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第一章
メイド
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結局、レオナルドは結論を出せないまま、メイドがレオナルドを起こしに来てしまった。
音もなく部屋に入ってきたメイドはレオナルドがベッドに腰掛けていたことに一瞬固まる。寝ていると思っていた相手が起きていれば、それも公爵家のメイドになってから初めての出来事であれば、そんな反応も仕方のないことだろう。
「おはようございます、レオナルド様。起きていらっしゃったのですね」
それでもすぐに平静を取り戻し、一度お辞儀をして挨拶をすると、メイドは足音も立てずレオナルドに近づき微笑を浮かべながら話しかける。朝レオナルドを起こしに来るのはいつもこのメイドだ。
「っ、ああ、おは、よう、ミレーネ……」
突然声をかけられ、身体をビクッとさせたレオナルドは直前まで考え事をしていたせいで無意識にミレーネに顔を向けてしまい、その顔を引き攣らせる。
彼女の顔をまじまじと見て、ここが間違いなく『Blessing Blossom』の世界だとあらためて理解した。
ミレーネはゲームのサブヒロインの一人。背中まである水色の髪に同系色のアクアマリンのような瞳をしているクール系のできる美人メイドさんだ。今はまだレオナルドの専属メイド、という訳ではないが、ゲームではレオナルドの入学とともに、レオナルドの専属メイドとして、学園にもついてきて身の回りの世話をしてくれる。だが、レオナルドが徐々に変わっていってしまい、ミレーネに対して権力と暴力による隷属を求めるようになる。それでも時にはレオナルドを諫め、ミレーネは耐えていた。それには彼女の過去が関係しているのだが、見上げた公爵家への忠誠心だ。だが、他の女性にも手を出していることを知り、それを一番近くで見ていたミレーネはついに耐えられなくなって、レオナルドの友人ということで自身も交流のあった主人公に助けを求める、といった流れだった。ミレーネルートの綺麗だが、悲しい結末はよく憶えている。彼女もまたサブヒロインの中で唯一ハッピーエンドとは言えない終わり方なのだ。というか、こうして考えると、悪役令息であるレオナルドに関係するセレナリーゼとミレーネのヒロイン二人が悲しい結末を迎えるようにシナリオが作られているとしか思えない。
そんな風にざっくりと頭の中でミレーネのストーリーを思い出すレオナルド。それだけならよかったのだが、同時に、この一年でミレーネに向けるようになった邪な感情まで思い出してしまい、レオナルドは自分という人間に絶望した。
ミレーネと初めて会ったのはレオナルドが五歳のときのこと。
今後、クルームハイト公爵家で働くメイドだと両親に紹介されたのだ。
以降ミレーネは、仕事をこなしながらも、少し年上のお姉さんという感じで、レオナルドやセレナリーゼのよき遊び相手となってくれた。
レオナルドがそんな彼女に好意を抱くのは自然なことだっただろう。それは普通なら成長するにつれ、異性に対する淡い想いとなったかもしれない。
だが、レオナルドは自分に魔力がないとわかった一年ほど前から、焦りや苛立ちを抱えるようになり、それとほぼ同時期にメイドであるミレーネに対して歪んだ欲望を抱くようになったのだ。メイド相手なら何をしてもいいのだ、と。
(キモっ!俺キモっ!)
悶えそうになるのを必死で堪える。
ミレーネは姉のような存在だったのだ。なぜそんな発想になったのか、今振り返って考えてもわからない。
まだガキのくせに、なんともゲスでクズな典型的悪役貴族だ。
こんな男からは早く逃げて、すぐ逃げて、超逃げて、と叫びたくなる。
自分のことだが、発想が気持ち悪すぎる。
唯一の救いは、レオナルドの考えがまだ幼稚で変なことをミレーネに命令していないことだろうか。
「どうかしましたか?」
レオナルドの様子を怪訝に思ったのか、ミレーネが尋ねる。
「っ!?あ、いや……」
一瞬レオナルドの目が泳ぐが、レオナルドという人間の性なのか、彼の目はミレーネの体のとある一点をつい見つめてしまう。ミレーネへ歪んだ欲望を抱くようになってからのよろしくない習性だ。レオナルドが十一歳になったばかりだから、ミレーネは現在十四歳ということになる。
ちなみに、レオナルドは四月生まれ、ミレーネは六月生まれだ。
成長が早い、いや、成熟が早いと言うべきか、ミレーネはすでに大変立派なモノをお持ちなのだ。
「……そうですか。でしたら、朝の準備を始めましょう?皆様をお待たせしてしまいますよ?」
だが、さすがは完璧メイドのミレーネ。薄い笑みを浮かべ、レオナルドの視線なんて気づいていません、とでも言うように、さっさと朝の準備を始めようとする。
何を考えているのかよくわからないミステリアスな笑顔や冷たい感じのする態度はゲーム通りといった印象だ。
「あ、ああ。そうだね」
