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最終章 幸せのかたち
第99話 彼と彼女はそれぞれ想いに耽る
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カーテンの隙間から僅かに外が明るくなってきたことがわかる。
空が薄っすらと白み始めたようだ。
春陽は自分の腕枕でぐっすりと眠っている雪愛を見つめていた。
穏やかなその寝顔は薄っすら笑みを浮かべているように見え、思わず春陽も微笑んでしまう。
雪愛はつい先ほど眠りに就いたばかりだ。
ほっそりとした白く滑らかな肌が肩まで出てしまっていたから、起こさないように気をつけながらそっと毛布を肩まで掛ける。
暖房はついているが、風邪を引いてしまったら大変だ。
春陽の心の中は今、雪愛への想い、つまりは幸せで満たされていた。
唯一引っかかっているのは、雪愛にもっと優しくできなかったのか、もっと気遣えていたらという思いだ。やり直すことなんてできないため、後悔と言っていいかもしれない。
ただそれを差し引いても、雪愛への愛しさがどんどん大きくなっていく。
大きくなりすぎてどうにかなってしまいそうだ。自分の心なのに全く制御できない。けど全く嫌じゃない。それどころか、もっとこの気持ちに身を委ねたくなってしまう。
一つになるということがこんなにも雪愛への想いを大きくするんだということを春陽は知った。
静かな中、そんな風に想いを募らせる春陽は、もしものことを考えても仕方がないのだが、つい考えてしまう。
もしもあの日、雪愛を助けていなかったら、もしも雪愛と関わろうとしなかった自分に雪愛が踏み込んできてくれていなかったらどうなっていただろうか、と。
きっと今でも自分は人間不信のまま、麻理や悠介のことも信頼できずにいたに違いない。美優との仲直りなんてもっての外だっただろう。それがどれほど寂しく悲しいことか、今の春陽はわかっている。
さらに、雪愛の想いが、恋なんて無縁だと思っていた自分にそれを教えてくれた。
優しく包み込むようにして、春陽の凍っていた心をゆっくりと温めてくれた。
雪愛のしてくれたこと、そのすべてにどれほど感謝しているか雪愛はわかっているだろうか。
簡単にやってのけてしまう雪愛に自分は何を返せるだろうと考えれば、やはり雪愛がずっと笑顔でいられるように自分のすべてを懸けることくらいしか思いつかない。
雪愛と一緒に未来を歩んでいけるように。
指輪はそのための誓いのようなものだ。
そのためには自分自身のことも疎かにはできない。
そんなことをすれば、雪愛が悲しむこともわかっているから。
(俺の人生、か……)
自分なんていつ消えてもいいと本気で思ってきたというのに、何とも不思議なものだ。
春陽は今まで蔑ろにしてきた自分の生活、将来というものを真剣に考えていかなければならないのだ。
春陽がこれからどんな将来を思い描いていくのか、それはまだ誰にもわからない。
「おやすみ、雪愛。愛してる……」
囁くように眠る雪愛に言葉をかけ、春陽はゆっくりと眠りに就いた。
雪愛は徐に目を開いた。
カーテンから漏れる光からもうとっくに朝を過ぎ、もしかしたら午後に近いかもしれない。変な時間に寝たからか、頭が重く、身体もなんだか怠い。
随分熟睡していたなぁとぼんやりとした頭で思い、その理由に思い至って顔を赤らめた。
すぐ近くには春陽の寝顔がある。
しばらく春陽の穏やかな寝顔を見ていたら瞬間沸騰してしまったような心も落ち着いてきた。
そして思考も大分はっきりしてきた雪愛は、また昨夜のことを思い出す。
正直、初めてはもっと痛くて怖いものだと思っていた。
けれど、春陽はすごく優しくて、頭を撫でてくれたり、たくさんキスしてくれたり、言葉でも常に気にかけてくれた。
だから雪愛からも止めないでとお願いした。
すごく想ってくれているのが伝わって、一つになるということがこんなにも心満たされるものなのだと知った。
気づかないうちに涙が流れていた。
けれど、それが良くなかったのだろうか。
終わった後、春陽が言ったのだ。
「全然優しくできなくてごめん。もっと気遣えたらよかったのに……」
それを聴いて雪愛は驚いた。
