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第三章
アレクセイの状況
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ある日のこと。
「父さん、何か用?」
アレクセイは父であるスヴェイト男爵に執務室へと呼ばれた用件を尋ねた。
「呼び出して悪かったな。いやな、最近シャルロッテ殿下とはうまくやっているのかと思ってな」
スヴェイト男爵は何やら難しい顔をしてそんなことを言ってきた。
「?ああ、シャルとは仲良くやってるよ。そんなこと随分前から聞かなくなってたのにどうしたのいきなり?」
「まあそうなんだがな……。その、なんだ……。最近、例のトーヤという少年については話題に上がっているか?」
「いや?最近はシャルもトーヤのことは何も言わなくなってきたよ」
「そうか……。彼が王都を拠点としなくなって久しいからな。アレクのことをトーヤとは別人だと思っている様子か?」
「どうだろう?そうかもしれないし、内心では今も俺がトーヤだって思ってるのかもしれない。それはシャルにしかわからないよ」
「それもそうだな。……アレク、シャルロッテ殿下がお前に興味を示したのはトーヤという少年のことがきっかけだということはわかっているな?」
「っ、それはわかってるよ。だから嫌だったけど、父さんの言う通り言葉を濁してやんわり否定するにとどめてきたんだろ!?」
「それについては悪かったと思っている。あのときはそれが最善だと思っていたんだ。だが、おかげでお前はシャルロッテ殿下と仲を深めることができた。それも事実だろう?」
当時、トーヤの情報を先んじて得られたことは幸運だと思っていた。男爵家のような下級貴族が王族との繋がりを持てるなんていう稀有な機会を最大限活かしたかったのだ。王立学園でだって同級生に王族がいたとしても滅多にあることではない。だからアレクセイには嘘にならない程度で曖昧に答えるように指示した。
「わかってるよ、そんなこと!何が言いたいんだよ!?」
シャルロッテを騙しているという思いをずっと抱えていたアレクセイは思わず声が大きくなってしまった。
「いや……。そういえばクルームハイト公爵家の令嬢もよく一緒にお茶会をしているのだろう?彼女とはどうだ?」
だが、スヴェイト男爵はなぜか話題を変えた。
「……セレナとも仲良くやれてると思うよ。イリシェイム王子との揉め事のときには悪いことをしちゃったけど、セレナも水に流してくれたから」
先ほどから奥歯に物が挟まったように本当に言いたいことをぼかしているようにアレクセイは感じていたが、その少しばかりの苛立ちを抑え、訊かれたことには素直に答えていく。
「そうか。セレナリーゼ嬢ともうまくやっているか。ではそのイリシェイム第一王子殿下はどうだ?ゆっくり話したいと言われて一年以上が過ぎているが、お誘いはまだ来ていないだろう?王城でお会いすることはないのか?」
「確かにそう言われたけど、何もないよ。きっと王子も忙しいんじゃないかな。側近だった二人がいなくなっちゃった訳だし」
「なるほど……。確かにその件ではクルエール公爵家とブルタル伯爵家も苦労しているようだからな。だからこその圧力なのだろうが……」
最後、スヴェイト男爵は何とも悩ましげに呟いた。
「父さん、はっきり言ってくれよ。何か他に言いたいことがあるんだろう?」
「はぁ……、そうだな、回りくどいのはよくないな。ならば単刀直入に訊く。アレクはシャルロッテ殿下のことが好きか?」
「は、はぁ!?好きってそんな……!いきなり何言ってんだよ」
「大事なことなんだ。普通に考えれば男爵家のお前ではありえないことではあるが、話に聞くシャルロッテ殿下の態度を考えるとな。お前は結ばれたいと思っているか?正直に答えてくれ」
スヴェイト男爵は、アレクセイに付き添うメイドが見聞きして得た情報を思い出していた。
「……そりゃ、シャルのことは可愛いとは思うけど好きとかはまだ……」
「そうか……。ではセレナリーゼ嬢のことは?」
「…セレナのことも同じだよ」
「そうか……」
「本当にどうしたんだよ?なんでそんなこと聞くんだよ!?」
