死亡エンドしかない悪役令息に転生してしまったみたいだが、全力で死亡フラグを回避する!

柚希乃愁

文字の大きさ
93 / 119
第三章

神星騎士と星騎士

しおりを挟む
 レオナルド達が出発の準備をしていた頃。場所は変わり、ここはレオナルド達の目的地であるオルミナス王国の王都オルス。
 そこに建てられている教会内は現在緊張感に包まれていた。その理由の大部分を占める人物がその中を歩いている。
 その名は、ルヴァン=シュデッタ。仮面で顔の上半分がおおわれており素顔は見えないが、その下からは白銀の髪がのぞいている。
 そして、希少金属であるミスリルで作られた彼の髪色にも似た白銀の鎧を着ていた。
 その鎧のエンブレムは十字架に両翼、そこに重なるようにして七芒星ぼうせいが描かれており、七つの頂点のうち、一番上の頂点から右回りに三つ目の頂点がかがやいているというデザインだ。

 これは彼が星杯騎士団グラールナイツ、その中でも七人しかいない神星しんせい騎士であることを示していた。そして輝く頂点の位置から彼が『第三星』であることがわかる。

 星杯騎士団グラールナイツとは、教会という組織に所属する教会騎士とは違い、教皇直属の騎士団である。彼らはせい騎士と呼ばれる、その実力を認められた選ばれし騎士達である。
 そして、星杯騎士団グラールナイツの中でも、だと言われているのが、七人の神星騎士だ。教会が世界にほこる最高戦力である。
 神星騎士には枢機卿すうききょうと同等かそれ以上とも言える程の権限が与えられており、自身の裁量さいりょうで自由に行動できる上、星騎士への命令権も有している。ただ実際は一騎当千の突出した力を持つため、単独行動することが多い。
 そんな神星騎士に命令できるのは、教皇と神星騎士の『第一星』だけだ。

 神星騎士の立場がいかに最上位であるかがわかるだろう。そのため、教会内の人間達は普通ならお目にかかることなどまずないルヴァンに対する畏怖いふと尊敬から緊張しているのだ。

 ルヴァンはそんな空気を一切いっさい気にした様子もなく、とある部屋に入っていった。

「お疲れ様です、ルヴァン様。お戻りになられたのですね。いかがでしたか、周辺の状況は?」
 室内にいた真紅の騎士服を着た若葉色の髪の青年がむかえる。エンブレムには七芒星があるが、頂点は輝いていない。彼は星騎士ということだ。

「ああ、穏やかなものだった。人間のしぶとさを感じたよ」
 どうやらルヴァンは、一人でオルス周辺の町や村を見て回り、たった今戻ってきたようだ。
「そうですか。教会としてもオルミナス王国には随分ずいぶん尽力じんりょくしてますし、順調に復興しているようで何よりですね」
「ああ、そうだな。しかし、すまなかったな、ジークハルト。こんな機会でもなければ町や村の様子をただ見て回るなどできなかったこととはいえ、結果としてきみには一人でここにとどまってもらうことになってしまって」
「いえ!ルヴァン様に謝っていただくようなことではありません。いつ聖女様が到着されるかわからないのですからこれは私の役目です」
 青年、ジークハルト=レスセイムが真面目まじめな顔で答える。彼は、十五歳という若さで、最年少星騎士となった。申し分ない実力は確かにあるのだが、星騎士に抜擢ばってきされたのには彼の出自しゅつじが大きく関係していることは間違いないだろう。

「おいおい、フレイじょうは確かに聖女だが、きみ達は年も同じでおさない頃から知らない仲ではないのだろう?それに、今は婚約するかもしれない間柄あいだがらだ。聖女様なんて他人行儀ぎょうぎな呼び方をすることはないと思うがね」
「それとこれとは関係ありません。今は任務中ですから」
「真面目だな、きみは。だが、このオルスでという今回の任務が我々に与えられたのは、間違いなくきみのお父上である教皇聖下がきみ達二人のことをおもんばかってのことだぞ?」
 そう、ジークハルトは現教皇の息子なのだ。彼がいることも教会内の緊張を高めていた。
「それは……。本当にすみません……。ルヴァン様にご迷惑をおかけしてしまい……」
 ジークハルトは心底申し訳なさそうに頭を下げた。本来なら慰問いもん先での聖女の出迎えなんていう任務が星杯騎士団グラールナイツに、それも神星騎士にくだされるなんてありえないことをジークハルト自身よく理解しているからこその言葉だった。自分達の婚約話が出ていることも政治的な意味合いが強いことを理解している。これに対し、ルミナスト枢機卿が正式な回答を避けているのが現状で、教皇の命令で仕方がないとはいえ、ルヴァンは本当にただ自分達に付き合わされているだけなのだ。それがジークハルトには心苦しかった。

