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第三章
神星騎士と星騎士
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レオナルド達が出発の準備をしていた頃。場所は変わり、ここはレオナルド達の目的地であるオルミナス王国の王都オルス。
そこに建てられている教会内は現在緊張感に包まれていた。その理由の大部分を占める人物がその中を歩いている。
その名は、ルヴァン=シュデッタ。仮面で顔の上半分が覆われており素顔は見えないが、その下からは白銀の髪が覗いている。
そして、希少金属であるミスリルで作られた彼の髪色にも似た白銀の鎧を着ていた。
その鎧のエンブレムは十字架に両翼、そこに重なるようにして七芒星が描かれており、七つの頂点のうち、一番上の頂点から右回りに三つ目の頂点が輝いているというデザインだ。
これは彼が星杯騎士団、その中でも七人しかいない神星騎士であることを示していた。そして輝く頂点の位置から彼が『第三星』であることがわかる。
星杯騎士団とは、教会という組織に所属する教会騎士とは違い、教皇直属の騎士団である。彼らは星騎士と呼ばれる、その実力を認められた選ばれし騎士達である。
そして、星杯騎士団の中でも、神から力を与えられた特別な存在だと言われているのが、七人の神星騎士だ。教会が世界に誇る最高戦力である。
神星騎士には枢機卿と同等かそれ以上とも言える程の権限が与えられており、自身の裁量で自由に行動できる上、星騎士への命令権も有している。ただ実際は一騎当千の突出した力を持つため、単独行動することが多い。
そんな神星騎士に命令できるのは、教皇と神星騎士の『第一星』だけだ。
神星騎士の立場がいかに最上位であるかがわかるだろう。そのため、教会内の人間達は普通ならお目にかかることなどまずないルヴァンに対する畏怖と尊敬から緊張しているのだ。
ルヴァンはそんな空気を一切気にした様子もなく、とある部屋に入っていった。
「お疲れ様です、ルヴァン様。お戻りになられたのですね。いかがでしたか、周辺の状況は?」
室内にいた真紅の騎士服を着た若葉色の髪の青年が迎える。エンブレムには七芒星があるが、頂点は輝いていない。彼は星騎士ということだ。
「ああ、穏やかなものだった。人間のしぶとさを感じたよ」
どうやらルヴァンは、一人でオルス周辺の町や村を見て回り、たった今戻ってきたようだ。
「そうですか。教会としてもオルミナス王国には随分尽力してますし、順調に復興しているようで何よりですね」
「ああ、そうだな。しかし、すまなかったな、ジークハルト。こんな機会でもなければ町や村の様子をただ見て回るなどできなかったこととはいえ、結果としてきみには一人でここに留まってもらうことになってしまって」
「いえ!ルヴァン様に謝っていただくようなことではありません。いつ聖女様が到着されるかわからないのですからこれは私の役目です」
青年、ジークハルト=レスセイムが真面目な顔で答える。彼は、十五歳という若さで、最年少星騎士となった。申し分ない実力は確かにあるのだが、星騎士に抜擢されたのには彼の出自が大きく関係していることは間違いないだろう。
「おいおい、フレイ嬢は確かに聖女だが、きみ達は年も同じで幼い頃から知らない仲ではないのだろう?それに、今は婚約するかもしれない間柄だ。聖女様なんて他人行儀な呼び方をすることはないと思うがね」
「それとこれとは関係ありません。今は任務中ですから」
「真面目だな、きみは。だが、このオルスでフレイ嬢をお出迎えするという今回の任務が我々に与えられたのは、間違いなくきみのお父上である教皇聖下がきみ達二人のことを慮ってのことだぞ?」
そう、ジークハルトは現教皇の息子なのだ。彼がいることも教会内の緊張を高めていた。
