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第三章
秘密の共有
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「……それで、騎士の方々はすぐに目覚めるのですか?」
フレイの笑顔が印象的で、少しだけ間がありつつも、レオナルドは話を進めた。
「いえ……、傷は癒えましたが、今しばらくは休息が必要ですわ」
フレイが眉尻を下げながら騎士達の状態を伝える。
「そうですか……。では、とりあえず騎士の方々を馬車に乗せてあげますか?いつまでも地面に倒れたままなのはかわいそうですから。問題なければ俺が運びますけど?」
そんな提案をされるとは思っていなかったのか、フレイが目を見開くが、それも一瞬こと、
「…ありがとうございます。レオナルド様はお優しいのですね」
すぐにレオナルドを見つめながら微笑んだ。
「そんなんじゃないですよ、俺は」
レオナルドが苦笑しながら否定する。今だって本当はすぐにでもこの場を離れたい。でもそれができないから付き合っているだけだ。少なくともレオナルドの中ではそれが真実だった。
『ええ、レオの場合は甘いというのが適切ですね』
そこに、ステラからのツッコミが入る。
(うっせ)
ステラに一言で返し、レオナルドは騎士達を運んだ。フレイも手伝うと言ったのだが、一人で運べるためそれは丁重に断った。
馬車の室内は前後対面座席で前三名、後ろ三名が座れるベンチシートになっている。三人を寝かせるにはちょっと狭いため、とりあえず、全員馬車の側面にもたれさせる形で、女性騎士を前側に、男性騎士二人を後ろ側に座らせた。
「ありがとうございます、レオナルド様」
「いえ……、それよりこの後はどうしますか?言いにくいですが、賊はフレイさんを狙っていたようです。拘束して尋問をされますか?それともこの場で処刑、でしょうか?」
「馬車の中にも声は聞こえていましたので、私が狙われていたことはわかっています。ですが、無用な殺生は私の望むところではありませんわ」
「では尋問を?」
重ねて問うレオナルドに、フレイは首を横に振った。
「……いいえ、その必要もありませんわ。どのようなことがわかったとしても、今の私にはどうすることもできませんし、私がすることに変わりはありませんから」
「そう、ですか」
言いながら儚げな微笑みを浮かべるフレイに、レオナルドはそれだけしか言えなかった。
ただ、賊達が話すかどうかは別にして、相手の正体や動機などがわかれば色々と対処できそうな気がするが、そうではないのだろうか。それともすでに何らかの情報を掴んでいるのか。そんな疑問が過ったが、レオナルドにわかるはずもなかった。
「それに折角レオナルド様がこの方達を殺すことなく無力化してくださったのですから、できればこのまま平穏にこの場を収めたいのです」
ふんわりとした柔らかな笑みを浮かべ、そう付け加えるフレイ。
「いや…まあ……」
状況的にバレているのはわかっていても、いざ言及されるとレオナルドは思わずバツの悪そうな顔になってしまう。ゲーム通りフレイが学園に来れば、レオナルドが魔力なしだということもすぐに知ることになる。そうなると例え奇襲だったとしても教会騎士を三人も倒した賊達を無力化した今回の件との整合性が取れないのだ。
すると、レオナルドの表情を見てとったフレイが小さく声に出して笑った。
「ふふっ、安心してください。何か事情がおありのようですし、私もレオナルド様のことを誰にも話さないとお約束致しますわ」
「っ!?……そうしてもらえると助かります」
レオナルドは一瞬驚いたが、何とかすぐに気を取り直した。
「もちろんですわ。ふふっ、秘密の共有ですわね」
「そうですね……」
参ったなとでも言うようにレオナルドは後頭部に手をやった。
そんな穏やか?なやりとりも束の間、
「……それでも、この方達が目を覚まされたらまた争いになってしまうでしょう。騎士の方達が起きてもそれは同じです。なので、できるだけ早くここを離れられたらと思っているのですが……」
フレイが悲しみを湛えながら自身の考えを伝えた。
「そう言えば、どこに向かっていたんですか?」
「王都オルスですわ」
「なるほど……」
自分と目的地が同じだとわかり、レオナルドはこの後どうするかと考えに沈むが、黙ってしまった自分をフレイが不思議そうに見つめていることに気づき、覚悟を決めた。
「……すみません。俺も同じくオルスに向かっているところだったので。もしフレイさんさえよかったらオルスまで俺が馬車を走らせましょうか?」
レオナルドが考えていたのはこれだった。ここまで関わってしまったのだ。最後まで付き合うことに決めた。ステラは呆れていたのだが、レオナルドがこういう人間だとわかっているので何も言いはしなかった。
「まあ、よろしいのですか?」
「もちろん。このまま放っておくってのはさすがに気が引けるので」
「ありがとうございます、レオナルド様。お言葉に甘えて、ぜひよろしくお願い致しますわ」
(本当にお優しい方……)
先ほど否定されてしまったので、声には出さなかったが、フレイはあらためてそう思った。
今後の方針が決まり、フレイの希望通り賊達については拘束せず、この辺りなら魔物の脅威もないため、街道脇に寝かせた。そのうち彼らも目を覚ますだろう。
