死亡エンドしかない悪役令息に転生してしまったみたいだが、全力で死亡フラグを回避する!

柚希乃愁

文字の大きさ
3 / 119
第一章

よりにもよって

しおりを挟む
「いや、いや、そんなまさか……」
 かわいた笑いがれる。ゲームの世界に転生なんてそんなことあり得ない、と自分の考えを否定するが、前世を思い出す前までのレオナルドとしての記憶がそれを許してくれない。レオナルドは冷や汗をかきながら、ゲームのレオナルドについて思い出さずにはいられなかった。

『Blessing Blossom』には悪役貴族が登場する。
 その名もレオナルド=クルームハイト。いかにも悪役といった目つきの悪いキャラクターだ。登場時点では王立学園に入学したばかりのため十六歳。ムージェスト王国をメインの舞台にしたこのゲームで、ムージェスト王国のクルームハイト公爵令息こうしゃくれいそくであるこの男は、ヒロイン達をあの手この手で主人公から略奪りゃくだつしようとする。イベントシーンをコンプリートするためには実際にヒロインをうばわれる必要もあり、プレイしているときは精神的にきつかった。イケメンなことなんて何のなぐさめにもならなかった。

 ゲーム本編開始からすぐのこと、学園内でヒロインの一人である、レオナルドの義妹を主人公が助けたことをきっかけにして最初のうちは主人公と友人のようになる。
 戦闘でも使用できるのだが、レオナルドは剣術けんじゅつでの物理一辺倒いっぺんとうだ。なぜなら、魔法が主のこの世界で、レオナルドには魔力がなかったから。そのことに彼は相当強いコンプレックスを抱いていたことが後々ゲーム内で判明する。

 それでも近接戦の攻撃力が高く、という欠点はあっても耐久値も高いレオナルドは、本当に初期の戦闘では中々使い勝手がいいのだが、主人公達が色々な魔法を使えるようになるとすぐに使えないキャラと化す。そして共通ルートのとあるイベント後は使用不可になり、そこから主人公とは疎遠そえんになり、ヒロインにちょっかいを出すようになる。

 ルートによってはラスボスになったりもするかなりウザい存在だ。しかもその際は精霊を宿やどしたとか言って、物理だけじゃなく精霊術せいれいじゅつなんていう強力な魔法のようなものを使ってくるようになり、遠近両方の攻撃が高威力でかなり苦戦させられた。精霊という存在がゲーム内でどれだけチートな存在なのかがよくわかるステータスをしているのだ。

 ちなみにラスボスになった際、ヒロインの略奪にも精霊の力を使っていたことが明かされる。

 まあ、こういう悪役キャラがいるからこそ、ざまあのときには爽快感そうかいかんがあるし、各ストーリーが感動的だったりもした訳だが。

 前世で一番最後にクリアしたのはパッケージの段階で決めていたセレナリーゼ=クルームハイト。プラチナブロンドの髪に紫水晶むらさきすいしょうのような瞳をもつレオナルドの義妹だ。このルートでレオナルドの真実が判明する。
 彼は、偶然ぐうぜん精霊をその身に宿した後、魔力なしというコンプレックスを刺激しげきする精霊の甘言かんげんにより徐々にその思考を染められていたのだ。それは精霊がムージェスト王国の王侯貴族おうこうきぞくうらんでのことで、レオナルドは本当の意味での悪役ではなかった。殺せ、殺せとそそのかしてくる精霊に、コンプレックスをかかえていたレオナルドの精神は段々と汚染されていき、王侯貴族を悪と思い、そんな相手になら何をしてもいい、と思うようになったということが語られている。だからヒロイン達を自分の物にしようとしたのだ、と。残念ながら精霊の恨みの理由やなぜレオナルドにそんな存在が宿ることができたのかなど、詳しい説明はなかったが。

 このルートでは最後、涙するセレナリーゼの腕の中で精霊とともに死ぬことをレオナルドは選ぶ。そして彼女は原因不明の不治ふじの病におかされ余命いくばくもないながらも、主人公を婿むこに迎え、レオナルドの代わりに公爵家を継ぎ、レオナルドのせいで権威が失墜しっついしてしまった公爵家の再建に尽力じんりょくするが道半みちなかばで死んでしまうエンディングとなる。五人のヒロインの中で唯一ハッピーエンドとは言えない終わりだ。そしてこれはある意味、レオナルドの救済ルートでもあった。
 というか、他のどのヒロインのルートでもレオナルドは死んでしまうのだが、セレナリーゼに看取みとられるこれが一番おだやかな死に方だった。
 そう、レオナルドはどのルートに進んでも死んでしまうのだ。しかもほとんどが殺されて終わる。ゲームとしてはバッドエンドに進んでもレオナルドは必ず死ぬ徹底てっていぶりだ。

「俺の人生、んでるんじゃ……」
 ゲーム内では自分の死が確定していることにレオナルドは頭をかかえた。冷や汗が止まらない。ゲームの世界への転生なんていうあり得ないことが起こったことを百歩ゆずっても、どうしてよりにもよってレオナルドへの転生なんだとさけびたい。