この人は何を言っているのだろう、と。
だから雪愛は正直な気持ちを春陽に伝えた。
「大丈夫だよ。幸せ過ぎるくらいだった」
自然と笑みが浮かんだ。
すると次の瞬間、春陽が強く雪愛を抱きしめた。
雪愛からも強く抱きしめ返す。
全身が春陽に包まれているようで、雪愛を何とも言えない幸福感が満たした。
それからベッドで身体を寄せ合いながらしばらくは穏やかな時間を過ごした。
そしたら突然春陽が言ったのだ。
「雪愛、愛してる」
言った瞬間、春陽は自分の言葉に驚いたようだった。
けれど、すぐに納得したような笑みを浮かべた。
それはまるで、思わず口に出た言葉に驚き、すぐにそれこそが自分の気持ちを表すのに最も適した言葉だと理解したかのように。
ただ、言われた雪愛はそれどころではない。
そのときの自分の感情を春陽はわかっているのだろうか。
嬉しさでどうにかなってしまいそうだった。
自分からもこの想いが届いてほしいと心を込めて伝えた。
「私も。愛してる」
その気持ちのまま自分からもう一度、と二度目を求めてしまった。
そんな雪愛に春陽は心配そうに言う。
「大丈夫なのか?」
春陽は雪愛の身体を心配していた。
雪愛にもそれはわかっていて、その言葉も嬉しかったのだが、今の自分の気持ちはそれでは止まらない。
「春陽くんはイヤ?」
ちょっとズルい言い方かもしれない。
でも心が春陽を求めているのだ。
雪愛がそう言うと、春陽は困ったような笑みを浮かべた。
「そんな訳ないだろ」
二度目は雪愛にも少し余裕ができて、色々したり言ったりしてしまった自分を思い出すと恥ずかしいが春陽も積極的だったように思うのでよかったと思うことにする。
(引かれたりはしてない、よね?)
春陽の寝顔を見ながら、そんな絶対にありえない不安が過る。
けれどそんなものは、これからの二人の時間が簡単に消し飛ばしてくれるだろう。
沙織と話したとき、積極的になっていいと背中を押してもらった雪愛は、自分はどうしたいのかと自らの心に問いかけ、自分が春陽との関係をもっと深めていきたいと思っていることを自覚した。
それから、いずれこうなることを望み、事前に瑞穂に聞いたり、自分でも勉強したりしていたのだ。
それがこの日役に立った。
もう遅いかもしれないけれど、春陽にエッチな女の子だって思われちゃうかもしれないからこのことは内緒だ。
実は、瑞穂に春陽が用意していなかったら問題だから、と強く言われ、バッグの中に薬局で買ったものが入っているのだが、春陽がちゃんと準備してくれていたので出さずに済んだことも内緒だ。
しかもそれで終わりではなく、その後、再び互いに気持ちが昂っていき、どちらからともなくそういう雰囲気になって、愛し合った。
……やっぱり隠そうとしてももう遅いかもしれない。
雪愛はその後疲れからすぐに眠ってしまった。
春陽がまだ寝ていることから、余程疲れてしまったのか、もしかしたら自分が寝た後もしばらく起きていたのかもしれない。
指輪のついた左手を見る。
今自分が身につけているのはこれだけだ。
ブレスレットもネックレスもテーブルの上に置かれている。
春陽のネックレスもそれらの隣にある。
春陽の左腕は自分の頭の下にあるので、今左手は見えないが、同じく指輪をつけているだけで他には何も身につけていない。
昨夜のことを思い出しながら幸せに満たされていたからこそなのだろうか。雪愛はそこでふと考えてしまった。
あの日、春陽に助けてもらっていなかったらどうなっていただろうか、と。
もしそうなったら春陽との接点が生まれない。春陽がハルだと気づくこともない。
きっと自分は今も男性嫌いのまま、恋愛に冷めたままだっただろう。
春陽を好きになって知った様々な感情も知らずにいたに違いない。
当時の自分が興味もなく、知りたいとも思っていなかったもの。
今ではそんな自分を想像するだけで嫌だ。
けれどずっと自分の中に恋をする気持ちはちゃんとあったのだ。
それもこれも幼い頃一番辛いときに春陽が寄り添ってくれたから。
当時はわからなかった雪愛の初恋。
だから男性嫌いを自認していても、自分自身気づいてもいなかったところに、恋する心が雪愛の中に残っていた。
そして雪愛は、高校生の春陽に二度目の初恋をした。
