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第二章
(幕間)ミレーネの誕生日②
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いつもの時間に魔法の特訓のため、ミレーネがレオナルドの部屋を訪れノックをすると、返事と同時に中から扉が開かれた。
「よく来てくれたね、ミレーネ」
「レオナルド様?」
レオナルドにわざわざ出迎えられたミレーネは小首を傾げる。
「ささ、こっちに座って?」
レオナルドはそんなミレーネの態度にも笑顔一つで、テーブルへと促す。
「え?あの……?」
そこにはティーセットと小さな木箱が置いてあった。
「そろそろだと思ったからさ、ちょうどさっき蒸らし始めたところなんだ。だからもう少しだけ待ってて」
「お茶でしたら私がお淹れ致します」
「いやいや、今日はミレーネがもてなされてよ。そのためにサバスに習ったんだからさ。っても、及第点ってくらいだからあんまり味には期待しないでもらえたら助かるけど」
レオナルドは今日の計画を思いついてから、サバスに頼み、お茶の淹れ方を一から習い、ぎりぎり合格点を貰えるまで頑張っていたのだ。
「?いったいどういう……っ!?」
一方、ミレーネの疑問は深まるばかりだったが、一つだけもしかして、とようやく思い至った。だが自信はない。
そうこうしているうちに蒸らし時間が終わり、レオナルドは、事前にお湯で温めておいたカップに紅茶を注ぐ。
「お待たせ、ミレーネ。さ、どうぞ。サバス以外では初めて飲んでもらうからちょっと緊張するけど、飲んでみてくれる?」
レオナルドに勧められたミレーネはお礼を言った後、紅茶を一口飲む。
「……美味しいです」
本心からの感想だった。レオナルドが自分のために習ってくれて、初めて淹れてくれたのだと知らされたからか、余計にそう思える。
「よかった」
お世辞だとしても微笑みながら美味しいと言ってもらえて、レオナルドはほっと安堵の息を吐く。そして自分も一口飲んでみたが、うん、間違いなくミレーネが淹れてくれた方が美味しい。
「まあ紅茶についてはよしとして、今日の本命はこっちでさ、一緒に食べようと思って」
レオナルドは言いながらテーブル上にある木箱の蓋を開ける。
中は二重構造になっており、外側には精霊術で作った氷が入っている。レオナルド手製の小さな簡易冷蔵庫といったところだろうか。
内側には白い箱があり、レオナルドはそれを取り出す。
ミレーネはその白い箱に施された紋章を見て目を見開く。
「レオナルド様そのお店は……!?」
それは最近王都で話題の洋菓子店を表す紋章だった。王室御用達になるのではないかという噂すらある大人気店だ。余程味に自信があるのか、店主の拘りか、貴族であっても優先権などはなく誰もが並ばなければ買うことができず、連日長蛇の列ができている。まあ貴族家で並ぶのは普通使用人だが。
「あ、わかった?一度食べてみたくてさ、今日並んできたんだ。ミレーネも食べたことないだろ?」
「は、はい。それはもちろん……」
食べてみたいと思ったことはあっても実際に並ぶ時間などないからだ。
レオナルドが白い箱を開けると中には二種類のケーキが入っていた。
「どっちがいい?ミレーネの好きな方を選んで」
「いえ、私は―――」
レオナルドの言葉に、ミレーネは反射的に自分が選ぶなんて畏れ多いと断ろうとしたが、
「いいから。どっちがいい?」
レオナルドに優しく遮られてしまったため、
「では、こちらを……」
申し訳なさそうに一つを選択した。
実際ミレーネは申し訳なく思っていた。ここのケーキを食べたいのは自分だけではないだろうと思うからだ。
それを察したのか、レオナルドが苦笑を浮かべながら言葉を続ける。
「安心して。一応家族分は別で買ってきたから。使用人の分はさすがに量が多すぎるから焼き菓子になっちゃったけどさ。あ、でもだから同僚の人達には内緒がいいかな?」
最後は悪戯っぽい笑みで言った。
「はい……」
レオナルドの言葉で気持ちが幾分軽くなったミレーネは口元を綻ばせて頷くのだった。
「あらためて、誕生日おめでとう!ミレーネ」
「っ、ありがとうございます」
やはり、レオナルドは自分の誕生日のためにここまでのことをしてくれたようだ。それが何と表現していいかわからないほど、とにかく嬉しかった。
「じゃあ、食べようか?」
「はい」
二人でケーキを食べ始める。
現在王都で話題なだけあってケーキは非常に美味しかった。こうして、二人は楽しいひと時を過ごすのだった。
ケーキを食べ終え、一息吐いたところで、レオナルドは以前買ったプレゼントをミレーネに差し出した。
恐縮するミレーネに対し、
「大した物じゃないから。これは普段使いにでもしてもらえたらと思って」
とレオナルドはミレーネに渡す。
受け取ったミレーネが丁寧に包装を開けると中には一枚の手巾があった。
青いバラとブルースターが刺繍され、粉末状のダイヤモンドが施されている。レオナルドが言うような普段使いなんて絶対にできないほど綺麗で、一目で高級とわかるほど見事な手巾だ。
(これ、は………!?)