 よろよろとベッドから抜け出したレオナルドは最後の希望とばかりに、室内にある鏡に近づいていき、自分の顔を見た。
 そして、やはり救いはなかったと絶望する。
 輝く金髪に、サファイアのような青い瞳をもつ中性的な整った顔立ちの少年がそこにいた。
 目つきこそまだそこまで悪くなっていないが、それはゲームのレオナルドを少し幼くしたような顔で、つまりはゲームのレオナルドだという現実を突きつけられただけだった。
 そもそもレオナルドとしての記憶の中にセレナリーゼという妹の存在もあったのだからもう受け入れるしかない。
 自分はゲーム通りなら確実に死ぬ運命が待っている、公爵令息レオナルド=クルームハイトとして生きていかなければならないということを。

 時計を見ればメイドが起こしに来るまでもう少し時間がある。
 レオナルドはベッドに腰掛け、深いため息を吐いた。そして自分の望みを口に出す。
「何とかして死ぬ運命だけは回避したい。何が悲しくて十年もしないうちに死ぬとわかっている人生を送らなきゃいけないんだ……」
 前世の人生だって決して順風満帆じゅんぷうまんぱんなんてものではなかった。けれどレオナルドに待ち受けているものはそんな比じゃない。
 どうせなら主人公に転生したかったという思いが強いが、それを言ってもどうしようもない。
 どうすれば望みが叶うのか、考え続けるレオナルド。
「そうだよ。ゲーム通りに進めなきゃいいんだ!」
 そして思いつく。まず、大前提としてヒロイン達を略奪しない。そして、主人公と友人になんてならない。
 それで自分が悪役になることはないのではないか?
 すごくいい案のように感じるレオナルド。少しだが希望がいてきた。
 けれどそれだけではらないようにも思う。なぜならレオナルドの死因が基本的に他殺、だからだ。相手は主人公だったり、王国騎士だったり、他国の者だったり、魔物だったり……。
 弱ければどんなタイミングで殺されてしまうかわからない。レオナルドは自分に魔力がないとわかって以降、次期当主であり続けるためには他でおぎなわなければならないと考えて、勉学と剣術の鍛錬を必死にやっていた。これを続けていったらゲーム開始時点のようになれるのだろう。
 ただ……、と不安がよぎる。いくら剣術だけ強くなっても魔法も使ってくる相手には手が出ないのだ。この世界は基本剣士でも身体強化魔法や飛び道具の魔法を使ってくる。魔力がないというのはそれだけ大きなハンデだった。
 そんな不安が出てくると途端にいい案だと思ったことにもほころびがあるように感じてしまう。もしも、自分がどれだけ気をつけてもゲーム通りのイベントなどが確実に起こるものだったりしたら……?そんなことはない、と思いたいが―――。
「……少なくとも剣術の鍛錬を真剣に続けるのは確定だ。でも、正直剣術だけじゃ足りないよな……。もっと強くならないと。けど、剣術以外で強くなる方法なんて……」
 一つだけ。前世の記憶の中にその答えがあった。精霊の存在だ。自身に精霊を宿せば、レオナルドは格段に強くなれる。でもそれは自分がゲームのようになってしまうかもしれないということも意味している。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした

高坂ナツキ
ファンタジー
衝撃を受けた途端、俺は美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生していた!? これは、自分が制作にかかわっていた美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生した主人公が、報われないサブヒロインを救うために人生を賭ける話。 日常あり、恋愛あり、ダンジョンあり、戦闘あり、料理ありの何でもありの話となっています。

伯爵令息は後味の悪いハッピーエンドを回避したい

えながゆうき
ファンタジー
 停戦中の隣国の暗殺者に殺されそうになったフェルナンド・ガジェゴス伯爵令息は、目を覚ますと同時に、前世の記憶の一部を取り戻した。  どうやらこの世界は前世で妹がやっていた恋愛ゲームの世界であり、自分がその中の攻略対象であることを思い出したフェルナンド。  だがしかし、同時にフェルナンドがヒロインとハッピーエンドを迎えると、クーデターエンドを迎えることも思い出した。  もしクーデターが起これば、停戦中の隣国が再び侵攻してくることは間違いない。そうなれば、祖国は簡単に蹂躙されてしまうだろう。  後味の悪いハッピーエンドを回避するため、フェルナンドの戦いが今始まる!

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

【第2章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?

山咲莉亜
ファンタジー
 ある日、高校二年生だった桜井渚は魔法を扱うことができ、世界最強とされる精霊王に転生した。家族で海に遊びに行ったが遊んでいる最中に溺れた幼い弟を助け、代わりに自分が死んでしまったのだ。  だけど正直、俺は精霊王の立場に興味はない。精霊らしく、のんびり気楽に生きてみせるよ。  趣味の寝ることと読書だけをしてマイペースに生きるつもりだったナギサだが、優しく仲間思いな性格が災いして次々とトラブルに巻き込まれていく。果たしてナギサはそれらを乗り越えていくことができるのか。そして彼の行動原理とは……?  ロマンス、コメディ、シリアス───これは物語が進むにつれて露わになるナギサの闇やトラブルを共に乗り越えていく仲間達の物語。 ※HOT男性ランキング最高6位でした。ありがとうございました!

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

処理中です...