「それは……。本当にすみません……。ルヴァン様にご迷惑をおかけしてしまい……」
ジークハルトは心底申し訳なさそうに頭を下げた。本来なら慰問先での聖女の出迎えなんていう任務が星杯騎士団に、それも神星騎士に下されるなんてありえないことをジークハルト自身よく理解しているからこその言葉だった。自分達の婚約話が出ていることも政治的な意味合いが強いことを理解している。これに対し、ルミナスト枢機卿が正式な回答を避けているのが現状で、教皇の命令で仕方がないとはいえ、ルヴァンは本当にただ自分達に付き合わされているだけなのだ。それがジークハルトには心苦しかった。
一方、謝られてしまったルヴァンは苦笑を漏らした。
「そういうつもりではなかったのだがな……。これは聖下からの命令だ。ジークハルトが気にすることではないさ。いや、そもそも私が余計なことを言ってしまったせいだな。忘れてくれたまえ。それよりもフレイ嬢はまだ到着していないのか?」
「はい、遅れているようです。予定ではもう着いてもいい頃ではあるのですが……」
「ふむ……。少々心配だな」
ルヴァンは顎に手をやりながら真剣な声で呟いた。
「心配、ですか?聖女様一行はオルミナス王国内をただ慰問して回っているだけですが……?護衛もいて、経路である街道は整備されているので十分安全ですし、危険などはないかと思うのですが……」
ジークハルトは心配なんてする必要がない、と言いたいようだ。それをルヴァンはしっかりと理解した。
「あまり冷たいことを言ってやるな。それに、護衛がいるということが逆に心配の種になっているのだよ。フレイ嬢には教会騎士が三人もついているにもかかわらず予定よりも遅れているという事実をもう少し重く受け止めるべきだろう」
「はい……」
ルヴァンに窘められてもジークハルトはあまり納得していなかった。教会騎士にとっても聖女は特別な存在のため、彼女の護衛という任務は彼らにとって誉れと言っても過言ではない。そんな彼らが聖女に対し必要以上に気を遣うだろうことは十分に考えられるため、単純に休憩を多く取ったりしてゆっくり進んでいるだけだろうとしか思えなかった。
「フッ、ではこうしようか。さっきは私一人で行動させてもらったからな。今度は私がここで待っているからジークハルトも気晴らしを兼ねた遠乗りのつもりで、今から聖女一行の元に向かってくれないか?経路はわかっていることだしな。こちらから迎えに行くというのも今回の任務の性質に合ったものだろう」
ルヴァンはジークハルトの気持ちも汲んで、そんな提案をした。
「はっ!では、すぐに出発致します」
星騎士といっても、基本単独行動の神星騎士と関わることはほとんどないが、神星騎士達は少々難しい性格をしているという噂をジークハルトも聞いたことがある。だが、ルヴァンだけは星騎士の面倒見がよく、時々稽古をつけてくれたりもする。ルヴァンは非常に温厚かつ理知的で、部下である星騎士に対しても常に物腰が柔らかく、その上で実力は折り紙つきときている。だからだろう、星騎士からの信頼が厚く、ジークハルトもその例に漏れずルヴァンのことを尊敬していた。
そんなルヴァンの言葉を命令と受け取ったジークハルトは右手の拳を左胸に当てる正式な礼をして返事をし、すぐに命令遂行のため出て行こうとした。
そこに、ルヴァンが待ったをかける。
「ジークハルト、そのままの格好で行くつもりかね?」
ジークハルトが室内にある鎧を置いたまま剣だけを手に取ったからだ。
「はい、剣だけで十分です。それでは行ってまいります!」
ジークハルトは言いながら手に持った剣を軽く上げると、今度こそ出て行った。ルヴァンの言わんとすることはわかったが、鎧なんて不要だというのがジークハルトの考えだ。
その後、一人になった室内で、
「……ジークハルト、無知は罪だぞ?それも若さ故ということか…いや、人とは元来そういうものか。甘い考えでは何も守れずすべてを失うことになる。この世において安全などというものは幻想に過ぎないのだ。危険とは予期せぬもので、常に身近にあるものなのだよ……」
