしてそんな思い切ったことをしようとしたのかわからないんだけど、春陽くんに告白しようとしちゃって――――」
「えっ!?雪愛、告白したの?」
 これまで相づち程度で黙って雪愛の話を聞いていた瑞穂だが、雪愛から告白という言葉が出てきて、驚きのあまり思わず確認してしまう。雪愛の気持ちをわかっていても、あの雪愛が告白、というのは衝撃が大きい。
「違うわよ!告白しようとしちゃったの。言いそうになったところで母さんが帰ってきて、結局、有耶無耶に……」
 最初は力強く否定した雪愛だったが、段々と弱弱しくなっていく。
「そっかぁ。花火大会の日、本当に色んなことがあったんだね」
 未遂だったことに瑞穂は肩から力が抜ける感覚がした。
 ここまで雪愛の話を聞いてきて、その内容はもう雪愛を家に送り届け、別れるところだ。
 そろそろ終わりかなと思い、瑞穂は纏めるように口にした。
「ええ。その日はそれで終わったんだけど……」
 本題はここからだと、雪愛の歯切れが悪くなる。
「うん。それで、雪愛はどうしたいの?」
 今雪愛の話したことはこんなことがあったという過去の話だ。
 雪愛が相談、と言うからには、それは今の話を前提にしたこれからのことなんだろうと瑞穂は考え、雪愛に切り出した。
「……どうしたらいいんだろう。私、春陽くんとの関係は今のままでいいと思ってたはずなのに……。今はそれだけじゃ嫌だって思ってる自分がいて……」
 瑞穂が切り出してくれたが、雪愛自身どうしたいのかが定まらない。
「風見と付き合いたいってこと?」
 瑞穂がはっきりと言葉にする。
「……うん。そうかもしれない。でも、あの時は勢いで言いそうになったけど、告白って本当に怖くて。断られるのもだけど、今の関係が壊れてしまうんじゃないかって、それが一番怖くて」
「そっか」
 瑞穂には雪愛の気持ちが痛いほどよくわかる。
「ねえ、瑞穂。付き合うってどんな感じなのかな?付き合ったら何が変わるのかな?」
 雪愛の表情を見ればわかる。
 すごく思い悩んでいて、真剣に聞いてきている。
 恐怖に勝る何かが欲しいのだろう。
 そんな雪愛にぼかして答えることはしたくなかった。
 これが雪愛の後押しになるかはわからないが、瑞穂は自分の経験を話すことにした。
 和樹とのことを話すのはすごく恥ずかしいが。

「んー、お互いのことをもっと知れるようになったかな。幼馴染の時より心理的な距離が近づいたっていうか。相手のことを大切な人だって強く思うっていうか。それにさっきの雪愛の話じゃないけど、手を繋いだり、抱き締めたりってのが普通にできるようになって、それが嬉しかったりして。…まあ、二人でいるときの色んな感情が幼馴染でいたときよりも大きくなったって感じよ」
 言っていて段々恥ずかしさが増したのか、最後、瑞穂の言い方がざっくりになった。こんな話を友人にしたことなんて瑞穂にはないのだ。
「……ねえ、瑞穂達ってキス、したことある?」
 未来に言われたことを思い出し、雪愛が問いかける。
「っ!?……まあ、それは、ね。あるよ」
 少し唐突に感じたが、それでも恥ずかしそうに画面から視線を外して答える瑞穂。
「そうなんだ。……その先も?」
「なっ!?………うん」
 雪愛の言葉に瑞穂の顔が真っ赤になる。その表情から、そこまで聞く!?と思ったのかもしれない。
 暫しの葛藤の末、瑞穂は正直に答えた。
 ここまで来たら全部答えちゃえと開き直ったような感じだ。声は消え入りそうなほど弱弱しかったが。
「そうなんだ。やっぱりそういうのができるって嬉しいもの?」
「……まあ、幸せを感じるのは確かね。っていうか雪愛はまだそこまで考えることないでしょうが。それは付き合ってからの話だよ」
 雪愛の先走りに瑞穂がツッコむ。このままではどこまでも赤裸々に語ることになってしまいそうだ。
「っ、そうよね。ごめんなさい。……でも、やっぱり好きな人と付き合えるって幸せなことなのよね」
「そのためには、告白しなきゃ始まらないよ?」
「それは、わかってはいるんだけど……」
 悩ましげな表情になる雪愛。
 瑞穂には、雪愛が告白はしたいけど、その勇気がまだ足りていない、そんな風に見えた。

「ねえ、雪愛。一つだけ。告白ってね、後回しにすればするほど言い難くなるよ。……私と和樹ね、付き合い始めたのは高一だけど、私が好きだって自覚したのって中一の時なんだ。そこから三年間も断られるのが怖いとか、今の関係を壊したくないとかって色々理由をつけて逃げてた。その間、和樹が告白されたのを知る度に胸が苦しくなった。高校に上がって和樹の女子人気がもっとすごくなって、このままじゃ一生言えずに、私は幼馴染のままで……、それでもし和樹が他の子と付き合ったら、絶対後悔するって思って私から告白したの」
 だから当時の自分の状況や気持ちを瑞穂は話した。
「そうだったの!?私てっきり―――」
 てっきり和樹が告白したのだと思っていた。まさか、自分と同じような気持ちを瑞穂が抱いていたなんて。それなのに、瑞穂から告白して付き合い始めることになったとは、と目を大きくする雪愛。
 瑞穂がすごいことをしたんだと今の雪愛にはわかる。
 そんな雪愛の反応に瑞穂は苦笑を浮かべる。
「そうだよ。今は告白できてよかったって思ってる。あのとき勇気を出してよかったって」
「それは、でも瑞穂と新条君は両想いだったから……」
 しかし、心ではそう思っても、雪愛の口からは後ろ向きな言葉が漏れる。
「そりゃ幼馴染だし仲はよかったよ?けどそんなの告ったときにわかってる訳ないじゃない。だからずっと怖かったんだから。けど、自分が何も行動せずに、和樹が他の人と付き合う未来が嫌で。幼馴染を終わらせる覚悟で、すっごい勇気がいったんだから」
「ごめんなさい」
 瑞穂の言う通りだ。両想いだとわかっていれば、怖がる必要はない。

