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第二章
闇の塊
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翌日。
レオナルドは空を飛び、ムージェスト王国の北側に広がる山岳地帯を目指していた。
そこにワイバーンがいるはずなのだ。この情報はもちろんゲーム知識から来ていて、主人公達が将来討伐に赴く可能性があるのだが、一体くらい大丈夫だろう、とレオナルドは考えている。
飛行中、レオナルドとステラは今回の件について会話していた。
『昨日は聞きそびれましたが、ワイバーンはいくらくらいになるのですか?』
「たぶんだけど、金貨二百枚はいくと思う。全部が素材になるから本当はもっといくはずだけど、肉とかは持って帰るのが面倒だから」
『それは相当強い相手なのでは?よく一体で足りるとか簡単に言いましたね。今のレオに倒せるのですか?』
「まあ強いのは間違いないけど、相手は空を飛んでるからさ。普通だと剣は届かなくて魔法でしか攻撃できないんだよ。しかも険しい岩山にいるから、行くのも大変だろ?だから稀少価値で値が高いんだ。でも俺達は違う」
『確かに。普通の人間にとって不利な条件が揃ってるんですね』
「そういうこと」
『しかし、それほど稀少なものなら、面倒がらず、そのまま担いで帰ればいいのでは?』
「そうかもしれないけど、それめちゃくちゃ目立つぞ?」
ワイバーン一体を王都の冒険者ギルドに運ぶ自分の姿を想像して、レオナルドはめちゃくちゃ嫌そうな顔をした。
『まあそうでしょうね。けれど、そのための変装じゃないですか』
「そう言われるとそうなんだけどさ……」
変装すればレオナルドだとバレないし、身体強化すれば運ぶのも容易いのは事実だった。
『まあそれはレオの判断に任せます。ですが、今更ですけど、当初レオが目標にしていた金貨百枚はもう少しで貯まりますよね?追加でそんな大金は必要ないと思うのですが?』
「それもその通りなんだけど、持ち金がゼロになるのは避けたいし、俺が思ってる金額が絶対って訳でもないだろ?多くあるのに越したことはないさ」
『……なるほど』
ステラは内心で思った。今レオナルドが必要だと思っているということは、この後、それが本当に必要になるのだろうな、と。
そうして、ステラと話しながらレオナルドはとうとう人の寄り付かない岩山上空に到着した。
「お~、三体も飛んでるな」
レオナルドは眼下に広がる光景を確認した。緑色の鱗に、大きな翼、太い尾に、鋭い牙をもつ飛竜。間違いなくワイバーンが三体、レオナルドよりも低い位置を飛んでいる。
『あれがワイバーンですか』
ステラもワイバーンの魔力を確認し、十分レオナルドが倒せる相手だと判断した。
「ああ。じゃあ、早速一体倒そうか」
すでに腰には黒刀を装備しており、準備は万端とレオナルドが意気込んだそのとき――――、
「っ!?」『レオ!気をつけてください!急速にこちらに向かってくる者がいます!』
レオナルドが身体を硬直させたのと、ステラの言葉はほとんど同時だった。
「……ああ、俺でも感知できた」
レオナルドが言いながら感知した方角を見やると、闇の塊、そう表現するしかないほど禍々しい魔力を全身から溢れさせているモノがレオナルド目掛けて一直線に高速で接近してきていた。
「ははっ、アレはマジでヤバいな……」
レオナルドの口から思わず乾いた笑いが漏れる。
これまでの経験でわかったことだが、レオナルドはセレナリーゼくらい膨大な魔力を持った者が、その制御が甘く溢れさせている場合に、感知できるみたいだった。ステラ曰く、これはレオナルドの霊力が膨大で、感じられる最低ラインが高すぎることが原因らしい。だから小さい魔力は感知できず、ステラ頼りになっている。
ただし、レオナルドの場合、視認しさえすれば、魔力が小さくても体から漏れ出る魔力を見ることができる。
つまり、レオナルドが感知できたということは、後十秒もすれば目の前に到着してしまいそうな闇の塊はそれほどの魔力を有しているということだ。
『あれは危険です。ここは退くべきです』
「それは同感だけど、逃がしてくれそうにないな」
闇の塊は先ほどからレオナルドに対して強烈な殺気を放っており、その目はレオナルドを完全に捉えている。それに相手のスピードは明らかにレオナルドよりも上だ。逃げようとしてもすぐに追いつかれてしまうだろう。
『……ならば戦うしかありませんね。レオ、白刀化と身体強化を!』
ステラの決断は早かった。素早くレオナルドに指示を出す。
(ああ!)
ステラの言葉に応えるように、レオナルドが黒鞘から黒刀を抜き構えると、黒鞘と黒刀、そしてレオナルドの金髪が、真っ白に変化する。全身からも真っ白な霊力を放っており、最初から全力全開で相対するつもりのようだ。
(一応伝えとく。あれはブラックワイバーン。ワイバーンの特殊個体で、ゲームでは終盤に登場するボス級の敵だ)
そう。近づくにつれその全貌が明らかになった相手の姿。全身を闇色の鱗に覆われた、通常のワイバーンよりも一回り大きいワイバーン。
『っ、それはまた倒しがいのある敵ですね』
ステラが不敵に言ってみせる。レオナルドの言葉が示しているのは、主人公達が最大級に強くなってから戦う相手ということだ。つまり、今の自分達に倒せるかは未知数、というより正直分が悪い。ブラックワイバーンはそれほどの強敵だった。
(本当にな!)