仮面に隠れて表情のわからないルヴァンは静かにそう呟いた。
そこに建てられている教会内は現在緊張感に包まれていた。その理由の大部分を占める人物がその中を歩いている。
その名は、ルヴァン=シュデッタ。仮面で顔の上半分が覆われており素顔は見えないが、その下からは白銀の髪が覗いている。
そして、希少金属であるミスリルで作られた彼の髪色にも似た白銀の鎧を着ていた。
その鎧のエンブレムは十字架に両翼、そこに重なるようにして七芒星が描かれており、七つの頂点のうち、一番上の頂点から右回りに三つ目の頂点が輝いているというデザインだ。
これは彼が星杯騎士団、その中でも七人しかいない神星騎士であることを示していた。そして輝く頂点の位置から彼が『第三星』であることがわかる。
星杯騎士団とは、教会という組織に所属する教会騎士とは違い、教皇直属の騎士団である。彼らは星騎士と呼ばれる、その実力を認められた選ばれし騎士達である。
そして、星杯騎士団の中でも、神から力を与えられた特別な存在だと言われているのが、七人の神星騎士だ。教会が世界に誇る最高戦力である。
神星騎士には枢機卿と同等かそれ以上とも言える程の権限が与えられており、自身の裁量で自由に行動できる上、星騎士への命令権も有している。ただ実際は一騎当千の突出した力を持つため、単独行動することが多い。
そんな神星騎士に命令できるのは、教皇と神星騎士の『第一星』だけだ。
神星騎士の立場がいかに最上位であるかがわかるだろう。そのため、教会内の人間達は普通ならお目にかかることなどまずないルヴァンに対する畏怖と尊敬から緊張しているのだ。
ルヴァンはそんな空気を一切気にした様子もなく、とある部屋に入っていった。
「お疲れ様です、ルヴァン様。お戻りになられたのですね。いかがでしたか、周辺の状況は?」
室内にいた真紅の騎士服を着た若葉色の髪の青年が迎える。エンブレムには七芒星があるが、頂点は輝いていない。彼は星騎士ということだ。
「ああ、穏やかなものだった。人間のしぶとさを感じたよ」
どうやらルヴァンは、一人でオルス周辺の町や村を見て回り、たった今戻ってきたようだ。
「そうですか。教会としてもオルミナス王国には随分尽力してますし、順調に復興しているようで何よりですね」
「ああ、そうだな。しかし、すまなかったな、ジークハルト。こんな機会でもなければ町や村の様子をただ見て回るなどできなかったこととはいえ、結果としてきみには一人でここに留まってもらうことになってしまって」
「いえ!ルヴァン様に謝っていただくようなことではありません。いつ聖女様が到着されるかわからないのですからこれは私の役目です」
青年、ジークハルト=レスセイムが真面目な顔で答える。彼は、十五歳という若さで、最年少星騎士となった。申し分ない実力は確かにあるのだが、星騎士に抜擢されたのには彼の出自が大きく関係していることは間違いないだろう。
「おいおい、フレイ嬢は確かに聖女だが、きみ達は年も同じで幼い頃から知らない仲ではないのだろう?それに、今は婚約するかもしれない間柄だ。聖女様なんて他人行儀な呼び方をすることはないと思うがね」
「それとこれとは関係ありません。今は任務中ですから」
「真面目だな、きみは。だが、このオルスでフレイ嬢をお出迎えするという今回の任務が我々に与えられたのは、間違いなくきみのお父上である教皇聖下がきみ達二人のことを慮ってのことだぞ?」
そう、ジークハルトは現教皇の息子なのだ。彼がいることも教会内の緊張を高めていた。
「それは……。本当にすみません……。ルヴァン様にご迷惑をおかけしてしまい……」