昨日、春陽も同じだと話してくれたとき、言葉で言い表せないほど嬉しかった。
最初はどうしてこんなに気になるのか、理由がわからないままとにかく春陽のことが知りたかった。
知っていくにつれどんどん惹かれていった。そんな自分自身が不思議だったけど、想いは止まらなかった。
春陽はわかっているだろうか。
春陽が自分にこれまでどれほどのものを与えてくれたか。
その時々で抱えていた悩みをいとも簡単に解消し、多くの幸せをくれた。
いつもこちらが想像もしていない、それ以上の言葉や行動をくれた。
『何年先になるかわからないけど……、いつかさ、本物をつけよう?』
昨日春陽が言ってくれた言葉。
春陽が口にしたからには本気でそう想ってくれていることがわかる。
信じられる。
嬉しかった。
本当に嬉しかった。
春陽が自分との未来を考えてくれていることが。
自分達はまだまだ子供で、これからいくつも乗り越えなければならないことはあるだろう。
そんなことは自分も、きっと春陽もわかっている。
それでもそれらを乗り越えていくんだという決意を春陽は示してくれた。
どうしたらそんな春陽に応えることができるだろうか。
優し過ぎるくらい優しい人。
雪愛はそんな春陽を支えられるような女性になりたい、そう強く思った。
そんな風に春陽とのことを色々考えながら春陽の顔を見つめていたら、ゆっくりと春陽の瞼が開いていった。
「おはよう、春陽くん」
「……おはよう、雪愛」
寝ぼけている春陽が何だか可愛くて、可笑しくて雪愛は笑みを浮かべた。
そして流れるようにチュッと軽いキスをすると、
「愛してる」
今の春陽への想いを一番表している言葉を贈るのだった。
少しだけ身体を寄せ合っていた二人だが、この後は予定があるため、名残惜しく思いながらもベッドから出て準備を始めた。
今日は夕方からフェリーチェでクリスマスパーティーだ。
二人と麻理はもちろん、美優、沙織、悠介、楓花が参加する。
麻理がクリスマス当日の春陽のバイトを断ったのはこれが理由だったのだ。
だが、その前に何か食べた方がいいかもしれない。
昨日の夕食以降二人とも何も食べていない。
夕方からのパーティーまで待っていると丸一日何も食べていないことになってしまう。
二人は出かける準備を整えると、春陽のアパートを後にした。
まずは雪愛の家に行くことになっている。
雪愛がパーティー用に用意したプレゼントを取りに行く必要があるし、雪愛としては着替えなどを済ませたいというのもあった。
その後、一緒にフェリーチェに向かう予定だ。
二人で話して、雪愛の家に着いたら少し何か食べようということになった。
春陽の家には食料がほとんどないため仕方がない。
雪愛の家には沙織がいる。
フェリーチェには沙織も一緒に行くことになるだろう。
これから雪愛の母親に会うのだと思うと緊張してしまうが、これからのためにも沙織ともちゃんと関係を築いていきたい、そうあらためて思う春陽だった。
空が薄っすらと白み始めたようだ。
春陽は自分の腕枕でぐっすりと眠っている雪愛を見つめていた。
穏やかなその寝顔は薄っすら笑みを浮かべているように見え、思わず春陽も微笑んでしまう。
雪愛はつい先ほど眠りに就いたばかりだ。
ほっそりとした白く滑らかな肌が肩まで出てしまっていたから、起こさないように気をつけながらそっと毛布を肩まで掛ける。
暖房はついているが、風邪を引いてしまったら大変だ。
春陽の心の中は今、雪愛への想い、つまりは幸せで満たされていた。
唯一引っかかっているのは、雪愛にもっと優しくできなかったのか、もっと気遣えていたらという思いだ。やり直すことなんてできないため、後悔と言っていいかもしれない。
ただそれを差し引いても、雪愛への愛しさがどんどん大きくなっていく。
大きくなりすぎてどうにかなってしまいそうだ。自分の心なのに全く制御できない。けど全く嫌じゃない。それどころか、もっとこの気持ちに身を委ねたくなってしまう。
一つになるということがこんなにも雪愛への想いを大きくするんだということを春陽は知った。
静かな中、そんな風に想いを募らせる春陽は、もしものことを考えても仕方がないのだが、つい考えてしまう。
もしもあの日、雪愛を助けていなかったら、もしも雪愛と関わろうとしなかった自分に雪愛が踏み込んできてくれていなかったらどうなっていただろうか、と。