色々考えていたこと、ミレーネの胸をガン見してしまったことがバレていないことにレオナルドはほっと安堵し、ミレーネの言葉に素直に従って、着替えなど準備を始めるのだった。
音もなく部屋に入ってきたメイドはレオナルドがベッドに腰掛けていたことに一瞬固まる。寝ていると思っていた相手が起きていれば、それも公爵家のメイドになってから初めての出来事であれば、そんな反応も仕方のないことだろう。
「おはようございます、レオナルド様。起きていらっしゃったのですね」
それでもすぐに平静を取り戻し、一度お辞儀をして挨拶をすると、メイドは足音も立てずレオナルドに近づき微笑を浮かべながら話しかける。朝レオナルドを起こしに来るのはいつもこのメイドだ。
「っ、ああ、おは、よう、ミレーネ……」
突然声をかけられ、身体をビクッとさせたレオナルドは直前まで考え事をしていたせいで無意識にミレーネに顔を向けてしまい、その顔を引き攣らせる。
彼女の顔をまじまじと見て、ここが間違いなく『Blessing Blossom』の世界だとあらためて理解した。
ミレーネはゲームのサブヒロインの一人。背中まである水色の髪に同系色のアクアマリンのような瞳をしているクール系のできる美人メイドさんだ。今はまだレオナルドの専属メイド、という訳ではないが、ゲームではレオナルドの入学とともに、レオナルドの専属メイドとして、学園にもついてきて身の回りの世話をしてくれる。だが、レオナルドが徐々に変わっていってしまい、ミレーネに対して権力と暴力による隷属を求めるようになる。それでも時にはレオナルドを諫め、ミレーネは耐えていた。それには彼女の過去が関係しているのだが、見上げた公爵家への忠誠心だ。だが、他の女性にも手を出していることを知り、それを一番近くで見ていたミレーネはついに耐えられなくなって、レオナルドの友人ということで自身も交流のあった主人公に助けを求める、といった流れだった。ミレーネルートの綺麗だが、悲しい結末はよく憶えている。彼女もまたサブヒロインの中で唯一ハッピーエンドとは言えない終わり方なのだ。というか、こうして考えると、悪役令息であるレオナルドに関係するセレナリーゼとミレーネのヒロイン二人が悲しい結末を迎えるようにシナリオが作られているとしか思えない。
そんな風にざっくりと頭の中でミレーネのストーリーを思い出すレオナルド。それだけならよかったのだが、同時に、この一年でミレーネに向けるようになった邪な感情まで思い出してしまい、レオナルドは自分という人間に絶望した。
ミレーネと初めて会ったのはレオナルドが五歳のときのこと。
今後、クルームハイト公爵家で働くメイドだと両親に紹介されたのだ。
以降ミレーネは、仕事をこなしながらも、少し年上のお姉さんという感じで、レオナルドやセレナリーゼのよき遊び相手となってくれた。
レオナルドがそんな彼女に好意を抱くのは自然なことだっただろう。それは普通なら成長するにつれ、異性に対する淡い想いとなったかもしれない。
だが、レオナルドは自分に魔力がないとわかった一年ほど前から、焦りや苛立ちを抱えるようになり、それとほぼ同時期にメイドであるミレーネに対して歪んだ欲望を抱くようになったのだ。メイド相手なら何をしてもいいのだ、と。
(キモっ!俺キモっ!)
悶えそうになるのを必死で堪える。
ミレーネは姉のような存在だったのだ。なぜそんな発想になったのか、今振り返って考えてもわからない。
まだガキのくせに、なんともゲスでクズな典型的悪役貴族だ。
こんな男からは早く逃げて、すぐ逃げて、超逃げて、と叫びたくなる。
自分のことだが、発想が気持ち悪すぎる。
唯一の救いは、レオナルドの考えがまだ幼稚で変なことをミレーネに命令していないことだろうか。
「どうかしましたか?」
レオナルドの様子を怪訝に思ったのか、ミレーネが尋ねる。
「っ!?あ、いや……」
一瞬レオナルドの目が泳ぐが、レオナルドという人間の性なのか、彼の目はミレーネの体のとある一点をつい見つめてしまう。ミレーネへ歪んだ欲望を抱くようになってからのよろしくない習性だ。レオナルドが十一歳になったばかりだから、ミレーネは現在十四歳ということになる。
ちなみに、レオナルドは四月生まれ、ミレーネは六月生まれだ。
成長が早い、いや、成熟が早いと言うべきか、ミレーネはすでに大変立派なモノをお持ちなのだ。
「……そうですか。でしたら、朝の準備を始めましょう?皆様をお待たせしてしまいますよ?」
だが、さすがは完璧メイドのミレーネ。薄い笑みを浮かべ、レオナルドの視線なんて気づいていません、とでも言うように、さっさと朝の準備を始めようとする。
何を考えているのかよくわからないミステリアスな笑顔や冷たい感じのする態度はゲーム通りといった印象だ。
「あ、ああ。そうだね」
色々考えていたこと、ミレーネの胸をガン見してしまったことがバレていないことにレオナルドはほっと安堵し、ミレーネの言葉に素直に従って、着替えなど準備を始めるのだった。
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