こどくなシード 異世界転移者の帰還道

藤原 司

文字の大きさ
1 / 201
異世界転移は唐突に

プロローグ

しおりを挟む

「あっリン君」

「先輩……」

「図書委員の仕事は終わったの?」

「終わりましたよ 今帰るところです」

「気をつけて帰って……って貴方には余計なお世話だったかしら?」

「どう言う意味ですか? それ」

 意味深な発言にムッとした表情で先輩に尋ねる。

「いつかわかると思うわ」

 そんな後輩に対して不敵な笑みとともに口元に指を当ててフフフッとウィンクしてみせる。

 何かを隠す先輩。だがさほど興味が湧かなかった青年は、どうでもよさそうに大きなため息を吐く。

「それじゃあ理解できるように努力しときますのでそれではまた」

「ええ また明日」

 そう言われると青年は階段を降りていく。タイミングを計っていたのか、少しすると教室から生徒達が出できた。

「先輩……行きました?」

「ええ 行ったわよ」

「よかった~ワタシあの人苦手なんですよ~」

「あら? 私は好きよ」

「え~マジっすか~? あの人暗いじゃないですか~」

「暗いんじゃなくて慣れた人じゃないとあまり話さないだけなのよ」

「でもいつも不機嫌そうな顔してるし~」

 指で自らの眉間にわざとらしく皺を寄せて真似して見せる。
それを見てキャハハと笑いながら、似てる似てないとジャッチが下されていた。

「あ~あとそれになんか壁作って人と距離置こうとしてんですよね~えっと確か名前は…」

「『優月ユウヅキ リン』でしょ~あんた同じクラスなんだから覚えときなさいよ」

「まっまだ学校始まって三カ月だしセーフセーフ!」

「ハイハイ それじゃあ先輩! 私たちこれで失礼しますね」

 そう言うと後輩達は帰り出す。どこどこのショップのアクセサリーが可愛いやらあそこの店のクレープが美味しい…… etc.。

 寄り道先について談義する。そんな後輩達を見送るために軽く手を振った後、校門側の窓を見て見ると先ほどの話題になった人物『優月 輪』が帰ろうとする姿が見える。

窓に手を当て懐かしむように。

「いつか……ね」

その言葉を、笑みを浮かべ囁いていた。

「おっリンじゃん! ちょうど俺も帰るところだから一緒に帰ろうぜ」

 リンを呼び止める声。いつもの事だとため息を吐く。

「どうせ断っても帰る方角は一緒だろが」

「まあまあ! 細かいことは気にすんなよ」

 門を出たすぐ先で待っていたのはリンの数少ない友人。
いつもならこの時間には帰っているのだが、部活でもあったのだろうかと思うが口には出さない。

「なあなぁ~今度の休み遊園地行こうぜ!」

「男二人でデート? 新手の罰ゲームか何かか?」

「バッカお前! それ口実に先輩誘ってこいよ 仲良いんだろ?」

 先程の先輩は、実は校内ではとても有名だった。

 才色兼備で文武両道、おまけに面倒見良しと学年問わず慕う者は多いのだ。

 完璧すぎてお近づきになる事に(特に男は)躊躇してしまうのだが、何故かその先輩はリンのことをよく気にかけていた。

「お前それが本音だろ」

「あれ? バレた?」

「バレバレだ」

「でもお前休みの日にはいつも予定入れてんだろ? いつもなにして……ハッ!? まさかデート!?」

「そうだといいな」

 はぐらかすリンを見て焦りを隠せない友。

「頼むぞリン! オレ達の友情は永遠なんだからな!」

 彼女いない同盟をいつの間にか勝手に結成され、そんな同盟と一緒に誓われる友情にリンは呆れてしまう。

「その程度で無くなる友情なら捨てても構わんぞ」

 くだらない会話、そんな事を話してるいつも通りの平和な学園生活、明日明後日の話しが当たり前のようにできるこの日常。

 その『当たり前』と言う幸せを、ちゃんとリンは理解している。

 だから、リンは自分を許せなかった・・・・・・・・・
そんな資格は俺にはないのにと、もっと他にこの幸せを知らなくちゃいけない人がいるのにと。

「じゃあな」

「おう! 約束忘れんなよ!」

「守って欲しいなら契約書でももってこい」

 いつもの十字路でいつも通り別れる。あいつは人の話を聞かないからまた後で念を押しておこうと心に決める。

(……今日も行こう)

 心の中で『いつもの場所』に行くと決めた。ほぼ毎日行くため、休日の予定は埋まっている。
どこに行くかは一部の人しか知らないだろう。

そして、ここまでの『日常』は『非日常』によって壊された。

(なんだ……あれは?)

 いつもの場所に行くために、先へ進もうとしたのだが、目の前に大きな『穴』があらわれた。

 穴が壁や地面にあるのはまだわかる。だが異常なのはその穴は目の前、それはなにもない・・・・・空間に出現したのだ。

 その見た目はまるでブラックホールのように真っ黒であり、そのまま穴に吸い込まれてしまいそうだった。

 そしてそれは比喩ではなかったとすぐにわかる。

(なっなんだ……!? 身体が吸い寄せられて!?)

 身体が穴に向かって吸い込まれて行く。引き寄せる力が強すぎるうえに、何か電柱でもあれば掴まれたのだろうが、あいにく周りにそういったものは無い。

もっとも、あったところで長くは持たないだろう。

(もう……ダメだ)

 いくら考えてもいい案が思いつかない。吸い込まれるのは時間の問題だろう。そう思うと昔のことがフェードバックしてくる。

(ああ……コレが走馬灯ってやつか)

 諦めが肝心と言う言葉が頭をよぎる。その方が楽だと囁かれた気がして、身を委ねることにした。

(俺が死んでも……どうでも良いか)

 諦めて吸い込まれた瞬間、優月輪は『この』世界から消えた。





 自分が嫌いだ。

自分が好きだと言う人は少ないと思うが、自分は人一倍嫌っていると思う。

 人は『十人十色』と言うが、それが良い事だとは決まっていない。むしろ、その中で差が生まれ差別や偏見をしてしまう。

この言葉の意味を理解しているのならそんなもの生まれないはずだ。

  人は『隣の芝生は青い』と言うが、思った事はない。何故ならよく見えたものが、自分にとって本当に活かせるかは別の話だからだ。

 人と比べて自分を嫌う。そう言う事では無い。

 いつも考えてしまう。自分はなぜ──。

 そんな想いは、今"目の前の事を解決してから"考えよう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

処理中です...