レオナルドもそれはわかっているのだろう。頬を冷や汗が伝っている。それでも、ステラの言葉に後押しされるかのように、レオナルドは刀を構えながら不敵な笑みを浮かべてみせた。
そして戦闘が始まった。
レオナルドは空を飛び、ムージェスト王国の北側に広がる山岳地帯を目指していた。
そこにワイバーンがいるはずなのだ。この情報はもちろんゲーム知識から来ていて、主人公達が将来討伐に赴く可能性があるのだが、一体くらい大丈夫だろう、とレオナルドは考えている。
飛行中、レオナルドとステラは今回の件について会話していた。
『昨日は聞きそびれましたが、ワイバーンはいくらくらいになるのですか?』
「たぶんだけど、金貨二百枚はいくと思う。全部が素材になるから本当はもっといくはずだけど、肉とかは持って帰るのが面倒だから」
『それは相当強い相手なのでは?よく一体で足りるとか簡単に言いましたね。今のレオに倒せるのですか?』
「まあ強いのは間違いないけど、相手は空を飛んでるからさ。普通だと剣は届かなくて魔法でしか攻撃できないんだよ。しかも険しい岩山にいるから、行くのも大変だろ?だから稀少価値で値が高いんだ。でも俺達は違う」
『確かに。普通の人間にとって不利な条件が揃ってるんですね』
「そういうこと」
『しかし、それほど稀少なものなら、面倒がらず、そのまま担いで帰ればいいのでは?』
「そうかもしれないけど、それめちゃくちゃ目立つぞ?」
ワイバーン一体を王都の冒険者ギルドに運ぶ自分の姿を想像して、レオナルドはめちゃくちゃ嫌そうな顔をした。
『まあそうでしょうね。けれど、そのための変装じゃないですか』
「そう言われるとそうなんだけどさ……」
変装すればレオナルドだとバレないし、身体強化すれば運ぶのも容易いのは事実だった。
『まあそれはレオの判断に任せます。ですが、今更ですけど、当初レオが目標にしていた金貨百枚はもう少しで貯まりますよね?追加でそんな大金は必要ないと思うのですが?』
「それもその通りなんだけど、持ち金がゼロになるのは避けたいし、俺が思ってる金額が絶対って訳でもないだろ?多くあるのに越したことはないさ」
『……なるほど』
ステラは内心で思った。今レオナルドが必要だと思っているということは、この後、それが本当に必要になるのだろうな、と。
そうして、ステラと話しながらレオナルドはとうとう人の寄り付かない岩山上空に到着した。
「お~、三体も飛んでるな」
レオナルドは眼下に広がる光景を確認した。緑色の鱗に、大きな翼、太い尾に、鋭い牙をもつ飛竜。間違いなくワイバーンが三体、レオナルドよりも低い位置を飛んでいる。
『あれがワイバーンですか』
ステラもワイバーンの魔力を確認し、十分レオナルドが倒せる相手だと判断した。
「ああ。じゃあ、早速一体倒そうか」
すでに腰には黒刀を装備しており、準備は万端とレオナルドが意気込んだそのとき――――、
「っ!?」『レオ!気をつけてください!急速にこちらに向かってくる者がいます!』
レオナルドが身体を硬直させたのと、ステラの言葉はほとんど同時だった。
「……ああ、俺でも感知できた」
レオナルドが言いながら感知した方角を見やると、闇の塊、そう表現するしかないほど禍々しい魔力を全身から溢れさせているモノがレオナルド目掛けて一直線に高速で接近してきていた。
「ははっ、アレはマジでヤバいな……」
レオナルドの口から思わず乾いた笑いが漏れる。
これまでの経験でわかったことだが、レオナルドはセレナリーゼくらい膨大な魔力を持った者が、その制御が甘く溢れさせている場合に、感知できるみたいだった。ステラ曰く、これはレオナルドの霊力が膨大で、感じられる最低ラインが高すぎることが原因らしい。だから小さい魔力は感知できず、ステラ頼りになっている。
ただし、レオナルドの場合、視認しさえすれば、魔力が小さくても体から漏れ出る魔力を見ることができる。
つまり、レオナルドが感知できたということは、後十秒もすれば目の前に到着してしまいそうな闇の塊はそれほどの魔力を有しているということだ。
『あれは危険です。ここは退くべきです』
「それは同感だけど、逃がしてくれそうにないな」
闇の塊は先ほどからレオナルドに対して強烈な殺気を放っており、その目はレオナルドを完全に捉えている。それに相手のスピードは明らかにレオナルドよりも上だ。逃げようとしてもすぐに追いつかれてしまうだろう。
『……ならば戦うしかありませんね。レオ、白刀化と身体強化を!』
ステラの決断は早かった。素早くレオナルドに指示を出す。
(ああ!)
ステラの言葉に応えるように、レオナルドが黒鞘から黒刀を抜き構えると、黒鞘と黒刀、そしてレオナルドの金髪が、真っ白に変化する。全身からも真っ白な霊力を放っており、最初から全力全開で相対するつもりのようだ。
(一応伝えとく。あれはブラックワイバーン。ワイバーンの特殊個体で、ゲームでは終盤に登場するボス級の敵だ)
そう。近づくにつれその全貌が明らかになった相手の姿。全身を闇色の鱗に覆われた、通常のワイバーンよりも一回り大きいワイバーン。
『っ、それはまた倒しがいのある敵ですね』
ステラが不敵に言ってみせる。レオナルドの言葉が示しているのは、主人公達が最大級に強くなってから戦う相手ということだ。つまり、今の自分達に倒せるかは未知数、というより正直分が悪い。ブラックワイバーンはそれほどの強敵だった。
(本当にな!)
レオナルドもそれはわかっているのだろう。頬を冷や汗が伝っている。それでも、ステラの言葉に後押しされるかのように、レオナルドは刀を構えながら不敵な笑みを浮かべてみせた。
そして戦闘が始まった。
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