 一方、謝られてしまったルヴァンは苦笑をらした。
「そういうつもりではなかったのだがな……。これは聖下からの命令だ。ジークハルトが気にすることではないさ。いや、そもそも私が余計なことを言ってしまったせいだな。忘れてくれたまえ。それよりもフレイ嬢はまだ到着していないのか?」
「はい、遅れているようです。予定ではもう着いてもいい頃ではあるのですが……」
「ふむ……。少々心配だな」
 ルヴァンはあごに手をやりながら真剣な声でつぶやいた。
「心配、ですか?聖女様一行はオルミナス王国内をただ慰問して回っているだけですが……?護衛もいて、経路である街道は整備されているので十分安全ですし、危険などはないかと思うのですが……」
 ジークハルトは心配なんてする必要がない、と言いたいようだ。それをルヴァンはしっかりと理解した。
「あまり冷たいことを言ってやるな。それに、護衛がいるということが逆に心配の種になっているのだよ。フレイ嬢には教会騎士が三人もついているにもかかわらず予定よりも遅れているという事実をもう少し重く受け止めるべきだろう」
「はい……」
 ルヴァンにたしなめられてもジークハルトはあまり納得していなかった。教会騎士にとっても聖女は特別な存在のため、彼女の護衛という任務は彼らにとってほまれと言っても過言ではない。そんな彼らが聖女に対し必要以上に気をつかうだろうことは十分に考えられるため、単純に休憩きゅうけいを多く取ったりしてゆっくり進んでいるだけだろうとしか思えなかった。

「フッ、ではこうしようか。さっきは私一人で行動させてもらったからな。今度は私がここで待っているからジークハルトも気晴きばらしをねた遠乗りのつもりで、今から聖女一行の元に向かってくれないか?経路はわかっていることだしな。こちらから迎えに行くというのも今回の任務の性質に合ったものだろう」
 ルヴァンはジークハルトの気持ちもんで、そんな提案をした。
「はっ!では、すぐに出発致します」
 星騎士といっても、基本単独行動の神星騎士と関わることはほとんどないが、神星騎士達は少々難しい性格をしているといううわさをジークハルトも聞いたことがある。だが、ルヴァンだけは星騎士の面倒見がよく、時々稽古けいこをつけてくれたりもする。ルヴァンは非常に温厚かつ理知的で、部下である星騎士に対しても常に物腰が柔らかく、その上で実力は折り紙つきときている。だからだろう、星騎士からの信頼が厚く、ジークハルトもその例にれずルヴァンのことを尊敬していた。
 そんなルヴァンの言葉を命令と受け取ったジークハルトは右手のこぶしを左胸に当てる正式な礼をして返事をし、すぐに命令遂行すいこうのため出て行こうとした。
 そこに、ルヴァンが待ったをかける。
「ジークハルト、そのままの格好で行くつもりかね?」
 ジークハルトが室内にある鎧を置いたまま剣だけを手に取ったからだ。
「はい、これだけで十分です。それでは行ってまいります!」
 ジークハルトは言いながら手に持った剣を軽く上げると、今度こそ出て行った。ルヴァンの言わんとすることはわかったが、鎧なんて不要だというのがジークハルトの考えだ。

 その後、一人になった室内で、
「……ジークハルト、無知は罪だぞ?それも若さゆえということか…いや、人とは元来がんらいそういうものか。甘い考えではことになる。この世において安全などというものは幻想げんそうに過ぎないのだ。危険とは予期せぬもので、常に身近にあるものなのだよ……」
 仮面に隠れて表情のわからないルヴァンは静かにそう呟いた。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした

高坂ナツキ
ファンタジー
衝撃を受けた途端、俺は美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生していた!? これは、自分が制作にかかわっていた美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生した主人公が、報われないサブヒロインを救うために人生を賭ける話。 日常あり、恋愛あり、ダンジョンあり、戦闘あり、料理ありの何でもありの話となっています。

伯爵令息は後味の悪いハッピーエンドを回避したい

えながゆうき
ファンタジー
 停戦中の隣国の暗殺者に殺されそうになったフェルナンド・ガジェゴス伯爵令息は、目を覚ますと同時に、前世の記憶の一部を取り戻した。  どうやらこの世界は前世で妹がやっていた恋愛ゲームの世界であり、自分がその中の攻略対象であることを思い出したフェルナンド。  だがしかし、同時にフェルナンドがヒロインとハッピーエンドを迎えると、クーデターエンドを迎えることも思い出した。  もしクーデターが起これば、停戦中の隣国が再び侵攻してくることは間違いない。そうなれば、祖国は簡単に蹂躙されてしまうだろう。  後味の悪いハッピーエンドを回避するため、フェルナンドの戦いが今始まる!

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

処理中です...