「……アレクには伝えておくが、そろそろ我が家―――というかお前の立場をはっきりさせねばならないのだ。お前の魔力が突出しているとわかったときからいずれこういう日が来るだろうとは思っていたんだ。それだけお前の力をどの陣営も求めている。ただ、私の予想ではもっと後、王立学園を卒業するくらいまでは大丈夫だと思っていたんだがな。大人になるまではお前の自由にさせてやれると。だが、トーヤという少年が現れたことをきっかけにしてお前はシャルロッテ殿下との仲を急速に深めていった。それがお前の立場をはっきりさせる時期を早めることになってしまったんだ」
「なんだよそれ……。なんでそんなことに!?」
「……先日、クルエール公爵から書簡が届いた。まあ内容は第一王子派につけという圧力だな。直接的ではなかったから、お前の年齢的にも、男爵という地位で見ても、まだそれほど重要視されている訳ではなさそうだが、打てる手はすべて打っているということなんだろう」
「そんな……」
「すべてを聞いた上でお前はどうしたい?私はお前の意思を尊重したいと思っている。どちらについたとしても相手は王族や大貴族だからな」
「俺は……。俺は、シャルを裏切りたくはない。セレナのことも。だからそんな圧力に屈するのは嫌だ」
悩ましそうなアレクセイだったが、自分の心情を正直に吐露した。
「わかった。ならばお前もその覚悟でいなさい。と言っても別に特別に何かをする必要はない。周囲から注目されたのが予想よりもちょっと早くなったというだけだ」
自分から重い雰囲気にしてしまった自覚もあれば、まだ子供と言っていいアレクセイにこんな話をしてしまって悪いという気持ちもあったスヴェイト男爵は努めて軽い調子で言った。
「うん、わかった。ありがとう、父さん」
そのおかげで、アレクセイも肩から力が抜けるのだった。
ゲームの開始時点では注目はされていてももっとフラットな立場だったアレクセイは、トーヤという変装したレオナルドの影響で、そして言葉は悪いが彼を利用したせいで、現時点でゲームのシャルロッテルートに近い立場になりつつあった。
ただしまだ出会っていないヒロインもいる。今後どうなっていくかはまだ誰にもわからない。
「父さん、何か用?」
アレクセイは父であるスヴェイト男爵に執務室へと呼ばれた用件を尋ねた。
「呼び出して悪かったな。いやな、最近シャルロッテ殿下とはうまくやっているのかと思ってな」
スヴェイト男爵は何やら難しい顔をしてそんなことを言ってきた。
「?ああ、シャルとは仲良くやってるよ。そんなこと随分前から聞かなくなってたのにどうしたのいきなり?」
「まあそうなんだがな……。その、なんだ……。最近、例のトーヤという少年については話題に上がっているか?」
「いや?最近はシャルもトーヤのことは何も言わなくなってきたよ」
「そうか……。彼が王都を拠点としなくなって久しいからな。アレクのことをトーヤとは別人だと思っている様子か?」
「どうだろう?そうかもしれないし、内心では今も俺がトーヤだって思ってるのかもしれない。それはシャルにしかわからないよ」
「それもそうだな。……アレク、シャルロッテ殿下がお前に興味を示したのはトーヤという少年のことがきっかけだということはわかっているな?」
「っ、それはわかってるよ。だから嫌だったけど、父さんの言う通り言葉を濁してやんわり否定するにとどめてきたんだろ!?」
「それについては悪かったと思っている。あのときはそれが最善だと思っていたんだ。だが、おかげでお前はシャルロッテ殿下と仲を深めることができた。それも事実だろう?」
当時、トーヤの情報を先んじて得られたことは幸運だと思っていた。男爵家のような下級貴族が王族との繋がりを持てるなんていう稀有な機会を最大限活かしたかったのだ。王立学園でだって同級生に王族がいたとしても滅多にあることではない。だからアレクセイには嘘にならない程度で曖昧に答えるように指示した。
「わかってるよ、そんなこと!何が言いたいんだよ!?」
シャルロッテを騙しているという思いをずっと抱えていたアレクセイは思わず声が大きくなってしまった。