きっと今でも自分は人間不信のまま、麻理や悠介のことも信頼できずにいたに違いない。美優との仲直りなんてもっての外だっただろう。それがどれほど寂しく悲しいことか、今の春陽はわかっている。
さらに、雪愛の想いが、恋なんて無縁だと思っていた自分にそれを教えてくれた。
優しく包み込むようにして、春陽の凍っていた心をゆっくりと温めてくれた。
雪愛のしてくれたこと、そのすべてにどれほど感謝しているか雪愛はわかっているだろうか。
簡単にやってのけてしまう雪愛に自分は何を返せるだろうと考えれば、やはり雪愛がずっと笑顔でいられるように自分のすべてを懸けることくらいしか思いつかない。
雪愛と一緒に未来を歩んでいけるように。
指輪はそのための誓いのようなものだ。
そのためには自分自身のことも疎かにはできない。
そんなことをすれば、雪愛が悲しむこともわかっているから。
(俺の人生、か……)
自分なんていつ消えてもいいと本気で思ってきたというのに、何とも不思議なものだ。
春陽は今まで蔑ろにしてきた自分の生活、将来というものを真剣に考えていかなければならないのだ。
春陽がこれからどんな将来を思い描いていくのか、それはまだ誰にもわからない。
「おやすみ、雪愛。愛してる……」
囁くように眠る雪愛に言葉をかけ、春陽はゆっくりと眠りに就いた。
雪愛は徐に目を開いた。
カーテンから漏れる光からもうとっくに朝を過ぎ、もしかしたら午後に近いかもしれない。変な時間に寝たからか、頭が重く、身体もなんだか怠い。
随分熟睡していたなぁとぼんやりとした頭で思い、その理由に思い至って顔を赤らめた。
すぐ近くには春陽の寝顔がある。
しばらく春陽の穏やかな寝顔を見ていたら瞬間沸騰してしまったような心も落ち着いてきた。
そして思考も大分はっきりしてきた雪愛は、また昨夜のことを思い出す。
正直、初めてはもっと痛くて怖いものだと思っていた。
けれど、春陽はすごく優しくて、頭を撫でてくれたり、たくさんキスしてくれたり、言葉でも常に気にかけてくれた。
だから雪愛からも止めないでとお願いした。
すごく想ってくれているのが伝わって、一つになるということがこんなにも心満たされるものなのだと知った。
気づかないうちに涙が流れていた。
けれど、それが良くなかったのだろうか。
終わった後、春陽が言ったのだ。
「全然優しくできなくてごめん。もっと気遣えたらよかったのに……」
それを聴いて雪愛は驚いた。
この人は何を言っているのだろう、と。
だから雪愛は正直な気持ちを春陽に伝えた。
「大丈夫だよ。幸せ過ぎるくらいだった」
自然と笑みが浮かんだ。
すると次の瞬間、春陽が強く雪愛を抱きしめた。
雪愛からも強く抱きしめ返す。
全身が春陽に包まれているようで、雪愛を何とも言えない幸福感が満たした。
それからベッドで身体を寄せ合いながらしばらくは穏やかな時間を過ごした。
そしたら突然春陽が言ったのだ。
「雪愛、愛してる」
言った瞬間、春陽は自分の言葉に驚いたようだった。
けれど、すぐに納得したような笑みを浮かべた。
それはまるで、思わず口に出た言葉に驚き、すぐにそれこそが自分の気持ちを表すのに最も適した言葉だと理解したかのように。
ただ、言われた雪愛はそれどころではない。
そのときの自分の感情を春陽はわかっているのだろうか。
嬉しさでどうにかなってしまいそうだった。
自分からもこの想いが届いてほしいと心を込めて伝えた。
「私も。愛してる」
その気持ちのまま自分からもう一度、と二度目を求めてしまった。
そんな雪愛に春陽は心配そうに言う。
「大丈夫なのか?」
春陽は雪愛の身体を心配していた。
雪愛にもそれはわかっていて、その言葉も嬉しかったのだが、今の自分の気持ちはそれでは止まらない。
「春陽くんはイヤ?」
ちょっとズルい言い方かもしれない。
でも心が春陽を求めているのだ。
雪愛がそう言うと、春陽は困ったような笑みを浮かべた。
「そんな訳ないだろ」
二度目は雪愛にも少し余裕ができて、色々したり言ったりしてしまった自分を思い出すと恥ずかしいが春陽も積極的だったように思うのでよかったと思うことにする。
(引かれたりはしてない、よね?)
