死亡エンドしかない悪役令息に転生してしまったみたいだが、全力で死亡フラグを回避する!

柚希乃愁

文字の大きさ
87 / 119
第三章

アレクセイの状況

しおりを挟む
 ある日のこと。
「父さん、何か用?」
 アレクセイは父であるスヴェイト男爵に執務室へと呼ばれた用件をたずねた。
「呼び出して悪かったな。いやな、最近シャルロッテ殿下とはうまくやっているのかと思ってな」
 スヴェイト男爵は何やらむずかしい顔をしてそんなことを言ってきた。
「?ああ、シャルとは仲良くやってるよ。そんなこと随分ずいぶん前から聞かなくなってたのにどうしたのいきなり?」
「まあそうなんだがな……。その、なんだ……。最近、例のトーヤという少年については話題に上がっているか?」
「いや?最近はシャルもトーヤのことは何も言わなくなってきたよ」
「そうか……。彼が王都を拠点としなくなって久しいからな。アレクのことをトーヤとは別人だと思っている様子か?」
「どうだろう?そうかもしれないし、内心では今も俺がトーヤだって思ってるのかもしれない。それはシャルにしかわからないよ」

「それもそうだな。……アレク、シャルロッテ殿下がお前に興味を示したのはトーヤという少年のことがきっかけだということはわかっているな?」
「っ、それはわかってるよ。だから嫌だったけど、言葉をにごしてやんわり否定するにとどめてきたんだろ!?」
「それについては悪かったと思っている。あのときはそれが最善だと思っていたんだ。だが、おかげでお前はシャルロッテ殿下と仲を深めることができた。それも事実だろう?」
 当時、トーヤの情報を先んじて得られたことは幸運だと思っていた。男爵家のような下級貴族が王族とのつながりを持てるなんていう稀有けうな機会を最大限かしたかったのだ。王立学園でだって同級生に王族がいたとしても滅多めったにあることではない。だからアレクセイにはうそにならない程度で曖昧あいまいに答えるように指示した。
「わかってるよ、そんなこと!何が言いたいんだよ!?」
 シャルロッテをだましているという思いをずっとかかえていたアレクセイは思わず声が大きくなってしまった。

「いや……。そういえばクルームハイト公爵家の令嬢もよく一緒にお茶会をしているのだろう?彼女とはどうだ?」
 だが、スヴェイト男爵はなぜか話題を変えた。
「……セレナとも仲良くやれてると思うよ。イリシェイム王子とのめ事のときには悪いことをしちゃったけど、セレナも水に流してくれたから」
 先ほどから奥歯に物がはさまったように本当に言いたいことをぼかしているようにアレクセイは感じていたが、その少しばかりの苛立いらだちをおさえ、かれたことには素直に答えていく。
「そうか。セレナリーゼ嬢ともうまくやっているか。ではそのイリシェイム第一王子殿下はどうだ?ゆっくり話したいと言われて一年以上が過ぎているが、おさそいはまだ来ていないだろう?王城でお会いすることはないのか?」
「確かにそう言われたけど、何もないよ。きっと王子も忙しいんじゃないかな。側近だった二人がいなくなっちゃった訳だし」
「なるほど……。確かにその件ではクルエール公爵家とブルタル伯爵家も苦労しているようだからな。だからこその圧力なのだろうが……」
 最後、スヴェイト男爵は何とも悩ましげにつぶやいた。

「父さん、はっきり言ってくれよ。何か他に言いたいことがあるんだろう?」
「はぁ……、そうだな、回りくどいのはよくないな。ならば単刀直入に訊く。アレクはシャルロッテ殿下のことが好きか?」
「は、はぁ!?好きってそんな……!いきなり何言ってんだよ」
「大事なことなんだ。普通に考えれば男爵家のお前ではありえないことではあるが、話に聞くシャルロッテ殿下の態度を考えるとな。お前は結ばれたいと思っているか?正直に答えてくれ」
 スヴェイト男爵は、アレクセイに付き添うメイドが見聞きして得た情報を思い出していた。
「……そりゃ、シャルのことは可愛かわいいとは思うけど好きとかはまだ……」
「そうか……。ではセレナリーゼ嬢のことは?」
「…セレナのことも同じだよ」
「そうか……」

「本当にどうしたんだよ?なんでそんなこと聞くんだよ!?」
「……アレクには伝えておくが、そろそろ我が家―――というかお前の立場をはっきりさせねばならないのだ。お前の魔力が突出しているとわかったときからいずれこういう日が来るだろうとは思っていたんだ。それだけお前の力をどの陣営も求めている。ただ、私の予想ではもっと後、王立学園を卒業するくらいまでは大丈夫だと思っていたんだがな。大人になるまではお前の自由にさせてやれると。だが、トーヤという少年が現れたことをきっかけにしてお前はシャルロッテ殿下との仲を急速に深めていった。それがお前の立場をはっきりさせる時期を早めることになってしまったんだ」
「なんだよそれ……。なんでそんなことに!?」
「……先日、クルエール公爵から書簡しょかんが届いた。まあ内容は第一王子派につけという圧力だな。直接的ではなかったから、お前の年齢的にも、男爵という地位で見ても、まだそれほど重要視されている訳ではなさそうだが、打てる手はすべて打っているということなんだろう」
「そんな……」
「すべてを聞いた上でお前はどうしたい?私はお前の意思を尊重そんちょうしたいと思っている。どちらについたとしても相手は王族や大貴族だからな」
「俺は……。俺は、シャルを裏切りたくはない。セレナのことも。だからそんな圧力に屈するのは嫌だ」
 悩ましそうなアレクセイだったが、自分の心情を正直に吐露とろした。
「わかった。ならばお前もその覚悟でいなさい。と言っても別に特別に何かをする必要はない。周囲から注目されたのが予想よりもちょっと早くなったというだけだ」
 自分から重い雰囲気にしてしまった自覚もあれば、まだ子供と言っていいアレクセイにこんな話をしてしまって悪いという気持ちもあったスヴェイト男爵はつとめて軽い調子で言った。
「うん、わかった。ありがとう、父さん」
 そのおかげで、アレクセイも肩から力が抜けるのだった。

 ゲームの開始時点では注目はされていてももっとフラットな立場だったアレクセイは、トーヤという変装したレオナルドの影響で、そして言葉は悪いが彼を利用したせいで、現時点でゲームのシャルロッテルートに近い立場になりつつあった。
 ただしまだ出会っていないヒロインもいる。今後どうなっていくかはまだ誰にもわからない。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした

高坂ナツキ
ファンタジー
衝撃を受けた途端、俺は美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生していた!? これは、自分が制作にかかわっていた美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生した主人公が、報われないサブヒロインを救うために人生を賭ける話。 日常あり、恋愛あり、ダンジョンあり、戦闘あり、料理ありの何でもありの話となっています。

伯爵令息は後味の悪いハッピーエンドを回避したい

えながゆうき
ファンタジー
 停戦中の隣国の暗殺者に殺されそうになったフェルナンド・ガジェゴス伯爵令息は、目を覚ますと同時に、前世の記憶の一部を取り戻した。  どうやらこの世界は前世で妹がやっていた恋愛ゲームの世界であり、自分がその中の攻略対象であることを思い出したフェルナンド。  だがしかし、同時にフェルナンドがヒロインとハッピーエンドを迎えると、クーデターエンドを迎えることも思い出した。  もしクーデターが起これば、停戦中の隣国が再び侵攻してくることは間違いない。そうなれば、祖国は簡単に蹂躙されてしまうだろう。  後味の悪いハッピーエンドを回避するため、フェルナンドの戦いが今始まる!

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

処理中です...