「いや……。そういえばクルームハイト公爵家の令嬢もよく一緒にお茶会をしているのだろう?彼女とはどうだ?」
だが、スヴェイト男爵はなぜか話題を変えた。
「……セレナとも仲良くやれてると思うよ。イリシェイム王子との揉め事のときには悪いことをしちゃったけど、セレナも水に流してくれたから」
先ほどから奥歯に物が挟まったように本当に言いたいことをぼかしているようにアレクセイは感じていたが、その少しばかりの苛立ちを抑え、訊かれたことには素直に答えていく。
「そうか。セレナリーゼ嬢ともうまくやっているか。ではそのイリシェイム第一王子殿下はどうだ?ゆっくり話したいと言われて一年以上が過ぎているが、お誘いはまだ来ていないだろう?王城でお会いすることはないのか?」
「確かにそう言われたけど、何もないよ。きっと王子も忙しいんじゃないかな。側近だった二人がいなくなっちゃった訳だし」
「なるほど……。確かにその件ではクルエール公爵家とブルタル伯爵家も苦労しているようだからな。だからこその圧力なのだろうが……」
最後、スヴェイト男爵は何とも悩ましげに呟いた。
「父さん、はっきり言ってくれよ。何か他に言いたいことがあるんだろう?」
「はぁ……、そうだな、回りくどいのはよくないな。ならば単刀直入に訊く。アレクはシャルロッテ殿下のことが好きか?」
「は、はぁ!?好きってそんな……!いきなり何言ってんだよ」
「大事なことなんだ。普通に考えれば男爵家のお前ではありえないことではあるが、話に聞くシャルロッテ殿下の態度を考えるとな。お前は結ばれたいと思っているか?正直に答えてくれ」
スヴェイト男爵は、アレクセイに付き添うメイドが見聞きして得た情報を思い出していた。
「……そりゃ、シャルのことは可愛いとは思うけど好きとかはまだ……」
「そうか……。ではセレナリーゼ嬢のことは?」
「…セレナのことも同じだよ」
「そうか……」
「本当にどうしたんだよ?なんでそんなこと聞くんだよ!?」
「……アレクには伝えておくが、そろそろ我が家―――というかお前の立場をはっきりさせねばならないのだ。お前の魔力が突出しているとわかったときからいずれこういう日が来るだろうとは思っていたんだ。それだけお前の力をどの陣営も求めている。ただ、私の予想ではもっと後、王立学園を卒業するくらいまでは大丈夫だと思っていたんだがな。大人になるまではお前の自由にさせてやれると。だが、トーヤという少年が現れたことをきっかけにしてお前はシャルロッテ殿下との仲を急速に深めていった。それがお前の立場をはっきりさせる時期を早めることになってしまったんだ」
「なんだよそれ……。なんでそんなことに!?」
「……先日、クルエール公爵から書簡が届いた。まあ内容は第一王子派につけという圧力だな。直接的ではなかったから、お前の年齢的にも、男爵という地位で見ても、まだそれほど重要視されている訳ではなさそうだが、打てる手はすべて打っているということなんだろう」
「そんな……」
「すべてを聞いた上でお前はどうしたい?私はお前の意思を尊重したいと思っている。どちらについたとしても相手は王族や大貴族だからな」
「俺は……。俺は、シャルを裏切りたくはない。セレナのことも。だからそんな圧力に屈するのは嫌だ」
悩ましそうなアレクセイだったが、自分の心情を正直に吐露した。
「わかった。ならばお前もその覚悟でいなさい。と言っても別に特別に何かをする必要はない。周囲から注目されたのが予想よりもちょっと早くなったというだけだ」
自分から重い雰囲気にしてしまった自覚もあれば、まだ子供と言っていいアレクセイにこんな話をしてしまって悪いという気持ちもあったスヴェイト男爵は努めて軽い調子で言った。
「うん、わかった。ありがとう、父さん」
そのおかげで、アレクセイも肩から力が抜けるのだった。
ゲームの開始時点では注目はされていてももっとフラットな立場だったアレクセイは、トーヤという変装したレオナルドの影響で、そして言葉は悪いが彼を利用したせいで、現時点でゲームのシャルロッテルートに近い立場になりつつあった。
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