春陽の寝顔を見ながら、そんな絶対にありえない不安が過る。
けれどそんなものは、これからの二人の時間が簡単に消し飛ばしてくれるだろう。
沙織と話したとき、積極的になっていいと背中を押してもらった雪愛は、自分はどうしたいのかと自らの心に問いかけ、自分が春陽との関係をもっと深めていきたいと思っていることを自覚した。
それから、いずれこうなることを望み、事前に瑞穂に聞いたり、自分でも勉強したりしていたのだ。
それがこの日役に立った。
もう遅いかもしれないけれど、春陽にエッチな女の子だって思われちゃうかもしれないからこのことは内緒だ。
実は、瑞穂に春陽が用意していなかったら問題だから、と強く言われ、バッグの中に薬局で買ったものが入っているのだが、春陽がちゃんと準備してくれていたので出さずに済んだことも内緒だ。
しかもそれで終わりではなく、その後、再び互いに気持ちが昂っていき、どちらからともなくそういう雰囲気になって、愛し合った。
……やっぱり隠そうとしてももう遅いかもしれない。
雪愛はその後疲れからすぐに眠ってしまった。
春陽がまだ寝ていることから、余程疲れてしまったのか、もしかしたら自分が寝た後もしばらく起きていたのかもしれない。
指輪のついた左手を見る。
今自分が身につけているのはこれだけだ。
ブレスレットもネックレスもテーブルの上に置かれている。
春陽のネックレスもそれらの隣にある。
春陽の左腕は自分の頭の下にあるので、今左手は見えないが、同じく指輪をつけているだけで他には何も身につけていない。
昨夜のことを思い出しながら幸せに満たされていたからこそなのだろうか。雪愛はそこでふと考えてしまった。
あの日、春陽に助けてもらっていなかったらどうなっていただろうか、と。
もしそうなったら春陽との接点が生まれない。春陽がハルだと気づくこともない。
きっと自分は今も男性嫌いのまま、恋愛に冷めたままだっただろう。
春陽を好きになって知った様々な感情も知らずにいたに違いない。
当時の自分が興味もなく、知りたいとも思っていなかったもの。
今ではそんな自分を想像するだけで嫌だ。
けれどずっと自分の中に恋をする気持ちはちゃんとあったのだ。
それもこれも幼い頃一番辛いときに春陽が寄り添ってくれたから。
当時はわからなかった雪愛の初恋。
だから男性嫌いを自認していても、自分自身気づいてもいなかったところに、恋する心が雪愛の中に残っていた。
そして雪愛は、高校生の春陽に二度目の初恋をした。
昨日、春陽も同じだと話してくれたとき、言葉で言い表せないほど嬉しかった。
最初はどうしてこんなに気になるのか、理由がわからないままとにかく春陽のことが知りたかった。
知っていくにつれどんどん惹かれていった。そんな自分自身が不思議だったけど、想いは止まらなかった。
春陽はわかっているだろうか。
春陽が自分にこれまでどれほどのものを与えてくれたか。
その時々で抱えていた悩みをいとも簡単に解消し、多くの幸せをくれた。
いつもこちらが想像もしていない、それ以上の言葉や行動をくれた。
『何年先になるかわからないけど……、いつかさ、本物をつけよう?』
昨日春陽が言ってくれた言葉。
春陽が口にしたからには本気でそう想ってくれていることがわかる。
信じられる。
嬉しかった。
本当に嬉しかった。
春陽が自分との未来を考えてくれていることが。
自分達はまだまだ子供で、これからいくつも乗り越えなければならないことはあるだろう。
そんなことは自分も、きっと春陽もわかっている。
それでもそれらを乗り越えていくんだという決意を春陽は示してくれた。
どうしたらそんな春陽に応えることができるだろうか。
優し過ぎるくらい優しい人。
雪愛はそんな春陽を支えられるような女性になりたい、そう強く思った。
そんな風に春陽とのことを色々考えながら春陽の顔を見つめていたら、ゆっくりと春陽の瞼が開いていった。
「おはよう、春陽くん」
「……おはよう、雪愛」
寝ぼけている春陽が何だか可愛くて、可笑しくて雪愛は笑みを浮かべた。
そして流れるようにチュッと軽いキスをすると、
「愛してる」
今の春陽への想いを一番表している言葉を贈るのだった。
少しだけ身体を寄せ合っていた二人だが、この後は予定があるため、名残惜しく思いながらもベッドから出て準備を始めた。
今日は夕方からフェリーチェでクリスマスパーティーだ。
二人と麻理はもちろん、美優、沙織、悠介、楓花が参加する。
麻理がクリスマス当日の春陽のバイトを断ったのはこれが理由だったのだ。
だが、その前に何か食べた方がいいかもしれない。
昨日の夕食以降二人とも何も食べていない。
夕方からのパーティーまで待っていると丸一日何も食べていないことになってしまう。
二人は出かける準備を整えると、春陽のアパートを後にした。
まずは雪愛の家に行くことになっている。
雪愛がパーティー用に用意したプレゼントを取りに行く必要があるし、雪愛としては着替えなどを済ませたいというのもあった。
その後、一緒にフェリーチェに向かう予定だ。
二人で話して、雪愛の家に着いたら少し何か食べようということになった。
春陽の家には食料がほとんどないため仕方がない。
雪愛の家には沙織がいる。
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