こうしてレオナルドはフレイとともにオルスへ向かうこととなった。
フレイの笑顔が印象的で、少しだけ間がありつつも、レオナルドは話を進めた。
「いえ……、傷は癒えましたが、今しばらくは休息が必要ですわ」
フレイが眉尻を下げながら騎士達の状態を伝える。
「そうですか……。では、とりあえず騎士の方々を馬車に乗せてあげますか?いつまでも地面に倒れたままなのはかわいそうですから。問題なければ俺が運びますけど?」
そんな提案をされるとは思っていなかったのか、フレイが目を見開くが、それも一瞬こと、
「…ありがとうございます。レオナルド様はお優しいのですね」
すぐにレオナルドを見つめながら微笑んだ。
「そんなんじゃないですよ、俺は」
レオナルドが苦笑しながら否定する。今だって本当はすぐにでもこの場を離れたい。でもそれができないから付き合っているだけだ。少なくともレオナルドの中ではそれが真実だった。
『ええ、レオの場合は甘いというのが適切ですね』
そこに、ステラからのツッコミが入る。
(うっせ)
ステラに一言で返し、レオナルドは騎士達を運んだ。フレイも手伝うと言ったのだが、一人で運べるためそれは丁重に断った。
馬車の室内は前後対面座席で前三名、後ろ三名が座れるベンチシートになっている。三人を寝かせるにはちょっと狭いため、とりあえず、全員馬車の側面にもたれさせる形で、女性騎士を前側に、男性騎士二人を後ろ側に座らせた。
「ありがとうございます、レオナルド様」
「いえ……、それよりこの後はどうしますか?言いにくいですが、賊はフレイさんを狙っていたようです。拘束して尋問をされますか?それともこの場で処刑、でしょうか?」
「馬車の中にも声は聞こえていましたので、私が狙われていたことはわかっています。ですが、無用な殺生は私の望むところではありませんわ」
「では尋問を?」
重ねて問うレオナルドに、フレイは首を横に振った。
「……いいえ、その必要もありませんわ。どのようなことがわかったとしても、今の私にはどうすることもできませんし、私がすることに変わりはありませんから」
「そう、ですか」
言いながら儚げな微笑みを浮かべるフレイに、レオナルドはそれだけしか言えなかった。
ただ、賊達が話すかどうかは別にして、相手の正体や動機などがわかれば色々と対処できそうな気がするが、そうではないのだろうか。それともすでに何らかの情報を掴んでいるのか。そんな疑問が過ったが、レオナルドにわかるはずもなかった。
「それに折角レオナルド様がこの方達を殺すことなく無力化してくださったのですから、できればこのまま平穏にこの場を収めたいのです」
ふんわりとした柔らかな笑みを浮かべ、そう付け加えるフレイ。
「いや…まあ……」
状況的にバレているのはわかっていても、いざ言及されるとレオナルドは思わずバツの悪そうな顔になってしまう。ゲーム通りフレイが学園に来れば、レオナルドが魔力なしだということもすぐに知ることになる。そうなると例え奇襲だったとしても教会騎士を三人も倒した賊達を無力化した今回の件との整合性が取れないのだ。
すると、レオナルドの表情を見てとったフレイが小さく声に出して笑った。
「ふふっ、安心してください。何か事情がおありのようですし、私もレオナルド様のことを誰にも話さないとお約束致しますわ」
「っ!?……そうしてもらえると助かります」
レオナルドは一瞬驚いたが、何とかすぐに気を取り直した。
「もちろんですわ。ふふっ、秘密の共有ですわね」
「そうですね……」
参ったなとでも言うようにレオナルドは後頭部に手をやった。
そんな穏やか?なやりとりも束の間、
「……それでも、この方達が目を覚まされたらまた争いになってしまうでしょう。騎士の方達が起きてもそれは同じです。なので、できるだけ早くここを離れられたらと思っているのですが……」
フレイが悲しみを湛えながら自身の考えを伝えた。
「そう言えば、どこに向かっていたんですか?」
「王都オルスですわ」
「なるほど……」
自分と目的地が同じだとわかり、レオナルドはこの後どうするかと考えに沈むが、黙ってしまった自分をフレイが不思議そうに見つめていることに気づき、覚悟を決めた。
「……すみません。俺も同じくオルスに向かっているところだったので。もしフレイさんさえよかったらオルスまで俺が馬車を走らせましょうか?」
レオナルドが考えていたのはこれだった。ここまで関わってしまったのだ。最後まで付き合うことに決めた。ステラは呆れていたのだが、レオナルドがこういう人間だとわかっているので何も言いはしなかった。
「まあ、よろしいのですか?」
「もちろん。このまま放っておくってのはさすがに気が引けるので」
「ありがとうございます、レオナルド様。お言葉に甘えて、ぜひよろしくお願い致しますわ」
(本当にお優しい方……)
先ほど否定されてしまったので、声には出さなかったが、フレイはあらためてそう思った。
今後の方針が決まり、フレイの希望通り賊達については拘束せず、この辺りなら魔物の脅威もないため、街道脇に寝かせた。そのうち彼らも目を覚ますだろう。
こうしてレオナルドはフレイとともにオルスへ向かうこととなった。
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