ミレーネはそこに施された刺繍の花を見て、息を呑み固まってしまう。
「よく来てくれたね、ミレーネ」
「レオナルド様?」
レオナルドにわざわざ出迎えられたミレーネは小首を傾げる。
「ささ、こっちに座って?」
レオナルドはそんなミレーネの態度にも笑顔一つで、テーブルへと促す。
「え?あの……?」
そこにはティーセットと小さな木箱が置いてあった。
「そろそろだと思ったからさ、ちょうどさっき蒸らし始めたところなんだ。だからもう少しだけ待ってて」
「お茶でしたら私がお淹れ致します」
「いやいや、今日はミレーネがもてなされてよ。そのためにサバスに習ったんだからさ。っても、及第点ってくらいだからあんまり味には期待しないでもらえたら助かるけど」
レオナルドは今日の計画を思いついてから、サバスに頼み、お茶の淹れ方を一から習い、ぎりぎり合格点を貰えるまで頑張っていたのだ。
「?いったいどういう……っ!?」
一方、ミレーネの疑問は深まるばかりだったが、一つだけもしかして、とようやく思い至った。だが自信はない。
そうこうしているうちに蒸らし時間が終わり、レオナルドは、事前にお湯で温めておいたカップに紅茶を注ぐ。
「お待たせ、ミレーネ。さ、どうぞ。サバス以外では初めて飲んでもらうからちょっと緊張するけど、飲んでみてくれる?」
レオナルドに勧められたミレーネはお礼を言った後、紅茶を一口飲む。
「……美味しいです」
本心からの感想だった。レオナルドが自分のために習ってくれて、初めて淹れてくれたのだと知らされたからか、余計にそう思える。
「よかった」
お世辞だとしても微笑みながら美味しいと言ってもらえて、レオナルドはほっと安堵の息を吐く。そして自分も一口飲んでみたが、うん、間違いなくミレーネが淹れてくれた方が美味しい。
「まあ紅茶についてはよしとして、今日の本命はこっちでさ、一緒に食べようと思って」
レオナルドは言いながらテーブル上にある木箱の蓋を開ける。
中は二重構造になっており、外側には精霊術で作った氷が入っている。レオナルド手製の小さな簡易冷蔵庫といったところだろうか。
内側には白い箱があり、レオナルドはそれを取り出す。
ミレーネはその白い箱に施された紋章を見て目を見開く。
「レオナルド様そのお店は……!?」
それは最近王都で話題の洋菓子店を表す紋章だった。王室御用達になるのではないかという噂すらある大人気店だ。余程味に自信があるのか、店主の拘りか、貴族であっても優先権などはなく誰もが並ばなければ買うことができず、連日長蛇の列ができている。まあ貴族家で並ぶのは普通使用人だが。
「あ、わかった?一度食べてみたくてさ、今日並んできたんだ。ミレーネも食べたことないだろ?」
「は、はい。それはもちろん……」
食べてみたいと思ったことはあっても実際に並ぶ時間などないからだ。
レオナルドが白い箱を開けると中には二種類のケーキが入っていた。
「どっちがいい?ミレーネの好きな方を選んで」
「いえ、私は―――」
レオナルドの言葉に、ミレーネは反射的に自分が選ぶなんて畏れ多いと断ろうとしたが、
「いいから。どっちがいい?」
レオナルドに優しく遮られてしまったため、
「では、こちらを……」
申し訳なさそうに一つを選択した。
実際ミレーネは申し訳なく思っていた。ここのケーキを食べたいのは自分だけではないだろうと思うからだ。
それを察したのか、レオナルドが苦笑を浮かべながら言葉を続ける。
「安心して。一応家族分は別で買ってきたから。使用人の分はさすがに量が多すぎるから焼き菓子になっちゃったけどさ。あ、でもだから同僚の人達には内緒がいいかな?」
最後は悪戯っぽい笑みで言った。
「はい……」
レオナルドの言葉で気持ちが幾分軽くなったミレーネは口元を綻ばせて頷くのだった。
「あらためて、誕生日おめでとう!ミレーネ」
「っ、ありがとうございます」
やはり、レオナルドは自分の誕生日のためにここまでのことをしてくれたようだ。それが何と表現していいかわからないほど、とにかく嬉しかった。
「じゃあ、食べようか?」
「はい」
二人でケーキを食べ始める。
現在王都で話題なだけあってケーキは非常に美味しかった。こうして、二人は楽しいひと時を過ごすのだった。
ケーキを食べ終え、一息吐いたところで、レオナルドは以前買ったプレゼントをミレーネに差し出した。
恐縮するミレーネに対し、
「大した物じゃないから。これは普段使いにでもしてもらえたらと思って」
とレオナルドはミレーネに渡す。
受け取ったミレーネが丁寧に包装を開けると中には一枚の手巾があった。
青いバラとブルースターが刺繍され、粉末状のダイヤモンドが施されている。レオナルドが言うような普段使いなんて絶対にできないほど綺麗で、一目で高級とわかるほど見事な手巾だ。
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ミレーネはそこに施された刺繍の花を見て、息を呑み固まってしまう。
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