ジークハルトは心底申し訳なさそうに頭を下げた。本来なら慰問先での聖女の出迎えなんていう任務が星杯騎士団に、それも神星騎士に下されるなんてありえないことをジークハルト自身よく理解しているからこその言葉だった。自分達の婚約話が出ていることも政治的な意味合いが強いことを理解している。これに対し、ルミナスト枢機卿が正式な回答を避けているのが現状で、教皇の命令で仕方がないとはいえ、ルヴァンは本当にただ自分達に付き合わされているだけなのだ。それがジークハルトには心苦しかった。
一方、謝られてしまったルヴァンは苦笑を漏らした。
「そういうつもりではなかったのだがな……。これは聖下からの命令だ。ジークハルトが気にすることではないさ。いや、そもそも私が余計なことを言ってしまったせいだな。忘れてくれたまえ。それよりもフレイ嬢はまだ到着していないのか?」
「はい、遅れているようです。予定ではもう着いてもいい頃ではあるのですが……」
「ふむ……。少々心配だな」
ルヴァンは顎に手をやりながら真剣な声で呟いた。
「心配、ですか?聖女様一行はオルミナス王国内をただ慰問して回っているだけですが……?護衛もいて、経路である街道は整備されているので十分安全ですし、危険などはないかと思うのですが……」
ジークハルトは心配なんてする必要がない、と言いたいようだ。それをルヴァンはしっかりと理解した。
「あまり冷たいことを言ってやるな。それに、護衛がいるということが逆に心配の種になっているのだよ。フレイ嬢には教会騎士が三人もついているにもかかわらず予定よりも遅れているという事実をもう少し重く受け止めるべきだろう」
「はい……」
ルヴァンに窘められてもジークハルトはあまり納得していなかった。教会騎士にとっても聖女は特別な存在のため、彼女の護衛という任務は彼らにとって誉れと言っても過言ではない。そんな彼らが聖女に対し必要以上に気を遣うだろうことは十分に考えられるため、単純に休憩を多く取ったりしてゆっくり進んでいるだけだろうとしか思えなかった。
「フッ、ではこうしようか。さっきは私一人で行動させてもらったからな。今度は私がここで待っているからジークハルトも気晴らしを兼ねた遠乗りのつもりで、今から聖女一行の元に向かってくれないか?経路はわかっていることだしな。こちらから迎えに行くというのも今回の任務の性質に合ったものだろう」
ルヴァンはジークハルトの気持ちも汲んで、そんな提案をした。
「はっ!では、すぐに出発致します」
星騎士といっても、基本単独行動の神星騎士と関わることはほとんどないが、神星騎士達は少々難しい性格をしているという噂をジークハルトも聞いたことがある。だが、ルヴァンだけは星騎士の面倒見がよく、時々稽古をつけてくれたりもする。ルヴァンは非常に温厚かつ理知的で、部下である星騎士に対しても常に物腰が柔らかく、その上で実力は折り紙つきときている。だからだろう、星騎士からの信頼が厚く、ジークハルトもその例に漏れずルヴァンのことを尊敬していた。
そんなルヴァンの言葉を命令と受け取ったジークハルトは右手の拳を左胸に当てる正式な礼をして返事をし、すぐに命令遂行のため出て行こうとした。
そこに、ルヴァンが待ったをかける。
「ジークハルト、そのままの格好で行くつもりかね?」
ジークハルトが室内にある鎧を置いたまま剣だけを手に取ったからだ。
「はい、剣だけで十分です。それでは行ってまいります!」
ジークハルトは言いながら手に持った剣を軽く上げると、今度こそ出て行った。ルヴァンの言わんとすることはわかったが、鎧なんて不要だというのがジークハルトの考えだ。
その後、一人になった室内で、
「……ジークハルト、無知は罪だぞ?それも若さ故ということか…いや、人とは元来そういうものか。甘い考えでは何も守れずすべてを失うことになる。この世において安全などというものは幻想に過ぎないのだ。危険とは予期せぬもので、常に身近にあるものなのだよ……」
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