「告白ってさ、両想いならすぐに付き合うって話になるかもしれないけど、そんなことお互いわかってるなら告白自体に意味ってあんまりなくない?付き合うための儀式みたいな。そこまでお互いの気持ちがわかるくらいになってから告白はするべき、って考え方もあるのは私も知ってるよ?全く関係ない、ほとんど知らない人に告白される経験とかがあったらそう思うのかもしれない。けどさ、それよりも、相手が自分のことを異性としてはどう思ってるかわからない中で、確信なんてもてない中で、相手に自分はあなたのことをそう思ってるって意識してもらうための告白っていうのもあると思うし、私はそっちの方が多いんじゃないかなって思うんだよね。そんなの言う側は怖いに決まってるよね。もう相手との関係性がちゃんとあって、それが自分にとって心地いいものなら余計に」
 告白の返事として、友達としか見れない、といった断られ方をすることがあるが、瑞穂が言っている告白はそういうもののことだろう。そしてその場合、その友達の関係すらぎこちなくなってしまうことも多い。だから怖いのだ。

「そうね……」

「まあ、告白する人みんながみんな、そんな風に考えてるかはわからないけどね。っていうか、ここまで怖いって思うのは私達とか雪愛と風見みたいにもう人間関係がしっかりできあがっちゃってる場合だよね。実際にはありえないって思うけど、断られても幼馴染の関係に何の影響もないってなれば怖さとか全然違った気がするし。私はそういう相手に告白されたことなんてないし、告白したのも和樹だけだから他の人のことはわからないけど。雪愛も告白はいっぱいされてるだろうけど、そういう相手はいなかったでしょ?」

 確かに、雪愛の場合、告白はされても、よくて名前は知っているくらいのクラスメイト、だいたいは名前も知らない相手ばかりだった。だから正直迷惑としか思わなかった。告白なんてしないでほしいとずっと思っていた。
 もちろん告白前後で関係性に影響が出たこともない。
 男性嫌いもあって、男子と仲良くなることすらなかったのだから当然だ。
 瑞穂もそのことをわかっているからこその言葉だった。

「うん。名前も知らない人とかが多かった」
「だよね。あー、もういっそのこと風見が告白してくれたらいいのにね」
「それはっ……、もしそんなことがあったら嬉しいけど……」
「でしょ?私も和樹に言ったことあるもん。付き合い始めた後にね、なんでそっちから告ってくれなかったのって。和樹も私と同じようなこと考えてて言えなかったって言ってたけど」

 今の関係を壊したくないと思うのは皆一緒だ。
 瑞穂と和樹ならば幼馴染の関係。
 雪愛と春陽ならば客観的に見ると友達以上恋人未満の関係だろうか。

「ふふっ。みんな思うことは一緒なのね」
 雪愛の顔が綻んだのを見た瑞穂はあらためて聞いてみた。
「私ばっかりいっぱい喋っちゃってごめんね。それで、雪愛はどうしたいの?」
 瑞穂の声は雪愛のことを慮って非常に優しいものだった。

 瑞穂の話を聞いて、雪愛は考えた。
 もし、誰かが春陽に告白したら、そしてもし春陽がその子と付き合うことになったら、そう考えただけで胸が苦しくなる。それが随分と勝手な言い分だという自覚はある。
 フェリーチェで未来の話を聞いた時も同じだった。
 その時も、そして花火大会の前日に四人で話した時も、雪愛は、春陽との今の関係を壊したくないと思ったし、皆にもそう言った。
 その気持ちは今でも変わらない。

 けれど、自分が告白なんてしてしまえば、今のままではいられない。
 断られれば、今よりも春陽との距離が離れてしまうかもしれない。
 今は変わってきてるとも思うが、元々人との関係を深めることを避ける傾向にある春陽には断られる可能性が高い。
 もうあんな優しい笑顔を自分には向けてくれなくなるかもしれない。
 雪愛にはそれがとても怖い。

 けれど、付き合うということが、花火大会の時よりも、もっと春陽の近くにいられて、もっと春陽と触れ合えて、未来や瑞穂の言うように、キスやその先も―――――。
 想像してしまい、雪愛の顔が耳まで赤くなる。
 そうして、付き合うことができて、もっと春陽のことを知ることができるのなら、それはなんて幸せなことなんだろう、と思う。
 きっと自分も、恋を初めて知ったように、色々なことをもっと知ることができる。
 春陽が教えてくれる。
 そして、そんな自分のことを春陽にもいっぱい知ってほしい。

 そのためには一歩を踏み出さなければ。
 断られることを恐れて、何もしなければ、何も始まることもないのだから。
 雪愛の気持ちが徐々に定まっていく。 
 もしも駄目だったらそのときはいっぱい泣こう。泣いて泣いて、一歩を踏み出せた自分を褒めてあげよう。心の中で自分自身にそう言うことで自分を奮い立たせる。
 けれど、どうか、この初めての恋が叶いますように――――。

「瑞穂、私、明日―――――」
 そう言った雪愛の目には決意が宿っていた。
 そんな雪愛に、瑞穂は優しい笑みで応援の言葉を贈るのだった。
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